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2 - 第2話 王様ゲーム

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2025年07月16日

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放課後の教室。

テスト明けで気が抜けた空気の中、机を囲んで数人の男女が集まっていた。

「さーて、そろそろ本番いくか〜!」

「いきなり本番って何!? 怖いんだけど!」

笑い声とともに、恒例の《王様ゲーム》が始まった。

くじを引き、1〜6までの番号と、一本だけ「王様」と書かれた棒。

そして、運命の1本を引いたのは──。

「よっしゃーっ、俺、王様きた!」

男子の一人、陽翔(ひなた)はガッツポーズ。

調子に乗りやすいタイプで、悪ノリには定評がある。

「じゃあ命令ね……。うーん、3番、みんなの前で……上半身、脱げ!」

「は!?」

教室が一瞬、静まり返った。

そして、次の瞬間──。

「うそだろ!? 3番、オレじゃん……!」

手を震わせながら、手元のくじを見せたのは、クラスでも真面目で有名な、黒川玲央(くろかわ・れお)。

「ちょ、ちょっと待って!そんなの無理に決まってるだろ!」

「王様の命令は絶〜対!」

「いけいけー! 黒川、男見せろ!」

みんなの手拍子に囲まれて、顔を真っ赤にする黒川。

シャツのボタンに手をかけるが、指先が震えてなかなか外せない。

「……やらなきゃダメなの……?」

「見てない見てない(見てる)!」

「恥ずかしがってるの、逆にかわいいぞ〜」

陽翔が笑いながら近づいてくる。

「手伝おうか?」なんてからかわれ、黒川は耳まで真っ赤になった。

「い、いい、自分でやるっ……!」

ようやくボタンを外し、制服のシャツをそっと脱ぐ。

白い肌と、思った以上に引き締まった体が、蛍光灯の下にさらされる。

「おぉ〜!」

「意外と鍛えてるじゃん!」

歓声と冷やかしに囲まれ、玲央は目をぎゅっと閉じたまま、肩をすくめるようにして立っていた。

(……もう、無理。死ぬほど恥ずかしい……)

けれど、ほんの少しだけ胸の奥にあった、奇妙な感覚。

みんなの視線を浴びて、顔が火照るのに、なぜか心臓が高鳴って止まらなかった。

──王様ゲームって、こんなに怖くて、こんなに……ゾクゾクするものだったけ…


「よし、2ラウンド目、いくか!」

陽翔がまた王様を引き当てて、クラスメイトたちから歓声が上がった。

「さっきの玲央、最高だったな〜!」

「うっすら腹筋あるの、意外すぎて惚れたわ」

「本人、ガチで泣きそうだったけどね」

その玲央はというと、すでにシャツを着直しながら顔を隠すように机に突っ伏していた。

(最悪……人生終わった……)

そんな彼の耳元に、またあの声が近づいてくる。

「なあ玲央……まさか、今回も“当たり”だったりして?」

「…………ッ」

くじをめくると、なんとまたしても──3番。

「よっしゃ!玲央、運命の男だな!」

「嘘だろ……!?」

陽翔は、ニヤリと笑って立ち上がった。

「じゃあ……3番は、ズボン脱いで、5秒間ポーズつけてみせる! 下着はそのままでいいから!」

「はっ、はあぁ!? なんでそうなる!?」

「王様の命令は〜?」

「ぜ、ぜったい……だけど……!」

玲央は頭を抱えながら立ち上がり、腰に手を伸ばした。

教室の空気が、一気に静まる。

ほんのり汗ばんだ額、震える指先。

みんなの視線が自分に集中しているのが、ありえないほどわかる。

「……ぜったい、一生の恥になる……」

覚悟を決めて、ゆっくりと制服のズボンを下ろすと、太ももが露出される。

パチン、と誰かが口笛を吹いた。

「……5、4、3……!」

「ちょ、数えるの早っ……!」

「2、1──はい、キメポーズっ!」

玲央は思わず、ふざけたVサインとぎこちない笑顔でその場に固まった。

誰かがスマホのシャッター音を鳴らすフリをして、みんな爆笑。

「も、もう絶対やらないからなっ……!」

顔を真っ赤にして座り込む玲央の隣で、陽翔はニヤニヤ笑っていた。

「なに照れてんの? でも……案外ノリいいじゃん、玲央」

「……だまれ、バカ」

けれどその言葉に、本気の怒りはなかった。

ほんの少しだけ、心の奥でくすぐったい何かが芽生えている。

彼は気づいてしまった。

“見られること”が、ただ恥ずかしいだけじゃないということに。

次のラウンドが、あるかもしれない。

でももう、怖いだけじゃない。

──不思議な、ドキドキと、期待。

そんなものを、彼はすでに抱いてしまっていた。



「よし、ラストラウンド行こうぜ!!」

その日、何ラウンド目かもわからないくらい、ゲームは盛り上がっていた。

もう教室は笑いと冷やかしの嵐。机もイスも端に寄せられ、中央には“舞台”のような空間ができている。

「さて、王様は……オレ!」

またしても陽翔がくじを引き当て、全員が爆笑。

「ちょ、陽翔引きすぎだろ!」

「悪いな、持ってるんだよ!」

陽翔は得意げに腕を組むと、ニヤッと笑って命令を発表した。

「じゃあ、最後にふさわしい命令いくぞ──3番、全裸!」

その瞬間、教室が凍った。

「えっ……!?」

「さすがにそれは無理じゃね!?」

「どこまでが冗談? てか3番って誰よ……?」

玲央は手元のくじを、黙って見つめていた。

──3番。

「……オレだ」

「マジでー!?」

「さっきも脱がされてたのに!運命感じるわ」

陽翔が近づいてきて、小声で言う。

「……無理ならいい。マジで。それだけはちゃんと守るルールだから」

玲央は黙って、教室を見渡した。

笑ってる顔、驚いてる顔、ニヤけてる陽翔の顔。

そして、自分の胸の内にある──熱。

誰かに見られること。

恥ずかしいけど、その中にある変な快感。

何より、自分が今“中心”にいるというこの感覚。

「……王様の命令は、絶対……だよな」

そう言って、玲央はゆっくりと制服のシャツを脱ぎはじめた。

ボタンを外し、ズボンを下ろす。

下着に指をかけたその瞬間──

「本当に脱ぐの!?」

「嘘でしょ!?」

「すご……ガチじゃん……!」

パンツが下ろされ、玲央の全身が、みんなの前にさらけ出された。

空気が、一瞬だけ止まる。

玲央はまっすぐ立っていた。

恥ずかしさに震えながらも、その目は、少しだけ誇らしげだった。

「……ほら。これで、最後の命令も達成、だろ?」

誰かが拍手を始めた。

冷やかしもある、驚きもある。でも、その中に確かにあったのは──

「……すげぇな、お前」

陽翔の、心からの声だった。

玲央は顔を真っ赤にして、目を伏せた。

でも、心の奥で感じていたのは、羞恥だけじゃない。

開放感。

受け入れられた感覚。

そして──

(見られるって、こんなに……気持ちいいものだったんだ)

次の瞬間、制服を羽織り、すぐに身を隠す玲央。

「バカ!見んな!記憶から消せ!!」

「いや消せるかーーー!!」

爆笑が教室に響いた。

けれどその日、玲央の中で何かが変わったのは、間違いなかった。


END


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