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「俺を…置いていくのか…?」

話が終わりそうな時、不穏な話が出た。

声が急には出てこなかったが、何とかそう絞り出すことができた。

ミランも聖奈も俺を置いていく気らしい。

そんな事……

「そうだよ。前にも言ったけど、セイくんに何かあったらみんな生きていけないの。それにセイくんだってわかってるよね?連邦軍だけではなく、街ごと滅ぼすと自分がどうなるのか」

「そうです。もし王国が失敗に終わったら、相手をするのは軍だけでは済みません。セイさんの優しさに私たちは助けられましたが、今回その優しさは邪魔になってしまいます」

いや、俺も失いたくないんだが?

それに俺は優しいのではなく、甘いだけだぞ。

しかし、二人の意思は固そうだ。

生半可は言葉では納得してくれないだろう……

月の神ルナ様!俺に語彙力をっ…!!

「セイ。そんなに気にするなよ」

「いや…しかしな…」

「そうなると決まったワケじゃねーんだろ?話を聞く限り、そうなる可能性は低いんじゃねーか?」

だが…そうなったらどうすんだよ……

『僕お家から出る』って駄々捏ねるのか?

「そうだよ。可能性はかなり低いし、王国が破れても、連邦が王国を無視しても、他の手段も一応あるから、さっき伝えた話は最終手段だよ」

「他にも手があるのかよ…嬉しいけど先に言ってくれ…」

「ふふ。ごめんごめん。でもその手段はあまり使いたくないの。北西部が乱れる可能性があるから」

「私は構いません。セイさんが無事ならどちらでも」

いや、俺が構います!

頼むから二人とも無茶しないでくれ…待つのは苦手なんだよ……

結局二人が譲ることはなく、俺は王国を全力で応援することしか出来なさそうだった……?!

あれ?よく考えたら、連邦王国戦に張り付いていれば、どうとでも出来るんじゃ?

よし!そうしよう!!

その日も深酒をすることなく、俺は夢の世界の住人になるのであった。






side聖奈

時は話し合いが終わり、聖がベッドルームへ向かった所へと戻る。


「セーナさん。他の策とは?」

私が夕食の片付けをしていると、お手伝いしてくれているミランちゃんがさっきの話を掘り下げてきた。

気になるよね。

画像


「銃武装したバーランドの兵を山脈に布陣させるの」

「エリーさん捜索の時の様にですか?」

「ううん。あれはセイくんの負担が大きいからやらないよ」

頼めばしてくれると思うけど、魔力依存症が怖いんだよね。

精神的にも魔力的にも負担が増えると良くないのはもう確定しているから。

特に転移魔法は魔力消費が激しいしね。

単独や少数なら問題なくても、軍を丸ごと転移させるなんて。

エリーちゃんの時よりも遥かに危険だもん……

もしそうなれば、恐らくバーランド国軍全てを投入しないと山脈を全て防衛出来ないからね。

それに聖くんの能力に頼り切りになると、バーランド王国の先も見えちゃうし。

「では…どうやって?」

向かうのか?ってことだよね。

「普通に行軍してだよ」

「えっ…それは……そうですか。それで北西部が…」

流石ミランちゃん。理解が早くて助かるよ。

「うん。他の国には理解が得られないだろうから、外交問題になるね。山脈まで行くにはいくつかの他国くにを通ることになるから。

まぁ私達に正面切って喧嘩売れるかは別問題だけどね」

「そうですね。ですが、楽観視は出来ません。そもそも北西部の安寧の為に王国に手を貸したのに、これでは…」

「うん。目的は不達成だね。でも仕方ないの。出来ることをやるしかないの。私達普通の人は。

そこは王国とセイくんに全て掛かっているから、後は結果を聞いてからだね」

聖くんみたいな力が私にあれば、それを使うのはいいの。

でも、今の私達に出来ることをして、それでも願いが叶わなければ、それはそれでいいの。

そうじゃないと、一から十まで聖くんを頼ることになるから。

私が国を興した理由は、聖くんが地球や異世界で居場所を無くしても、いつでも帰って来れる場所を作る為。

もちろん次点では私の趣味も多分にあるけどね。

帰る場所が無くなれば、また一から作ればいい。

それが聖くんの望むことじゃなかったとしても。






side聖

仲間達は程々で良いと言っていたが、俺の出来ることなどこの程度しかないわけで…うん。

暇なんだわ。

「ここなら誰も来ないだろう。ここで異変がないか見ていてくれ」

以前戦場となった砦が見える山へと、俺と同じく仕事がなくて暇なコンを連れてやってきていた。

『わかったのじゃっ!王国から軍がやってこないか見張ればいいのじゃな?』

「そういうことだ。簡単な様で根気のいる仕事だから、こういうこと・・・・・・に慣れているコンにしか任せられない」

『ふふんっ!漸く妾の凄さに気付いたかっ!任せよっ!』

バカは使いやすいな……

しかし、俺が言った言葉は嘘ではない。

この山から見える景色は変わり映えがない。

簡単に言うと、動くモノひとが見当たらないんだ。

片付けられた砦があった場所にはバリケードのようなモノが築かれていて、そこに監視の王国兵が3人ほど立っているだけで、後は土と岩、少し離れたところに広大な森が広がっているのが見えるだけだ。

こんな所にたったぼっち一人置き去りにされ、何時間も、何日も昼の間に見張っているなんて中々の苦行だろう。

何百年も…いや、千年以上ぼっちで、ただ下界の景色を眺めていただけのコンにはピッタリの仕事ではなかろうか。

我ながら妙案だな。

「ああ。任せた。暗くなる前には迎えに来るから、異常があったらその時に教えてくれ」

『わかったのじゃっ!デザート二倍の権利を忘れるでないぞ?』

ウチは相撲部屋か何かかな?

何でみんな食い気に走るんだ?

まぁ、今となっては端金で済み、俺としては助かるんだけど……

コンに任せろと返事をした後、連邦内へと転移した。






▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


「ムシロ公爵が殺されたのですぞっ!?それでも何もしないのかっ!!」

聖が取引を終え、バーランド王国へと帰った後、ニシノアカツキ王国王城内で軍務卿へとヘイトが集まっていた。

「そうですぞっ!いくら公爵が約束を守らなかったとはいえ、それで殺すというのは過剰だと考えます!

王国としては毅然とした対応をすべきだと思いますが?」

ここは国の要職に就く者達と、国王から与えられた爵位を持つ貴族達が集まる場所。

上座には3段ほどの段を上がった場所に豪華な椅子があり、そこへ座る者がいた。

そう、ここは所謂玉座の間である。

城で唯一、他国の人を迎え入れても恥ずかしくない豪華な場所で、居並ぶ貴族たちの格好の的になっているのが軍務卿その人である。

「…みなはそう申しておるが?」

玉座に座す国王がやや気怠げに渦中の軍務卿へと問いかける。

「はっ。確かに一国の公爵が殺された事件は、それだけで国を揺るがし、戦争へと発展する程のことであるかと。しかし、それでも…」

長い髭を蓄えた国王の低い声に対しても、軍務卿は態度を変えずそう答えた。

「つまり泣き寝入りしかないのだな?」

国王のその言葉には国を支える貴族達から驚きの声が上がる。

やれ『へ、陛下!国が…陛下が下に見られるのを我々に黙って見ておけと!?』や『王国の生き様を見せてやりましょうっ!!』などの不穏な言葉ばかり上がった。

「鎮まれいっ!!御前であるぞっ!!」

国王の横に立つ、威厳溢れる男から声があがった。

この男は国王の腹心であり、この国の宰相の地位にいる者。

さして優秀でも愚鈍でもないこの国王だが、王族ということを鼻にかけることもなく、同時に陰で貴族達から良く言われることもないが、親しみを持たれるという才はあった。

そんな親しみやすく、権力で押さえ付けることを良しとはしない国王だからこそ、この宰相も軍務卿も、いや全ての貴族が一つになり、この国王を支える国がニシノアカツキ王国なのであった。

例外としては、王族の血に連なるハリノムシロ公爵くらいなものだ。

そんな親しみやすくも自身の神輿である国王と国が軽く見られている事実に、腹を立てない貴族はここにはいない。

軍務卿とて、相手が連邦であったとしても毅然とした対応を取っていただろう。

だが……

「あの者達は我らの常識では計れません。争えばいつの間にか国ごと全てがなくなっていることでしょう」

この場所にいる者達全ての視線を集めた軍務卿は、自信を持ってそう告げた。

現実にそう見てきたかの様な物言いに、周りの貴族達は次の言葉を無くす。

「…相わかった。威信を掛けて戦うのであれば、どの様な強敵であれ戦うのが王国である。だが、蟻のようにただ踏み潰されるだけの争いは、争いでもましてや戦いですらない。

それ即ち災害である。

公爵は軍務卿が止めたにも関わらず、山へ行き火山の火口に落ちた。

我々も、態々山を刺激して噴火させるのはよそうではないか」

国王の言葉に居並ぶ貴族達は俯く。

確かに公爵は自業自得だ。

国の威信もあるが、自然相手にそれを宣うのは馬鹿のすることだと、貴族達は自身にそう言い聞かせることにした。

(そもそももう会うことすら叶わぬだろうが…奴等は一体…)

納得と諦めが混じる貴族と、何とか上手く纏まってホッとする国王。


軍務卿だけが全く別の感覚に陥っていたことを知る者はいない。

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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