テラーノベル
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舞台の幕が、静かに上がった。
司会者が高らかに宣言する。
「これより関西大会一回戦、第一試合を開始します!選手を紹介します。京都府代表、洛北祥雲学園、久条亜里沙!奈良県代表、西大寺学園高等学校、望月聡!入場してください」
結城莉奈はステージに向けて、小さく声を漏らした。
「うそ、久条、いきなりトップバッター?主役なのに、トリじゃないとか逆にウケるんだけど」
「それでは、ディベートテーマを発表します『理不尽な指導者に対し、生徒が力で反撃することは正当化されるか』!」
山中が俺に囁いた。
「即興型ディベート!お題はその場で発表される。シビアなルールだな」
壇上では、久条と奈良代表の望月聡が、向き合っている。
コイントスの結果、久条は肯定側となった。
司会者は台本を手に、一歩下がって、ステージ全体を見渡した。
「両者には、これより三分間の準備時間が与えられます!」
斎藤は腕を組んで、壇上を鋭く見つめながら言った。
「たった三分で、テーマに沿った論理構築ができるのかまさに即興の極致だな」
あっという間に三分が経過した。
「使用言語は英語のみです!それでは、先行、肯定側・久条亜里沙。スピーチを開始してください」
マイク越しに響いたその声が、場内の緊張を一段と高めた。
観客の視線が一斉に壇上へと注がれる。
まずは久条の四分間の立論スピーチから始まった。
久条が、最初の一言を英語で発した瞬間。
ステージ後方の巨大スクリーンに、その言葉がリアルタイムで美しい日本語へと翻訳され、映し出された。天宮財団の技術力か。観客はストレスなく、この高度な知性の戦いを観戦できるというわけだ。
久条の、その完璧な発音と流れるような論理展開。
会場の空気が、彼女の色に染まっていく。
俺は久条をスキャンした。
【Target: 久条 亜里沙】
【論理構築力:S+】【表現力:S】
次に望月の反論スピーチが終わると、試合は次の段階へと移行した。
斎藤の目が鋭く光る。ディベート経験者ならではの分析だ。
「来たな、クロスエグザミネーション矛盾が丸裸になる時間」
結城も真剣な表情で、ステージを見つめている。
「うん相手の隙を見抜いて反撃。ここが本当の勝負所ってやつね」
その斎藤の言葉通りだった。
質疑応答の時間になった瞬間、久条は牙を剥いた。
彼女は望月の主張の僅かな矛盾点を的確に、そして容赦なく突き、彼の論理を完膚なきまでに、破壊していく。
望月は完全に沈黙させられた。
【反論力:S+】
柴田は拳をぎゅっと握りしめながら、小声でつぶやいた。
「あとは再主張と最終ステートメントか。ここでどんだけ自分が優れてたか、審査員に思わせられるか、それが決め手だ!」
試合が終わった。結果は明白だった。
司会者がマイクを掲げ、観客席に響き渡る声で言った。
「それでは判定に入ります!オンラインでご覧いただいているアメリカの高校生審査員100名の皆様、今から投票をお願いします!」
スクリーンに「Live from USA」と書かれたロゴが表示された瞬間、山中は椅子から乗り出した。
「えっ!?アメリカの高校生が向こうで審査してんの!?ヤバすぎんだろこれ!」
会場のスクリーンにアメリカの高校生百人によるオンライン投票結果が表示された。
【87 vs 13】
圧勝だった。
ミラー:「見たか奏。あれが女王の戦い方だ。一点の情けもない」
奏:「ああ。俺はとんでもない怪物を敵に回したらしい」
俺は、そのあまりにも圧倒的な実力差に、ただただ戦慄していた。
大会初日の全試合が終了した。
俺と山中はホールのロビーへと向かう。
ことりと一色先輩の姿はもうどこにもなかった。
ロビーの一角に柴田、斎藤、そして結城たちがいた。
彼らはもちろん帰らない。
ただ一点、選手用の出口だけをじっと見つめている。
彼らは女王の帰りを待っているのだ。
久条は選手用のモニター室で、この日の全試合を観戦することになっていた。
やがて、その扉が開き、久条亜里沙が一人で出てくる。
彼女の顔には、僅かな疲労の色が浮かんでいた。
その彼女の元へ、結城が駆け寄り、タオルとスポーツドリンクを差し出す。
「亜里沙。お疲れ様。素晴らしかったわ」
柴田が興奮して言う。
「亜里沙!マジはんぱねえな!明日もブチかましてくれよ!」
斎藤が静かに頷く。
「見事な勝利だった。明日も期待しているよ」
その三人からの温かい言葉。
仲間からの純粋な「信頼」と「期待」
それを浴びた久条亜里沙のその完璧な女王の仮面が、ほんの一瞬だけ緩んだ。
【感情:疲労(60%) 安堵(40%) そして仲間への僅かな感謝(20%)】
そして彼女は本当に嬉しそうに、そして少しだけ、はにかむようにこう言うのだ。
「ええ。ありがとうみんな。明日も必ず勝つわ」
斎藤が付け加える。
「ああ。明日の準々決勝と準決勝、それに勝てば全国への切符が手に入る。油断はするなよ」
その言葉にElysionの女王は力強く頷いた。
明日、ここで関西代表の二名が決まる。
ミラー:「なるほどな。あれが女王の力の源泉か」
奏:「ああ。ただの独裁者じゃない。彼女は彼女なりに仲間から信頼されている。厄介な敵だ」
俺はその光景を目に焼き付けながら、静かにホールを後にした。
十色
280
京太郎@ドラマ部門1位獲得
2,162
コメント
1件
お疲れさま、第72話読んだわ! 久条さんの圧巻のディベート、めちゃくちゃかっこよかったな。即興で英語のディベート、しかも87対13の圧勝って…女王の真価を見せつけられた気分だわ。特にクロスエグザミネーションで相手の矛盾を突いて黙らせるシーンは鳥肌立った🔥 でも何よりグッときたのは、試合後に仲間たちが待っててくれて、久条さんが一瞬だけ仮面を緩めて「ありがとう」って言ったところ。あれで女王がただの孤高の天才じゃないって伝わってきた。明日の準々決勝・準決勝も楽しみにしてるわ!