「紗良ちゃんと中野さんって釣り合わないよね。」
「顔で仲良くしてるんじゃない?」
何度も彼女と私は釣り合わないと言われた。
そしてみんなが行き着く先は全て顔。
顔がなんだというのだ。
顔なんて薄目で見たら全員同じ。
嫌なら整形でもメイクでもすればいい。
結局人間見た目なのだろうか。
「紗季、気にしなくていいからね」
「私は顔なんかで紗季のこと見てないから!」
彼女はいつもそう言う。
そんなこと言われなくても分かっている。
妬みと憎しみが込められた醜い感情。
共感性羞恥という感情を初めて感じたのはこの時だった。
「分かってるよ、全部。」
「テスト返しやだぁ!」
「紗季は余裕そうで良いよねー…」
テストとはどのくらい授業を理解しているのかではなく記憶力を試すものだと思う。
私は記憶力がいい方だから毎度テストの点数は良い。
一度も心配をしたことは無い。
「紗季!五教科何点?」
「国語以外100点。国語は、72…。」
国語が一番嫌い。
基礎なのも大事なのも分かってる。
けれど人が何を言いたいのかが分からない。
自分の考えを書くことができない。
「凄いじゃん!私なんて全部50点代ー!」
そう笑顔で答案用紙を見せてくる。
その笑顔が余りにも眩しくて彼女にスポットライトが当たったかのように輝いていた。美しかった。
「あれ、?紗季?」
「おーい!点数が低すぎて呆然としてるのー?」
そう言いながら私の目の前で手を振っている。
真剣な表情が可愛くて思わず笑みが零れてしまう。
「ふっ、ふはっ、あははっ!」
「え!?なになに!紗季が声出して笑ってる!」
「どうしたの?!」
私が笑うと彼女も不思議と笑い始める。
そんなところも可愛くてつい抱き締めたくなる。
「なんでもないよ、!」
「えー?そう、?」
そう言って背を少し屈めて私の顔を覗き込む彼女。
不思議そうな顔をして大きな瞳でじっと私を見てくる。
「なんか、今日変なの」
そう言ってふわっと笑う。
その雰囲気に吸い込まれるみたいに頭が詰まる。
「 、」
「え?なんて?」
不意に本音が漏れてしまう。
口を抑えて下を向いた。
「なんでもないよ」
その日は初夏の風が吹いていた。