テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

森は、いつも静かだった。


その静寂は恐れや死によるものではなく

まるで森そのものが

神聖なる存在の眠りを妨げぬよう

息を潜めているかのようであった。


その奥深く──

常の光も音も届かぬ地に

ミッシェリーナの一族は身を潜めていた。


彼女たちは、魔女の中の魔女。


すなわち、光の神を宿す〝血統〟である。


人の世に喩えるならば、帝の系譜。


神秘を統べる者の頂点に立ち

その存在は伝承の中でさえ崇められ

畏れられ

決して触れてはならぬ

〝秘された血〟とされた。


だが、その血はあまりにも〝強すぎた〟


不死鳥──


生命を司り

あらゆる奇跡を体現する神獣を

その身に宿す一族。


彼女たちの血は腐ることなく

いかなる毒も病も寄せつけぬ。


その滴は傷を癒し

老いを遠ざけると囁かれ

その涙は、結晶となって宝石に変わり

祈りに応じて願いすら叶えると恐れられた。


それゆえに──

彼女たちは、世界の欲望に晒されていた。


幾度となく、狩られた。


愛と偽りを装い近付く者

聖なる名の下に滅ぼさんとする者。


文明の影に蠢く貪欲が

その血と涙を求めて牙を剥くたび

ミッシェリーナの者たちは

より深く森へ

闇の奥へと身を隠していった。


そして、そんな一族の長に生まれた娘──

それが、アリアであった。


彼女の誕生は

定められた〝光〟の循環の一端でもあった。


光の神は、ただ一つの身体に宿る。


不死鳥は、永遠を生きるが

決して完全無欠ではない。


その力は、あまりにも眩しく

あまりにも絶対であるが故に──


闇を孕む。


どこまでも深い

呑み込まれるほどの影を。


その闇を拭い、光を澄ませるために

不死鳥には定めがあった。


五百年に一度〝討たれる〟という宿命を。


代々の不死鳥は、その宿命を拒まなかった。


自らが生き長らえれば

光はやがて堕ち

世界に災いを齎すことを

よく知っていたからである。


その時が来れば

他の魔女一族の〝転生者〟たちが目覚める。


それぞれの一族の長の魂を継ぎ

過去の記憶と能力を宿して

この世に再び現れる。


そして

彼らは必ず一堂に会し、不死鳥を討つ。


その儀は決して復讐や対立ではなく

循環のための

〝祝祭〟であり〝贄〟であった。


かつて、アリアの母──

先代の女皇帝もまた

その運命を受け入れた一人であった。


時を同じくして転生した魔女たちと共に

不死鳥の力を受け継いだ己が神を

その手で葬った。


不死鳥は、死をもって禊ぎを終え

焼け焦げた残骸の中から

輝く雛として再びこの世に産まれ出る。


儀が終わった夜。

静まり返った森に

命の響きが再び芽吹くように

女皇帝は

自らの胎内に新たな不死鳥を抱えた。


その中で、雛は蠢いていた。


命の根源が

胎の中でゆっくりと脈打ち、育ってゆく。


母の胎内でアリアの命と共に。

宿命の始まりと共に。


そして、その瞬間──


彼女の母は、不老不死ではなくなった。


宿命を継がせたことで

ただの一人の女として老い

やがて、朽ちることを許された。


それは祝福であり、解放であり

そして何よりも

次代への静かな〝祈り〟だった。


こうして、光の神を宿す新たな女皇帝が

この世に生を受けたのである。


名を──

アリア・ミッシェリーナ




紅蓮の嚮後 〜桜の鎮魂歌〜

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

630

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚