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#近未来
鳳蓮荘
1,259
#日常
ふぁらべら
55
老人・貞中慈鬼の案内で、三人は神社へ向かうことになった。
ガタガタと揺れる軽トラック。
舗装もされていない山道を、ゆっくりと進んでいく。
タイヤが砂利を踏むたび、車体が大きく揺れた。
「この先に神社があってな」
ハンドルを握る慈鬼が静かに口を開く。
「昔、山を掘った時に妙な刀が出たって話がある。たぶん、お前さんたちが探している場所はそこじゃろう」
「ありがとうございます」
一祟は丁寧に頭を下げた。
ふと何かを思い出したように尋ねる。
「そういえば……まだお名前を聞いていませんでした」
老人は穏やかに笑う。
「わしか?」
「**貞中慈鬼(さだなか・じき)**という」
「よろしくお願いいたします」
一祟が再び頭を下げる。
それきり、車内は静かな空気に包まれた。
響くのはエンジン音だけ。
唯我は窓の外へ目を向けながら、そっと胸に手を当てる。
(……何だ、この胸騒ぎは)
ただの任務ではない。
何かが、この山で待っている。
言葉にできない不安が、胸の奥で静かに膨らんでいく。
――その頃。
山奥の神社。
朽ちかけた鳥居の前には、二人の男が立っていた。
「この道で間違いねぇんだろうな?」
「ああ。ここにあるらしいぜ」
男はニヤリと笑う。
「あの伝説の名刀――鬼哭丸がな」
「神話級の刀だって話だ。戦争でも使われたとか何とか」
「見つけりゃ一生遊んで暮らせる金になるぜ」
下卑た笑い声が森へ消えていく。
その時だった。
――コツ。
――コツ。
静かな下駄の音が近づいてくる。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の男。
武笠を深く被り、古びた和服を身にまとっている。
腰には、一振りの刀。
まるで時代劇の世界から現れた侍だった。
「……何だ、あの格好」
「コスプレか?」
「それとも頭でもおかしいのか?」
侍は答えない。
二人の横を、そのまま通り過ぎようとする。
「おい、待ちな」
無視。
「てめぇ、人を無視するとはいい度胸じゃねぇか!」
男が腕を掴もうとした、その瞬間――。
トン。
刀の柄頭が、男の腹へ軽く触れた。
本当に、それだけだった。
「……え?」
次の瞬間。
男は白目を剥き、その場へ崩れ落ちる。
ドサッ――。
あまりにも速すぎた。
何が起きたのか、誰にも見えなかった。
残された男の額から汗が流れる。
「な……何者だ、お前!」
侍は足を止める。
静かな声だけが返ってきた。
「……名乗るほどの者ではありやせん」
「ふざけやがって!」
男は怒鳴る。
「よくも仲間を!」
侍は振り返ることなく答えた。
「先に仕掛けてきたのは、そちらですぞ」
「この野郎!」
男はナイフを抜き、一気に飛びかかる。
しかし――。
「哀れな」
侍は半歩だけ身体をずらした。
そして。
コツン。
再び柄頭が腹へ触れる。
たった、それだけ。
男は膝から崩れ落ち、そのまま意識を失った。
森に静寂が戻る。
侍は倒れた二人を一瞥することもない。
ただ、神社の奥へ視線を向ける。
風が武笠を揺らした。
「……鬼哭丸か」
低く漏らした、その一言。
何を思っているのか、その表情は見えない。
やがて侍は踵を返し、静かに歩き始める。
コツ……
コツ……
コツ……
下駄の音だけが、静かな山奥に長く響き続けていた。
その姿は、まるで幻だった。
コメント
1件
おお、第97話読んだわ…この通りすがりの侍、めっちゃかっこよすぎぃ!柄頭で軽く触れただけで二人仕留めるって、もうね、強者の余裕が滲み出てて震えた。それに「名乗るほどの者ではありやせん」って台詞が渋すぎるだろ。唯我の胸騒ぎも気になるし、次の展開が待ち遠しい🔥