⚠男装主人公注意
⚠オリジナル設定を含みます
神出鬼没な隊士
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たまに任務で一緒になる、自分と同じ歳くらいの男。いけ好かないあの野郎と同じ、水の呼吸の使い手。
剣技は申し分ない。現場でも冷静な判断ができるし、そいつは俺の風の呼吸と相性がよかったみたいだ。
しかし、何度か同じ現場で鬼退治をしているというのに、俺はそいつの名前すら知らない。任務にひょっこり現れて、鬼殺が済んだらいつの間にかいなくなってしまうからだ。
今日も合同任務だったのか、途中から合流した俺たちはそれぞれの呼吸を使い、鬼を討つ。
水のようにしなやかで柔らかく、しかし時に濁流のように荒々しく敵を飲み込む。冨岡の野郎と同じ呼吸な筈なのに、こいつの剣技は何かが違う気がしていた。
鬼共の頸を斬り、任務は終わった。
『じゃ、お疲れ様っした』
こいつは今日も任務が終わった途端、軽く一礼してさっさとその場を立ち去ろうとした。
「!…お、おいちょっと待てェ」
咄嗟に相手の腕を掴む。自分のように着崩すことなくきちんと着用した隊服に覆われた腕は、 意外にもがっしりしていた。
『…何すか』
初めて間近で見たそいつの顔。
健康的な色の肌に、栗色の髪。長い睫毛に縁取られた瞳は硝子玉のように澄んだ青紫色をしていた。
綺麗に整えられた形のいい眉を寄せて怪訝な顔をするこの男に、今日こそ名前を聞こうと思う。
「お前、名前は? 」
『…ヒジリマコトです』
「…いくつだ?」
『あんたと同じっすよ、不死川さん』
中性的な甘い顔立ちの男の喉から、ぶっきらぼうな口調の低い声が発せられる。
「なんで俺の名前知ってんだ?」
『有名人じゃないすか、あんた。悪党ヅラで自分の腕スパスパ斬って鬼を酔わせて倒すし。それに自分、あんたと同期っす』
え、そうなのか。……悪党ヅラで悪かったな。
『……あの、もういいすか?野郎のお手々握ってたって楽しくないと思うんすけど』
「?…あ」
言われて気付いた。ずっとそいつの腕を掴んだままなことに。
小さく溜め息をついて、ヒジリマコトは懐から薬と包帯を取り出した。
そして今度は奴のほうから俺の腕を握ってきた。
「!?おい……」
『稀血を武器にするのはいいですけどね、あんまりやると胡蝶さんに怒られますよ』
そう言って、手際よく俺の腕を消毒し、そのへんの草をむしって指で揉んだものを傷につけて包帯を巻いてくれた。
「あ…悪ィな」
『いえ。応急処置なんで後でちゃんと胡蝶さんに診てもらってください。…じゃ、俺もう帰っていいすか』
「ちょっと待て」
『…まだ何かあるんすか』
俺一応柱なんだが。同期で同じ歳と言えど、態度悪いなこいつ。
「同期なんだろ。今度一杯付き合えよ」
『自分下戸っす』
「なら飯だけ」
『……分かりました』
それじゃ、と言って、今度こそヒジリマコトは去っていった。
怪我の手当をしてもらいに蝶屋敷へ。
「も〜、不死川さん!また刀でご自身の身体傷つけて…!」
あいつの言う通り胡蝶(妹)に怒られた。
「使えるモンは使わねえと」
「だからと言ってやり過ぎです」
ぴしゃりと言い放つ胡蝶。
「…あら?これはもしかしてヒジリさんが?」
俺の腕の包帯を外した胡蝶がたずねてくる。
「ああ。そのへんの草むしって傷につけられてよォ」
「そのへんの草じゃありませんよ。これはちゃんとした薬草です。彼のお母様が薬師だったとかで本人も詳しいんです」
「へぇ…」
ヒジリマコトが薬草をつけたおかげで傷の状態は悪くなかったようで、胡蝶にしてもらう処置は簡単なもので済んだ。
「たまに任務で一緒になるんだけどよ、今日初めて名前聞いたんだよ。同じ歳で同期だったとさ」
「…彼に関しては謎が多いんですよ。薬草に関しては色々と教えてもらうこともありますが、私自身も名前と何の呼吸を使うか以外、あの人のことをよく知りません」
「そうなのか。いつもどこからともなく現れて鬼殺が済んだらさっさとどっか行っちまうんだ」
胡蝶はそのヒジリマコトからもらったという薬草をゴリゴリと音を立てながらすり鉢で潰している。苦々しい香りが拡がる。
「彼、神出鬼没ですからね。柱の中でもヒジリさんの存在を知らない人が多いと思います。気になるなら皆さんに聞いてみるといいですよ」
「ああ、そうするわ。今度飯に行く約束してっから色々と情報集めるとするかね」
「彼、つかまるといいですけど。まあ頑張ってください」
懐から飴玉を1つ取り出し、それを手当の礼に胡蝶の机に起き、俺は蝶屋敷を後にした。
つづく
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