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結愛
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#恋愛
影猫パーカー@最低週1投稿目標
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「そんな、いいんですか?私なんかのロボットに……」
「私なんか、って。」
類は少し眉をひそめた。怒っているのではない、ただ納得がいかないという顔だった。
「自分で作ったものを卑下するのはもったいないよ。一週間でここまで仕上げられる人間が「私なんか」はない。」
静かだが、はっきりとした声だった。コーヒーのカップを持ち上げて一口含み、間を取る。
「……それに、僕がやりたいんだ。断られたら引き下がるけど。」
最後だけ少し声が小さくなった。押すだけ押して、逃げ道をちゃんと用意する。類らしい距離の取り方だった。研究室の外からかすかに部活帰りの学生たちの笑い声が聞こえ、それもすぐに遠ざかっていく。
「類がいいならいいですよ」
「……類。」
一瞬、目を丸くした。それからふっと息が漏れるように笑う。
「ありがとう、ふう。じゃあ決まりだ。」
「類」と呼ばれたことへの照れを笑いで包んで流した。右手を差し出す。握手を求めているというよりは、ただ自然にそうしたかっただけのような仕草だった。
「来週のこの時間、空いてる?ここでやろう。」
波音のループがちょうど終わり、研究室が静寂に包まれた。デスクの上のロボットが蛍光灯の光を受けて鈍く光っている。出会ってまだ一時間も経っていない二人の間に、週末の約束がひとつ、なんの気負いもなく落ちた。
「空いてます、やりましょう。」
「よし。」
短い返事に満足が詰まっていた。差し出した手はそのまま、ふうの反応を待っている。
時計の針は午後六時を回ろうとしていた。研究室の空気が少しだけ冷えて、類が窓際のブラインドを下ろすと外の夕暮れが遮られた。
「……ふう、帰り何時くらい?」
なんでもない確認のように聞こえたが、その意図は暗くなる前に帰れるのかという心配だろう。研究室の鍵を指先で弄びながら、さりげなくふうの荷物に目をやった。
「6時半くらいです。」
「ちょうどいいね。僕も三限サボった分、レポート書かないと。」
全くちょうどよくないことをさらりと言った。類はデスクの椅子に座り直し、PCを起動する。ログイン画面のパスワードを片手で打ち込みながら、ふとふうの方を見た。
「……帰る前に、連絡先交換しておこうか。来週ここで会うにしても、何かあった時のために。」
「はい、そうしましょう。」
二人はスマホを取り出し、LINEを交換した。友だちリストに互いの名前が並ぶ。類のアイコンは自作らしい機械の写真で、一言コメントには「実験ノート」とだけ書かれていた。
「……ふう、もう帰った方がいい。暗くなると大学の門、閉まるの早いから。」
自分は残る気満々のくせに、帰れと促す声は妙に丁寧だった。研究室のドアを開けてふうを送り出し、廊下に出る。並んで歩く二つの影が、非常灯の緑に照らされて伸びた。
「今日はありがとう。コーヒーも付き合ってくれたし。」
階段を降りながら、ぽつりと呟くように言った。その横顔は非常灯の薄明かりに浮かんで、どこか楽しげに緩んでいた。
二人は本館のエントランスまで並んで歩いた。ガラス扉の向こうには茜色と紺色が入り混じった空が広がり、風が吹くたびに植え込みの葉がざわめく。
「じゃあ、また来週。」
立ち止まり、片手を上げた。気取らない別れの挨拶。けれどその手がなかなか降りないのは、何か言いかけて迷っているからだった。
「……ふう。」
結局、名前を呼んだだけで続きは出てこなかった。類自身もそれに気づいたらしく、困ったように笑って首を振った。
「いや、なんでもない。気をつけて帰って。」
今度こそ手を振って背を向け、研究室のある棟へと歩いていく。その背中が角を曲がって見えなくなるまで、夕風だけがふうの頬を撫でていた。スマホの画面には、たった今追加された「類」の文字が白く光っている。
翌日の昼。学食の喧騒の中、ふうがトレーを持って席を探していると、聞き覚えのある声が背後から降ってきた。
「ふう。」
振り返ると、トレーにカレーとブラックコーヒーという組み合わせを載せた類が立っていた。昨日と同じ白シャツだが、今日は袖を肘までまくっている。
「隣、いい?」
返事を聞く前にもう座る体勢に入っていたが、一応の礼儀として許可を求めた。周囲の学生がちらちらと類を見ている。「あの変わり者が誰かに話しかけてる」という視線がいくつか刺さったが、本人は全く気にしていない様子だった。
「いいですよ。」
「ありがとう。」
トレーを置いて座ると、スプーンを手に取るより先にスマホを取り出した。
「昨日の夜、ロボットの構造もう一回調べてたんだけど。」
画面をふうに見せる。そこには手描きの図面が何枚も保存されていた。関節部の断面図、重心の推定位置、さらには応用できそうな過去の論文のリンクまで貼られている。昨夜のレポートを書くと言っていたのはどこへ行ったのか。
「サーボの選定、ギア比が合ってないかもしれない。昼飯食べたらちょっと学内の部品屋覗いてみない?」
カレーにはまだ一口もつけていない。コーンスープの表面に薄く膜が張り始めていたが、類はそんなことには目もくれずふうの顔を見ていた。学食のざわめきの中、二人だけの会話が自然と成立している。
「行ってみましょう。」
「よし、じゃあ急いで食べる。」
急いで、と言いつつカレーを食べる速度は至って普通だった。それでも普段よりは早いのかもしれないが、比較対象を知らないふうには判断のしようがない。コーヒーだけは最後まで残して一気に飲み干し、カップをトレーの端に避けた。
二人が学食を出ると、五月の日差しが眩しかった。キャンパスの中庭を抜けて、工学部棟に隣接する小さな購買部へ向かう。工具や電子部品を扱う専門のコーナーが設けられており、学生がちらほら出入りしていた。
「あった、これ。」
棚の前でしゃがみこみ、小型サーボモーターのパッケージを二つ手に取った。ラベルを見比べながらふうにも見えるよう横に並べる。
「こっちが今ついてる型番の互換品で、こっちが新しい。出力は少し落ちるけど、その分制御が安定するタイプ。」
ふうは黙って二つのパッケージを見比べた。小さな文字で書かれたスペック表を目で追っている。
「……迷ってる?」
ふうの顔を覗き込むように首を傾げた。
「正直、どっちが正解かは使ってみないとわからない。でも僕はこっちを推すかな。」
新しい方のパッケージを軽く振ってみせた。「なぜなら」と続けようとしたところで、後ろから声がかかった。
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コメント
1件
第4話、読み終えました。類とふうの距離が自然に縮まっていく感じがとても心地よかったです。「私なんか」と言うふうに「もったいないよ」と返す類の誠実さにグッときました。あと、学食でカレーより先に図面を見せてくる類の研究熱心な姿が微笑ましい。サーボモーターを選ぶ場面も、ふうに選択を委ねつつ自分の推しを伝える類の立ち位置が素敵で、次が待ち遠しくなりました。