コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。昨晩続いた襲撃は全部で十一件。その内八件は未遂で防ぎましたが、残念ながら全部を防ぐことは出来ませんでした。
具体的な被害としては、住宅街での付け火が二件発生。どちらも迅速に対応したため、ボヤ騒ぎ程度で済んだのは幸いでした。
……放火が好きな人達ですね。ちなみに下手人二人は巡視していたベルが始末しています。捕まえるより火を消すことを優先した結果なので、問題はありません。
もうひとつは教会を派手に吹き飛ばしてくれました。
「何で無傷なんですか?」
「……無傷ではありませんよ。派手に吹き飛ばされたのですから」
シスターが額に切り傷で包帯を巻く程度の軽傷を負いました。なんで爆発したのに軽傷で済むのでしょうか。
「……爆発寸前に野郎を蹴飛ばして、祭壇の陰に飛び込んだからですよ。倒壊もしなかったので、頑丈に建て直して正解でした」
ボロボロだった教会も『黄昏』に移設する際、頑丈に建てましたからね。シスターになにかあったら嫌ですし。
「シスターが無事で良かったです。仕返しは必ずしますからね」
「……それより先に被害と戦果を正確に把握しなさい」
「はーい」
人的被害は無し。今回はリナさん達が大活躍でした。うん、『猟兵』は使い勝手が良い部隊です。
で、戦果なのですが。七人を捕縛、数人を取り逃がす結果となってしまいましたが上出来です。
で、死者が四人。一人は教会で派手に吹き飛ぶ自爆。二人は住宅街でベルが始末して、最後の一人はエーリカに斬り殺されました。
……返り血で真っ赤に染まったエーリカを見た時は大怪我をしたと思って慌ててしまったのは秘密です。
「申し訳ありません、シャーリィお嬢様。咄嗟に斬ってしまって」
「エーリカに怪我がないなら問題はありませんよ。ありがとう」
尚、逃走した数名の内二名は後日死体で見付かりました。正確には、館に潜入しようとしてセレスティンに始末されたみたいです。
「この程度の賊、お嬢様のお耳に入れる価値もございません」
「頼もしいことですが、報告くらいは欲しかったです」
こんなところでしょうか。ラメルさんは責任を感じていましたが、受け身になる決断をしたのは私なので不問とします。それよりも情報部の編成を急がないと。
「明日には合流できるわよ。好きなだけ使い潰してちょうだい」
「マナミアさん、使い潰しはしませんよ」
予定ではラメルさんを長として情報部を設立。マナミアさんと彼女の部下二十人は情報部所属の工作部隊として破壊工作や暗殺などを専門として貰います。
これまでは真正面から挑んでくる組織ばかりでしたので、今回の襲撃で改めて諜報、防諜の重要性を再認識しました。
「捕まえた奴等だが、尋問に取り掛かってる。ヘンリー伍長はどうする?」
ラメルさんの質問を受けて、私はマクベスさんに視線を移します。
「お嬢様の庇護を受け、更に下士官にまで取り立てたにも関わらずこの不義。許せるものではありません。処分につきましては、お嬢様のご裁可に委ねます」
「分かりました。ラメルさん、情報を絞り出してください」
「五体満足でなくて良いなら可能だが」
「構いません。全員私の敵ですから」
「つまりだ、ラメルの旦那。お嬢はそいつらを生かしておくつもりはないとさ」
「実に分かりやすいな、了解した」
「ああ、後三人の容疑者についてはまだ調査を継続してください。ヘンリー伍長の件については……どうしましょうか?」
「下手にスパイだったと広げるのもな。お嬢から密命を受けてしばらく留守にしてるって事にするか」
「怪しまれるだろうが、仕方ねぇ」
「残る三人が無実ならば良いのですが」
ベルの提案にラメルさんが乗り、マクベスさんが悲しげに呟いていたのが印象的でした。
「さて、今回の功労者はリナさん達です。で、これ臨時ボーナスです」
「はぇ!?こんなに!?」
私が金貨の詰まった小袋を手渡すとビックリされました。少なかったかな?
「一人金貨二枚です。ちょっと少ないかもしれませんが」
「いやいやいや!マーサ姉さん!なにこれ!?」
「慣れなさい、リナ。シャーリィは気前が良い。いや良すぎるくらい報いてくれるわ」
「ええぇ……」
何だかリナさんが涙目でマーサさんに訴えていますね。そそります。
「シャーリィ、顔に出てるぞ」
おっと。
「ラメルさん、ヘンリー伍長だけは殺さないでください。裏切り者は許しません」
「地下室はダメだぞ、お嬢」
「分かっています。その場で仕留めるので許して下さい」
「分かった、ちゃんと見てるからな」
よし、言質取りましたよ。さて、次です。
私は会議を終えて外出を……いや、待ってよ?
「ラメルさん、マナミアさん」
「なんだ?ボス」
「どうしたの?主様」
「ヘンリー伍長を行方不明扱いにするとして、もし私が死んだことにしたら……どうなると思いますか?」
「難しいだろうな。今日あちこちに顔を出してるじゃないか」
「……待って、上手くいくかもしれないわ」
「なんだって?」
翌日正午、突如『黄昏』の館近くにある小屋が大爆発を起こす。『暁』は騒然となり、地下牢に捕らわれていたヘンリー伍長もその騒ぎを聞き付けていた。
しばらくすると見慣れない黒尽くめの男が牢へ駆け込んでくる。
「アンタ、ヘンリー伍長だよな!」
「なんだお前は!?」
「今の騒ぎを聞いたろ!?やってやったぞ!あんた達を捕まえて安心してた小娘を、シャーリィを小屋ごと爆破してやった!」
「なんだって!?」
この時ヘンリー伍長が冷静ならばまた結末は変わっていただろう。だが彼は地下牢で丸一日他の工作員達の断末魔を聞かされていたため、精神的に余裕を失っていた。
それ故に急な出来事ではあるが、冷静に判断することが出来なかった。
「それは本当なのか!?」
「この騒ぎが聞こえるだろ!?小屋を吹き飛ばしてやったんだ!死んでなくても重傷なのは間違いない!」
男はそう叫びながら牢の鍵を開ける。
「あんたは逃げてボスに報告してくれ!死体を確認できていないが、死んだか重傷だとな!」
「あんたは逃げないのか!?」
「俺はもう少し残って様子を探る!生きてたらまた会おう!ヘンリー伍長!」
「すまんっ!恩に着る!」
男が用意した目立たない服に素早く着替えたヘンリー伍長は、慌ただしい『黄昏』の町を素早く抜け出すことに成功する。
どんな事態が起きても最低限の人員は歩哨に残されているはずなのに、逃走中誰も居ないことを不審に思う余裕などなかった。
「お手柄よ」
「早速お役に立てて幸いです、姉御」
それが『暁』の撒いた撒き餌であると気付くこともなく。
ヘンリー伍長が知らないのも無理はない。何故ならば彼に声をかけたのは昨晩合流したばかりのマナミア指揮下の二十人の一人なのだから。