テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後の教室。
テスト明けで気が抜けた空気の中、机を囲んで数人の男女が集まっていた。
「さーて、そろそろ本番いくか〜!」
「いきなり本番って何!? 怖いんだけど!」
笑い声とともに、恒例の《王様ゲーム》が始まった。
くじを引き、1〜6までの番号と、一本だけ「王様」と書かれた棒。
そして、運命の1本を引いたのは──。
「よっしゃーっ、俺、王様きた!」
男子の一人、陽翔(ひなた)はガッツポーズ。
調子に乗りやすいタイプで、悪ノリには定評がある。
「じゃあ命令ね……。うーん、3番、みんなの前で……上半身、脱げ!」
「は!?」
教室が一瞬、静まり返った。
そして、次の瞬間──。
「うそだろ!? 3番、オレじゃん……!」
手を震わせながら、手元のくじを見せたのは、クラスでも真面目で有名な、黒川玲央(くろかわ・れお)。
「ちょ、ちょっと待って!そんなの無理に決まってるだろ!」
「王様の命令は絶〜対!」
「いけいけー! 黒川、男見せろ!」
みんなの手拍子に囲まれて、顔を真っ赤にする黒川。
シャツのボタンに手をかけるが、指先が震えてなかなか外せない。
「……やらなきゃダメなの……?」
「見てない見てない(見てる)!」
「恥ずかしがってるの、逆にかわいいぞ〜」
陽翔が笑いながら近づいてくる。
「手伝おうか?」なんてからかわれ、黒川は耳まで真っ赤になった。
「い、いい、自分でやるっ……!」
ようやくボタンを外し、制服のシャツをそっと脱ぐ。
白い肌と、思った以上に引き締まった体が、蛍光灯の下にさらされる。
「おぉ〜!」
「意外と鍛えてるじゃん!」
歓声と冷やかしに囲まれ、玲央は目をぎゅっと閉じたまま、肩をすくめるようにして立っていた。
(……もう、無理。死ぬほど恥ずかしい……)
けれど、ほんの少しだけ胸の奥にあった、奇妙な感覚。
みんなの視線を浴びて、顔が火照るのに、なぜか心臓が高鳴って止まらなかった。
──王様ゲームって、こんなに怖くて、こんなに……ゾクゾクするものだったけ…
「よし、2ラウンド目、いくか!」
陽翔がまた王様を引き当てて、クラスメイトたちから歓声が上がった。
「さっきの玲央、最高だったな〜!」
「うっすら腹筋あるの、意外すぎて惚れたわ」
「本人、ガチで泣きそうだったけどね」
その玲央はというと、すでにシャツを着直しながら顔を隠すように机に突っ伏していた。
(最悪……人生終わった……)
そんな彼の耳元に、またあの声が近づいてくる。
「なあ玲央……まさか、今回も“当たり”だったりして?」
「…………ッ」
くじをめくると、なんとまたしても──3番。
「よっしゃ!玲央、運命の男だな!」
「嘘だろ……!?」
陽翔は、ニヤリと笑って立ち上がった。
「じゃあ……3番は、ズボン脱いで、5秒間ポーズつけてみせる! 下着はそのままでいいから!」
「はっ、はあぁ!? なんでそうなる!?」
「王様の命令は〜?」
「ぜ、ぜったい……だけど……!」
玲央は頭を抱えながら立ち上がり、腰に手を伸ばした。
教室の空気が、一気に静まる。
ほんのり汗ばんだ額、震える指先。
みんなの視線が自分に集中しているのが、ありえないほどわかる。
「……ぜったい、一生の恥になる……」
覚悟を決めて、ゆっくりと制服のズボンを下ろすと、太ももが露出される。
パチン、と誰かが口笛を吹いた。
「……5、4、3……!」
「ちょ、数えるの早っ……!」
「2、1──はい、キメポーズっ!」
玲央は思わず、ふざけたVサインとぎこちない笑顔でその場に固まった。
誰かがスマホのシャッター音を鳴らすフリをして、みんな爆笑。
「も、もう絶対やらないからなっ……!」
顔を真っ赤にして座り込む玲央の隣で、陽翔はニヤニヤ笑っていた。
「なに照れてんの? でも……案外ノリいいじゃん、玲央」
「……だまれ、バカ」
けれどその言葉に、本気の怒りはなかった。
ほんの少しだけ、心の奥でくすぐったい何かが芽生えている。
彼は気づいてしまった。
“見られること”が、ただ恥ずかしいだけじゃないということに。
次のラウンドが、あるかもしれない。
でももう、怖いだけじゃない。
──不思議な、ドキドキと、期待。
そんなものを、彼はすでに抱いてしまっていた。
「よし、ラストラウンド行こうぜ!!」
その日、何ラウンド目かもわからないくらい、ゲームは盛り上がっていた。
もう教室は笑いと冷やかしの嵐。机もイスも端に寄せられ、中央には“舞台”のような空間ができている。
「さて、王様は……オレ!」
またしても陽翔がくじを引き当て、全員が爆笑。
「ちょ、陽翔引きすぎだろ!」
「悪いな、持ってるんだよ!」
陽翔は得意げに腕を組むと、ニヤッと笑って命令を発表した。
「じゃあ、最後にふさわしい命令いくぞ──3番、全裸!」
その瞬間、教室が凍った。
「えっ……!?」
「さすがにそれは無理じゃね!?」
「どこまでが冗談? てか3番って誰よ……?」
玲央は手元のくじを、黙って見つめていた。
──3番。
「……オレだ」
「マジでー!?」
「さっきも脱がされてたのに!運命感じるわ」
陽翔が近づいてきて、小声で言う。
「……無理ならいい。マジで。それだけはちゃんと守るルールだから」
玲央は黙って、教室を見渡した。
笑ってる顔、驚いてる顔、ニヤけてる陽翔の顔。
そして、自分の胸の内にある──熱。
誰かに見られること。
恥ずかしいけど、その中にある変な快感。
何より、自分が今“中心”にいるというこの感覚。
「……王様の命令は、絶対……だよな」
そう言って、玲央はゆっくりと制服のシャツを脱ぎはじめた。
ボタンを外し、ズボンを下ろす。
下着に指をかけたその瞬間──
「本当に脱ぐの!?」
「嘘でしょ!?」
「すご……ガチじゃん……!」
パンツが下ろされ、玲央の全身が、みんなの前にさらけ出された。
空気が、一瞬だけ止まる。
玲央はまっすぐ立っていた。
恥ずかしさに震えながらも、その目は、少しだけ誇らしげだった。
「……ほら。これで、最後の命令も達成、だろ?」
誰かが拍手を始めた。
冷やかしもある、驚きもある。でも、その中に確かにあったのは──
「……すげぇな、お前」
陽翔の、心からの声だった。
玲央は顔を真っ赤にして、目を伏せた。
でも、心の奥で感じていたのは、羞恥だけじゃない。
開放感。
受け入れられた感覚。
そして──
(見られるって、こんなに……気持ちいいものだったんだ)
次の瞬間、制服を羽織り、すぐに身を隠す玲央。
「バカ!見んな!記憶から消せ!!」
「いや消せるかーーー!!」
爆笑が教室に響いた。
けれどその日、玲央の中で何かが変わったのは、間違いなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!