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大丈夫。大丈夫さ。きっとまた戻れるから。
もう一度やり直そう、2人が出会ったあの時へ。
ー僕たちが出会ったのはふとした瞬間だった。
雪が降り頻る、頬が赤く染まり息が白く濁る、
そんな日の夜だった。
僕は逃げていた。黒服の男達だ。
心当たりがあるとすれば、お昼に寄った陽だまりカフェで見知らぬ人に珈琲をこぼしてしまったことだ。
何故、そんなことで僕が命を狙われなければならない。特に目立った行動はしていない。
そればかりか、生きてきて、ろくに良い事がなかった筈だ。
そんな悲哀な考えをしていながら逃げていた。
「なんで僕を狙うんですか!?」
黒服は聞く耳を持たずに迫ってくる。
見た感じ、黒服の2人は身体は2mを優に超えるはずなのに、とんでもない速さで迫ってくる。
見ればわかる手練だ。
このままじゃ追いつかれる。死ぬのは嫌だ。
これで死んだら何も残らない。そんなの世界に存在しないと等しいじゃないか。
僕は死にものぐるいで街中を駆け巡った。
路地裏に入り、曲がり角を曲がった。
しかし、そこには嘆きを突き放すようにどこまでも高く僕にはとても越えられない壁があった。
「あ、あぁ。そっか。」
もう黒服はすぐそこにまで迫ってきていた。
僕は座り込み、空を見つめた。
可哀想な僕を背に、生憎にも空はいつもの何倍も綺麗に見えた。
今宵は満月だった。月の光は見下ろす様に僕を照らしていて、それでいて見て見ぬふりをするように左から右へ通り過ぎていこうとしていた。
ーその時だった。
月にひとつの影を見た。そう、疑って眼を擦っても目の前の状況は変わろうとはしない。
僕は動くまま必死に手を伸ばした。届かないのは百も承知だ。だけどこれが最後の望みなら
“助けてください”
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「貴方の助けを乞う聲が、祈りが私を導きました。これより、執行を始めます。」
黒服はもう目の前にまで迫っていた。
僕が死を受け入れた瞬間、
周りの視界が真っ赤に染まった。
鼻につくような鉄の香り、周りの光を吸い込むような深紅の色。
目の前にいたはずの黒服は跡形も無く消えていた。その代わりに1人の見知らぬ人影がぽつんと立っていた。
間違いなく、あの時に見た人影だ。
「あなたは?」
返事がないままこちらを少し振り向き、残念そうに黒いフードを深く被った彼は去っていった。
ーただ、振り向きざまに見た吸い込まれてしまいそうな深紅の瞳を忘れることは無かった。