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長らく胸の奥にしまい込んでいた辛かった日の記憶がよみがえり、リオは目を開けた。そして胸を押さえて周りを見て安堵する。今はあの日じゃない。あの村に住んでいない。ここは狼領主の城で、ギデオンの部屋のギデオンのベッドで、ギデオンが隣にい…る…。
「なんでだよ」
リオは小さく言って息を吐く。
まただ。三度目だ。どういうこと?一緒に寝るだけでいいんじゃないの?なんで俺を抱きしめてるんだよ。いつもいつも息苦しいんだよ。
そうブツブツと文句を言うリオの身体は、|逞《たくま》しい腕にしっかりと抱きしめられていた。
そしてギデオンは、話していたとおりに深く眠っている。規則正しい寝息が聞こえ、とても気持ちよさそうに眠っている。
リオはギデオンの腕から抜け出そうと動いてみたが、無理だとすぐに諦めた。それに安眠しているギデオンの顔を見ていると、動いて起こしてしまうのは可哀想に思えてきた。
「本当に不眠だったのかってくらい、よく眠ってるよな。俺で役に立ててよかったよ…。でもさ、くそっ…離してほしいんだけど」
ギデオンの腕は筋肉がついて太いから重い。それがのしかかってる上に、まあまあの強さで抱きしめられているから、顔が胸に押しつけられて苦しい。
しかしよくこの状況で眠れたな、さすが俺…と自分自身に感心して、リオはじっくりとギデオンの様子を観察することにした。
伏せられた瞼から伸びる長いまつ毛も、髪の毛と同じように、カーテンの隙間から差し込む光に当たって青く見える。
「黒ってかっこいいよな…。俺の金髪は、母さんからの贈り物だから自慢に思ってるけど、黒も好きだな」
そう呟いて思わず手を伸ばした。指先に触れたギデオンの髪は、硬そうに見えて柔らかい。アンと毛並みが似ていると感じて、可笑しくて笑っていると、「楽しそうだな」と低い声が聞こえて驚いた。
リオは慌てて手を引っ込めて「ごめん」と謝る。
「なぜ謝る」
「いや、勝手に髪を触ったから」
「別に構わない。ゆっくりと寝ていいと言ったのに、リオは早起きだな。おはよう」
「おはよう。俺ってば働き者だから、朝になると起きちゃうの」
「なるほど、良いことだ」
あ、笑ったとギデオンに見とれていたが、未だ解かれない腕にリオは抗議の声を上げる。
「なぁ、一緒に寝ることに承諾はしたけど、こんなに密着するなんて聞いてないよ」
「……え?うわあっ!」
リオに言われてギデオンの動きが一瞬止まる。そして今気づいたかの様に驚いて、弾かれるようにリオから離れた。