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第1章 行きたかったのに。
ある夏休み。私は1人で学校に来ていた。心臓のうるさい鼓動を聞きながら、立ち入り禁止の札をくぐる。重い扉を開けると、目の前に広がるのは普段入れない学校の屋上。空がいつもよりも圧倒的に近く感じた。空も山も川も、全てが綺麗に見えた。山から流れる爽やかな風が首の間をすり抜けていく。作戦を実行するには、うってつけの日だ。フェンスの側に立ち、街を眺める。いつもと変わらない景色。今のうちに目に焼き付けておこう。フェンスを乗り越え、反対側に立った。さっきよりもスリル満点で、何故だか心地良かった。履いていた上靴をぬいで、ポニーテールにしていた髪はほどく。さぁ、風に身を任せて、何処までも落ちていこうーーー。
「何してんの?」
唐突に後ろから声をかけられた。私は風に身を任せられず、その場に立ち尽くしていた。渋々元の場所に戻り、声のする方向を見た。そこには髪の短い女の子がペントハウスの上に座っていた。
「…誰ですか?」
うちの学校の制服を来ている。ここの生徒らしい。
「あーうち?うちは途川 玲(とがわ れい)!あんたは?」
この人はプライバシーというものを知らないのだろうか。それともただの馬鹿なのか。
「おーい?なーまーえー!教えろー!」
「…空風 雫(そらかぜ しずく)です。」
「へー!雫か!よろしくな!」
まさか屋上に誰かいるなんて思わなかった。作戦は失敗。今日が決行のチャンスだったのだが…。致し方ない。今日は帰ろう。
「では、失礼しますー」
「え〜?待ってよーもう少し話そ?」
これが陽キャのノリというやつなのか?いまいち理解できない。作戦が失敗してしまっては意味が無い。早く帰って、今のうちにできることをやっておかないといけない。
「ってかさー、何してたの?」
「え?」「だから、何してたの?」
出た。陽キャ特有ウザ絡み。
「…別になんでもないですよ」
「なんて?聞こえない!今降りるからまってて!」ますます帰られなくなってしまった。正直このテンションに着いていくだけで精一杯なのだが。色々とめんどくさい。もう勝手にして欲しい。
「よいしょっと!んで、何してたの?」
「別になんでもないですよ。何となく、あそこにいただけです。」
このことを誰かに言う訳にはいかない。絶対に止められる。というか、
「思ってたよりも、背が低い…」
「何!?あんた今、私の事馬鹿にしたでしょ!」
「いえ!そんなこと…」
めんどくさい。とにかくめんどくさい。このノリについていけてる人、本当に尊敬する。
「…ちなみに何センチなんですか?」
「152センチだけど?」
本当に小さかった。私が大きいのではなかった。少し安堵した。可愛らしく見えたのは、身長のせいだろう。きっとそうだ。
「あんたは何センチなのよ!」
「私ですか?167センチですけど…」
「いや高!?」
少し面白くなってきた。からかいがいがある。言い方は悪いけど、いじりやすい。でも飽きた。帰ろう。
「では、私は帰るのでーーー」
「こら待て!帰るな!」
ですよねー。こうなると思っていた。
「あんたは私の優雅な昼寝を邪魔した罪で、私と話さなければならない!」
どんな理由だ。いや、昼寝の邪魔をしてしまったのは申し訳ない。だが、話さなければならないというのは頂けない。
「拒否権は…」
「ない!」
とんだことになってしまった。