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こんにちは!こうちゃです。

中世ドーヴァーの続きになります。

モブが結構出てくるので苦手な方注意。

高熱で精神までやられちゃったちび🇬🇧がよく泣きます。🇫🇷もまだ幼いので察しが悪いです。

そんなふたりで良ければどうぞ!





ゆっくりと瞼が開かれ、大きなペリドットの瞳が現れた。その瞳にはうっすらと涙の膜が貼っていてゆらゆらと不安げに揺れている。


「…あ、起きた?」


イングランドは不思議そうに視線を彷徨わせたあと、俺を見つけて安心したように目を細めた。


「…ふあ、んす…?」


「お前ってば急に寝ちゃうから、俺が仕方なく連れてきてあげたんだよ」


このまま森にいても埒が明かないと判断した俺はイングランドを抱えて急いで森を抜けた。人里に降りてきたあとは家という家を尋ねて事情を話し、助けてくれないかと頼み込んだ。その努力のかいあってか心優しい老婦人が家にあげてくれ、風邪とはどういうものなのかを細かく説明してくれたのだ。


「もう、本当に大変だったんだから!」


長く生きているとはいえ見た目は幼い子供二人だし、お金だって多くは持ち歩いてない。扉が開いたと思ったらすぐ目の前で閉まったり、その服を脱いでくれるならとかいう変態までいたのだ。全くたまったもんじゃない。


「…おまえ、かえりは…?」


「…今日はここに泊まるよ。もう最後の船が行っちゃったし」


イングランドの頭の上のタオルに手を当てるともうぬるくなっていた。冷たい水の中にタオルを浸し、絞ってもう一度頭の上に乗せてやる。


「どこか、痛い?」


「……あつい」


ぼんやりとそう呟いたイングランドの頬に手を伸ばすと尋常じゃない熱さが伝わってきて、思わず顔を顰める。


「……ん、んっ…」


さっき冷水に触れた俺の手の冷たさが心地良いのか、弱々しく擦り寄られてふっと笑みが零れた。今日はいつもより随分素直だ。


「あら、起きたの?」


しばらくそうしていると背後からそっと優しく声をかけられる。


「うん、ついさっき」


「あらそう、良かったわねぇ」


にこにこと笑顔を浮かべる彼女は俺たちを助けてくれた救世主だ。家の中に入れベットを用意し、俺に看病の仕方を教えてくれた。


「スープを作ったんだけど、飲めるかしら?」


知らない人間に警戒しているのか身体を強ばらせるイングランドの代わりに俺が頷く。


「多分大丈夫だと思う。ありがとう」


「いえいえ、早く良くなるといいわねぇ」


そう言って怖がらせたら悪いからと出ていく彼女に再度お礼を告げて見送った。出来立ての温かな湯気が漂うそれを一口だけ飲んでみる。


「…うん…味も美味しいし毒もないかな」


いくら頑丈な身体であるとはいえ、辛い時に毒を喰らってしまうのは可哀想だ。元気な時にだって喰らいたくはないけれど。


「ほら、あーん」


「……あ…」


いつもなら子供扱いするなと怒り出すものの、今日はその気力もないのか大人しく口をぱかりと開ける。詰まらすことのないよう少量ずつ食べさせるとスピードは遅いが上手く飲み込んでくれているようだった。


「……ん、く…」


掬って口に運ぶという動作を繰り返して何度目かでふとイングランドの動きが止まる。酷く辛そうにスープを飲み込むイングランドを見て俺はスプーンの動きを止めた。無理をさせないように、と彼女に言われた言葉を思い出して頭を撫でてやる。


「はい、もうおしまい」


「…でも、それ、のこって…」


「だーめ。無理したらまた気持ち悪くなるよ」


先程の嘔吐を思い出したのだろう。怯えるように布団を握りしめたイングランドにあとは俺が食べとくからとスープ皿を遠ざける。


「ほら、お前はもう寝ちゃいな」


食事に体力を使ったのだろう。眠たそうに瞼をぱちぱちと動かすイングランドに苦笑して布団をかけてやる。しばらく頭を撫でてやると次第に小さな寝息が聞こえてきた。決して穏やかではないが、風邪の時はそんなものなのだろう。俺は起こさないようにそっと部屋を後にした。



「あら…手際がいいのねぇ」


「ふふん…俺、料理は得意なんだ」


イングランドが眠りについたあと俺は何かお礼をさせてくれと老婦人に頼んだ。彼女は少し考えたあと得意なことは何かと尋ねてきたので料理だと答え、一緒に夕食を作ることになったのだ。


「次は何をすればいい?」


「そうねぇ…貴方がくれた美しいものをお皿の上に乗せてくれるかしら?」


「もちろんっ!」


イングランドに自慢するために持ってきたエショデ達はどうやら無駄にはならずに済みそうだ。美しいものと褒められたのが嬉しくてうきうきと皿の上に乗せているとガタン、とものが落ちたような変な音がした。首を傾げていると後ろからスルリとお皿が回収される。


「ありがとう、助かったわ。ここはもういいから、もうそろそろあの子を…」


彼女の言葉を遮るようにガタガタと扉が揺れる。まさかと思い急いで駆け寄ってドアノブを捻ると、大粒の涙を浮かべたエメラルドが現れた。


「……っ、ひぐっ、ぅ…」


「わ、ちょっ…!」


よたよたと危なっかしい足取りで歩いてくるイングランドを慌てて抱きとめる。


「…っうあぁ、ぁ…」


「ど、どうしたの…?どこか痛いの?」


ただ涙を流し続けるイングランドに問いかけても泣き声が帰ってくるだけだった。熱を持った身体をぎゅっと抱きしめると、より泣かれてしまってどうすればいいのか分からない。助けを求めるように視線を送ると彼女は穏やかに笑って答えを教えてくれた。


「あらあら…きっと寂しかったのねぇ…起きた時にひとりぼっちは、心細いわよねぇ…」


「…寂しい…?」


「風邪の時は悪い夢を見たり、嫌なことを考えてしまうものなのよ。あぁ…もしかしたら置いてかれちゃったと思ったのかしら」


「そんな、こと…」


しない、と言いかけてはっと口を噤む。俺はいつも日が落ちる前には船に乗って自国へと帰る。今日も帰ってしまうのではないかと、置いてかれるのかと…怖かったのだろうか。彼女は黙ってしまった俺を気にも止めずに、にこやかに笑って俺の背を押す。


「…ここはもういいから、その子のそばにいてあげて頂戴」


「うん、わかった。ありがとう」


その気遣いに感謝しつつ、イングランドを抱えて部屋へと戻った。



「…もー、今日は帰らないって言ったでしょ」


「…っえぐ、うあぁ…!」


なかなか泣き止まないイングランドをベッドに寝かせて落ちていたタオルを乗せる。


「あんまり泣くと熱が上がっちゃうよ」


とめどなく溢れてくる涙をそっと指で掬う。しばらくそうしていると段々と落ち着いてきたのか、熱の篭った瞳をぼんやりとこちらに向けてきた。


「…ふら、ん……」


「ん?どこか痛い?」


汗で張り付いた前髪を払ってやりながらそう聞くと、イングランドはふるふると首を横に振った。そしてグリーンアイをフラフラと彷徨わせたあと、恐る恐る口を開く。


「…かえら、ない…?」


まるで迷子のようなその顔にズキンと胸の奥が痛む。


「…今日は一緒にいるって言ったでしょ」


泣きたいような、抱きしめてやりたいような衝動をグッとこらえてそう答えると、イングランドは安心したように息を吐いた。


「…ほら、しんどいでしょ。もう少し寝てな」


「…やだ」


眠たそうに瞬きを繰り返しているくせに、必死に首を振るイングランドに顔を顰める。


「寝ないと良くならないよ?」


「……っやだ…!」


そのあまりの頑固さに呆れつつ、こんな風に子供のような我儘を言うイングランドなんて初めてで、何だか背中の方がムズムズする。


「もー、仕方ないなぁ」


しっかりとかけられていた毛布を少し捲ってその隙間に滑り込む。


「……?ふら…?」


「…ほら、俺はここにいるから」


イングランドは目を見開いて俺をじっと見つめたあと、へにゃりと頬を緩ませた。いつも生意気な顔しか見せないくせに、こういう時だけそんな穏やかな顔するなんてずるい。火照った頬を紛らわすようにトントンと一定のリズムでお腹を叩いてやると、次第にイングランドの目がとろとろと溶けてゆく。


「……ふら、ん…」


「…なあに?」


ほとんど閉じかけのエメラルドが俺を捉えて、少しかさついた唇がゆっくり動く。


「…あれ…また、たべたい…」


「あれって?」


「…ん、きょう…おまえがくれたの…たべ…たい…」


それだけ言い残して完全にその目が閉じられたのを見て思わずふっと吹き出す。


「…ふ、お前はこんな時まで食い気かよ…」


まあでもきっと、既に材料を頭に思い浮かべてしまってる俺も大概なんだろう。


「bonne nuit,Angleterre」


腕の中のちんちくりんにそう声をかけて、俺も瞼を下ろした。

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