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#ハッピーエンド
日埜和なこ
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#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
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色とりどりの薔薇が咲き誇る初夏。
雲一つない青空の下で、アデルハイム王国第三王子エヴァンは少し幼さの残る青い瞳を輝かせ、横に立つ麗しい妃へと微笑えんだ。
真っ白なベールが初夏の優しい風で翻り、豊かな髪が揺れた。赤みがかった金の髪は朝露をまとわずとも輝き、純白のベールとともに飾られる薔薇の花に負けず劣らず美しい。 まるで陶器人形のように肌が白く、整った顔立ちの王子妃が笑顔を浮かべた。
薔薇が咲き誇る庭園に集まった群衆はバルコニーを見上げ、歓喜の声を上げる。
誰もが、エヴァン王子殿下と王子妃の結婚を祝福していた。二人そろって美しい手を振れば、さらに歓声が沸き上がる。
御年十九になるエヴァン王子殿下のお妃様はお妃候補の令嬢ではなく、魔術アカデミーで出会った級友の伯爵令嬢だった。巷で流行りの恋愛小説、悪役令嬢の妨害を潜り抜けて王子と真実の愛を貫き通すなんて、劇的な背景は一切なかった。だけど、二人はアカデミーで誠実に愛を育んだのだと、市井でまで噂が広がった。
政略結婚が当然の貴族の中で、恋愛結婚を貫いた。それも一国の王子が!
それだけで、花の精のごとく美しい王子妃ミルドレッドが国民から歓迎されるには十分だった。
まるで恋愛小説の挿絵。いいえ、おとぎ話のお姫様のように微笑んでいるのは、私……ではなく、私のお姉様。
周囲から「伯爵家の娘だなんてとんでもない」と大きな反対はなく、エヴァン王子殿下の後ろ盾でもあるロックハート侯爵様も大歓迎してくださったそうだ。でも、ロックハート侯爵家と対立するペンロド公爵家の夫人が反対したことで、婚姻の話が危ぶまれたこともあるって、私は知っている。
もしもエヴァン王子が王太子だったら、妨害が企てられたかもしれない。そうお姉様も仰られていたけど、ついにこの日を迎えられたのね。
やっと、やっと結ばれたのよ!
この晴れ渡る空は、きっと、王子殿下とお姉様を歓迎しているんだわ。だって、見つめ合う二人の瞳が晴れ渡る青空のように輝いているもの。
「お姉様、幸せになってね」
幸福感を噛みしめながら小さく呟くと、横に立つお父様が冷たい瞳をこちらに向けた。
「お前も、姉を見習って良き伴侶を得よ」
「……はい。お父様」
「ヴェルヘルミーナも、もう十二ですものね」
お父様の後ろにいた継母、ケリーアデルは扇で口元を覆いながら笑うと私の耳元へと赤い唇を寄せた。くるくるに巻かれた栗毛色の髪が私の頬を擦り、甘ったるい香水がまとわりつくように鼻を刺激する。
「無能なお前に、良き縁談などあるものですか」
私だけに届けるように囁かれた低い声が、胸に深く突き刺さる。
お姉様の結婚を誇らしく思い、浮かれていた気持ちが地の果てへと引きずり込まれていく。
私を守ってきたお姉様は、もう側にいない。そう突きつけられたようで、私を見下ろしている継母の笑みが、いつもに増して不気味だった。
その姿をやけに大きく感じ、息を呑んだ時だった。
「お前たち、無駄話もほどほどにしなさい」
お父様からかけられた言葉は、いつもと変わらず淡々としていた。
私が継母と喜んで無駄話をするなんて、一ミリもあり得ない。継母から向けられる言葉は、いつだってナイフのようで苦しく辛いだけのものよ。だから、母娘の会話なんて一度だってしたことがない。
なのに、お父様は全く気付いてくれやしない。まるで、私に向けられた継母の声が、お父様には欠片も届いていないみたいだわ。
重なるドレスのレースに隠して拳を握り、静かに「はい、お父様」と返事をすれば、お父様は私から視線を逸らした。
「この後、ペンロド公爵様にもお会いする。失礼のないように」
「ヴェルヘルミーナ、お行儀良くしているのですよ」
お父様の横で勝ち誇ったように笑う継母は、歪む口元をその煌びやかな扇子で隠した。
どっちがよ。性悪女はその扇子がないと、根性の曲がった笑顔を隠せなくて大変ね。そう、大声で言い返せたらどんなに気分がすっきりしただろうか。
お姉様にお声掛けをしたい気持ちはあるわ。でも、継母の横で「娘のヴェルヘルミーナです」て挨拶するくらいなら、家に帰って床を磨いていた方がマシよ。
いっそうのこと、ここから逃げ出せたらどれほど気が楽だろう。
そもそも、この後のお披露目には国内外から多くの諸侯が集まるのよ。政治的な話ばかりに決まっている。子どもの私には楽しいことなんて、きっとない。
でも、私は逃げ出せない。
コメント
1件
おお、めちゃくちゃ良かった…! まず冒頭の薔薇の描写から姉・ミルドレッドの幸福感がびしびし伝わってきて、こっちまで顔が綻んだわ。でもそこから一転、ヴェルヘルミーナの内面と継母のキツい言葉で空気がガラッと変わるところ、構成が巧いなと思った。 華やかな結婚式の裏で、12歳の娘をナイフみたいな言葉で刺す継母に、無関心な父親。この温度差がすごく刺さる。 「逃げ出したいけど逃げ出せない」って感情、めっちゃ分かるし、続きが気になりすぎる…!🔥