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逃げ場はどこにも無い。みんな、蝶に刺されて死んでいった。
「アルゴちゃん……」
せめて、せめて君だけは苦しまないように。君だけは、天国に逝けるように。
私はマッチに火をつけ、花畑に火を落とした。
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1965年。獣人が多く暮らす国、ヴェリアを血吸蝶が襲った。ヴェリアは現在、蝶によって命を奪われた多くの死体が転がっている、まさに地獄だ。
ヴェリアに住む人は北の国エボリュに避難をした。ヴェリアと交友関係のあるエボリュには、血吸蝶から逃げてきた人が溢れかえっている。
国は血吸蝶を対処する方法や国を守る方法、民の不満、様々な問題を抱えながら必死に戦っていた。
「………ァニちゃん……」
誰かが呼んでいる。
「ティファニちゃーん!…あ、おはよ」
目を開けると、アルゴちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
「おはよ、アルゴちゃん。何か用?」
「ううん、何でもないよ。ただちょっと心配だったの 」
「そう……」
重い沈黙が流れる、仕方ない事だ。 もう何人もの人が死んだ。優しくしてくれたベイカーさんも、たくさん褒めてくれたカーターくんも、いろんな事を教えてくれたキリカさんも……。
私に残っているものはアルゴちゃんだけ。
一旦落ち着くために深呼吸をする。 外が騒がしい、何かあったのだろうか。
「外で何かあったのかな?」
「行ってみようか」
外の広場に出ると、何かを囲うように人が集まっていた。アルゴちゃんと迷子にならないよう、手を繋いで中心の方へ行く。
囲いの中心には門番兵らしき人と、びしょ濡れの男の人が話をしていた。
「大丈夫か、蝶に刺されたりは…」
「んもー、しつこいな」
言い争いをしているのだろうか。不穏な空気が流れる中、男の人が声を荒げた。
「あーもう!…ロナウド、カルト・ロナウドはどこだ!」
カルト・ロナウド。一瞬、耳を疑った。
「ねぇ、ティファニちゃん」
カルト・ロナウドは、ずっと昔に死んだ私の父親の名前だ。