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「――ってなわけで。バレたなら、いっそのこと利用してやろうじゃん」
月曜日の朝、昇降口の裏。星蘭は上履きに履き替えながら、ジト目のまま不敵にニヤリと笑った。スマホの画面には、案の定クラスのグループLINEで「大橋と穂志羅が放課後ガチ告白してた」と大騒ぎになっているスクリーショットが映っている。
「は? 利用って、お前何企んでんだよ」
蹴翔は寝不足気味の目をこすりながら、すでに右の耳たぶを無意識に触っている。星蘭はそんな相棒の肩をポンと叩くと、これ以上ないくらい生き生きとした『悪巧みの天才』の顔を見せた。
「噂になったなら、演技をすればいい。……ねえ蹴翔、これって私たちの『腕の見せ所』だと思わない?」
「腕の見せ所ぉ?」
「そう。クラス中が私たちのガチ告白にハラハラしてるなら、その斜め上を行ってやるの。今日から私たちは――クラス公認の『超バカップル』の演技でいくよ。バカバカしいくらいお互いしか見えてないカップル。でも、演技のクオリティは120点。あいつらが二度と茶化せないくらい、完璧に信じ込ませて黙らせるの」
蹴翔の動きがピタッと止まり、顔が一瞬でカッと赤くなった。
「お、おい! ガチで信じ込ませるって、それじゃあ完全に……っ」
「何? 騙しの天才の私が、本気でカレカノを演じようって言ってるんだよ。それとも、トレンディ俳優の蹴翔くんは、照れちゃって本気の演技ができないわけ?」
「……はっ、誰に向かって言ってんだよ。上等じゃねえか、やってやろうじゃん!」
売られた喧嘩(と照れ隠し)を買い、蹴翔はいつものいじわるな笑みを引っ込め、プロの表情を作った。ガラリ、と教室の扉を開けた瞬間、案の定、クラス中から「お、噂の二人だ!」「ヒューヒュー!」と凄まじい冷やかしの嵐が巻き起こる。だが、二人の『プロの演技派』としてのスイッチは、すでに完璧にオンになっていた。いつもなら「何言ってんだよ!」と大げさに騒ぐところだが、今日の二人は違った。星蘭は冷やかしの声など聞こえていないかのように、トボトボと切なげな表情で自分の席へ向かう。そして、席に着くなり、机に突っ伏して小さく肩を震わせた。昨日、放課後の教室で見せたあの「嘘泣き」のクオリティを、さらに繊細にした『傷つきやすいヒロイン』の演技だ。
「おい、穂志羅、マジで付き合ってんのー?」
悪ノリした男子が星蘭の席に近づこうとした、その瞬間。ドンッ、と鋭い音が教室に響いた。蹴翔がその男子の前に立ちはだかり、机を片手で叩いて遮ったのだ。いつものクソガキのニヤケ顔は一切ない。冷徹で、だけどどこか必死な、本気のトーンで男子を睨みつけた。
「……静かにしろよ」
低く、よく通る声。教室の空気が一瞬でピキリと凍りつく。
「星蘭が困ってんだろ。……あいつ、昨日の放課後からずっと、お前らが面白半分に言い触らすのを気にして、一晩中泣いてたんだぞ」
「え、あ……ごめん……」
蹴翔のあまりにもガチすぎる凄みと、今にも消え入りそうな星蘭の背中に、からかっていたクラスメイトたちが一気に青ざめる。そこへ、星蘭がゆっくりと顔を上げた。その瞳には、今度こそ本当に美しい涙がたっぷりと溜まっており、夕日ではなく朝の光を浴びてキラキラと輝いている。星蘭は震える手で蹴翔のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
「……蹴翔、もういいよ。私が、昨日ちゃんと気持ちを伝えたのがいけなかったの。蹴翔に迷惑かけちゃって、ごめんなさい……っ」
「星蘭、お前が謝ることじゃない。俺だって、星蘭の気持ちが嬉しかったんだから。……これからは、俺がアイツらの外野の声を全部黙らせるから。お前は俺の隣で、笑ってろ」
蹴翔はそう言うと、星蘭の頭をそっと引き寄せ、クラスメイトたち全員に見せつけるように、愛おしそうにその髪をぽんぽんと撫でた。
「……っ」
あまりにもクオリティが高すぎる、映画のワンシーンのような二人の『本気のカレカノの演技』。バカバカしいほどお互いしか見えていない、だけど美しすぎるその絆の演技に、教室中の全員が言葉を失った。
「ガ、ガチだったんだ……」
「茶化しちゃダメなやつだ、これ……。本物の純愛じゃん……」
クラスメイトたちは完全に二人の張り巡らせた「完璧な嘘(演技)」に騙され、罪悪感すら抱きながら、静かに席へと戻っていった。からかいの空気は一瞬で消し飛び、クラス公認の、誰も触れてはいけない『本物のカップル』が誕生した瞬間だった。チャイムが鳴り、授業が始まる。クラス中を完璧に化かしきり、一番後ろの隣り合う席に座った二人。前を向いたまま、星蘭は赤くなった顔を教科書で隠し、心臓のドラムがうるさく鳴り響くのを必死に抑えていた。
(な、何あの蹴翔のセリフ……っ! 演技って言ったのに、あんなの、本気で言われてるみたいじゃん……っ!)
隣の蹴翔もまた、黒板を睨みつけながら、ちぎれそうなくらい右の耳たぶを激しく触り続けていた。
(クソ、星蘭のあの涙、反則だろ……。完璧に信じ込ませるって言ったって、あんな顔されたら、演技でも、本当に抱きしめたくなるに決まってんだろ……!)
クラス中を完璧に騙した、世界で一番うますぎる「カレカノの演技」。だけど、机の下で、お互いに限界まで赤くなった顔を隠しながら、言葉にならない本音を爆発させている二人の距離は、どんな高度な嘘でも隠しきれない、100%の本物へと変わっていった。
コメント
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おお~、これはもう胸がきゅんきゅんしちゃいました!💕 お互い“演技”って言いながら、机の下で限界まで赤くなってるの、完全にバレバレですよ!(笑) 蹴翔の「お前は俺の隣で笑ってろ」は反則級の破壊力でした…。ああいう、照れ隠しのプロ根性みたいな台詞、めちゃくちゃ好きです。らるあるとさんの甘々ツンデレの匙加減、天才的ですね!🤍