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炎上したとはいえ、足元にあるのは固い殻と水分たっぷりのバルナバの実。表面を焦がす程度に燃えた後は、すぐに鎮火する。

ただし『スラッタル』の蔓や体はそういうわけにもいかない。蔓をバタバタと振り回し、慌てて火を消そうとしているのがよく分かる。


「パフィちょっとやり過ぎ!」

「え? あ? うん……?」(なんで急にあんなに燃えたのよ? アリエッタへの愛が強すぎたのよ?)

「と、とにかく、今がチャンスです! あの蔓がむき出しです!」


ミューゼに怒られたパフィだが、アリエッタの絵の力で燃えているとしか認識出来ないせいで、親バカ女神のおかしな祈りの暴走というズレた結論にたどり着く事はまず無い。

オスルェンシスの言葉で気を取り直し、大惨事になっている蔓の方へと向き直る。


『おおおおお!!』


コーアンが上から斬りつけ、ツーファンが横から同じく斬りつける。パフィも負けじとフォークを突き刺し、ナイフで斬り裂いた。


「ミュッ……」


全員が聞こえた『スラッタル』の鳴き声は、短く途切れ、聞こえなくなった。半透明の蔓の尾が音もなく落ち、大きな木の体から伸びていた細い蔓は、一斉に力を無くし垂れている。


「終わっ…た?」


ピクリとも動かなくなった『スラッタル』を見て、全員が少しだけ警戒を緩める。普通の動物ならば尾を切断しただけでは止まる事は無いという考えと、それでも弱点を斬ったならばあるいは……という考えがせめぎ合っていた。

しかし巨大な『スラッタル』の体は、もはやただの木の塊にしか見えない。

周囲を見渡すミューゼ達に、低空へと下りてきた『雲塊シルキークレイ』から、ピアーニャが声をかけた。


「おーい!」

「あ、総長」

「あっ!」(ママとぱひーの事で頭いっぱいで、ぴあーにゃがいるの忘れてた! そんなに顔出したら危ないよ!)

「おっと……あ……」

「うわなにをするやめろアリエッタ! ひっぱるなぁ!」


一旦静かになった事で、アリエッタはお姉ちゃんとしての役目を思い出す。危ない事をする妹分の安全を守るべく動きだした。

ちなみに、『雲塊シルキークレイ』による攻撃も見えてはいたが、操者であるピアーニャには何のモーションも無いせいで、悲しい事に攻撃したのがピアーニャだとは一切認識していなかった。言葉による説明が無ければこんなものである。


「あはは……あれ?」


苦笑しながら下を見たネフテリアが、斬り落とされた半透明の蔓を見て、眉をひそめた。

蔓は淡い紫の光を放ちながら、根本の方から徐々に消えていく。ミューゼ達もそれに気づき、距離をとる。

やがてほぼ透明の先端が消えようとすると、その場所には横たわる小さな生物の姿が現れた。


「ミュ……」


大きな耳と細長い尾を持つ小動物。尾の先は透明で、先程の巨大な『スラッタル』の動いていた姿をそのまま小さくした見た目。起き上がり、頭をフルフルと振っている。

ピアーニャとネフテリア、そしてミューゼとパフィにも、その姿に見覚えがあった。


「これってグラウレスタに生息している『スラッタル』!?」

「そのまんまなのよ。木とか似てるとかじゃないのよ」

「どういう事? ここにいるのも変だし、そもそもただの大人しい草食動物の筈なのに……」


よく仕事でグラウレスタに出向くシーカーにとっては、特に珍しいわけでもない森の小動物。その性格は臆病で、繁殖力が高く、狩りの対象になりやすいという、ごく普通の生物だった。

しかしそれだけに、今回の事件の謎が増えていく。


「みんな! できれば捕獲! 無理なら討伐! ここで逃したらまた同じ事になるかもしれない!」

「はっ!」


まず最初に動いたのはコーアン。警備隊として、同じ騒動を起こす事は避けなければならない。

片方のバルナバの実は捨て、もう片方の実を構えたまま、空いた手で『スラッタル』につかみかかる。しかし、


「は?」

「えっ……」

「なんだ!?」


反応が鈍い『スラッタル』を掴んだと思ったその手は、そのまま幻を相手にするかのようにすり抜けたのだった。

それで驚いたのか、『スラッタル』は慌てて逃げ出す。


「なんなのよ!?」

「待ちなさい! 【プリズン】!」


オスルェンシスの影による立方体が、『スラッタル』を包み込む。が、何事も無かったかのように、その小さな体は影をすり抜け、外に出た。


「くっ! 逃がしちゃダメよ! 【水の弾アクアバレット】!」

「【水の弾アクアバレット】!」


上から見ていたネフテリアも、慌てて参戦。相手が小さい為、弾数の多い魔法で狙う。続いてミューゼも杖を振りかざし横から同じ魔法を放つ。

ネフテリアの水の魔法も、これまでと同じくすり抜けていく。しかし上から降り注ぐ水の弾で『スラッタル』は混乱し、まっすぐに逃げられなくなっている。そこへミューゼの魔法が飛来した。


「ミっ!?」

「当たった!?」


これまでと違い、ミューゼの魔法だけがすり抜けずに『スラッタル』を弾き飛ばした。理由はもちろん誰にも分からない。

分からないが、チャンスとばかりにツーファンとパフィが接近。水の弾が収まったタイミングを狙って、ツーファンが斬りかかった。しかし鋭いその斬撃は、これまでと同じく『スラッタル』の体をすり抜ける。

驚いた『スラッタル』は遠くに逃げるかのように、高く跳び上がった。そこへすかさずパフィがフォークを突き出した。が、これもすり抜けてしまう。


「なんなのあれ! なんでミューゼだけ!?」

「【縫い蔓ストリングヴァイン】!!」


パフィの攻撃後の為に魔法を準備していたミューゼが蔓を伸ばす。いつもの調子で連携したが、やはりどういう訳か、すり抜けずに捕らえる事が出来ている。


「トドメなのよ!」


そして、こちらもいつもの調子で追撃をかける。捕縛している蔓を斬らないように、ナイフで『スラッタル』だけを刺した。すると……


「! 手ごたえがあるのよ!」

「は?」


今度はパフィの攻撃が。ナイフで突かれた『スラッタル』は一瞬だけ発火し、直後に紫色の光となって消滅していった。


「……どういう事?」


そのネフテリアの呟きに、答えられる者はいなかった。




夜のヨークスフィルン。

事件は解決していないものの、原因となった『スラッタル』を討伐。本当に動かない事を確認する為、近くの建物に警備隊が待機し、監視する事になった。夜になって凍り付いてしまえば、もう安心である。

住人の多くは、バルナバの実で埋まった家に、2階の窓から出入りする事で夜の凍結から避難し、明日以降の復旧作業に備える事にしている。不幸にも家がつぶれた者は、警備隊の施設や宿などに避難した。他リージョンに当てがある者は、もちろんそちらに退避していた。


「あーあ、せっかくのバカンスだったのにねー」

「あと1日遊ぶ予定だったのに、ちょっと残念です」


ミューゼ達は、中がグチャグチャになった宿に戻り、大量発生したバルナバの実を使った料理を堪能した。宿は従業員がある程度掃除したお陰で、完全ではないがかなり綺麗になっていた。

騒動で遊べなくなってしまったが、砂浜までバルナバの実で埋まっていては、復旧するまで誰も遊ぶ事は出来ない。今日の所はゆっくり休み、明日帰る事にしたのだった。


「貴女達はいいわねぇ。わたくしとピアーニャは報告書をまとめなきゃいけないってのに」

「……わち、こんかいだけはアリエッタとイッショにいたいとおもった」

「あっ、それズルい」


今回の色々と不可解な事件の事を、どうやってまとめるかで既に悩んでいるネフテリアとピアーニャ。

何故グラウレスタにいる筈の生物が現れ、巨大植物化したのか。何故ミューゼとパフィのみ手を出す事が出来、そして消滅したのか。何故ツーファンの兄がヨークスフィルンで変態になっているのか。

ため息が出る程に謎だらけだが、今は追及する元気すら無い。


『はぁ~……』

(みんな疲れてる。多分だいたいママのせいだ。僕が責任もってなんとか元気づけてあげないと……)


アリエッタは間接的とはいえ、エルツァーレマイアのやらかした事に責任を感じ、何か出来る事は無いかと考え始めた。

食事が下げられた広い室内を見渡すと、自分達の他にも王子達、護衛の兵士やシーカー、そして共闘した植物園の係員を含めた全員がグッタリしている。フレアが全員を労いたいと、食事と寝床を可能な限り提供したところ、アリエッタは戦時中の詰所ってこんな感じかなと勝手に思っていた。

騒動が起きてから姿が見えなかったディランがこれまで何をしていたかというと、共に行動していた護衛と協力し、バルナバの実から迅速に人々を救助していた。主に幼女を中心に。実際に感謝される行動でしかないので、ネフテリアやミューゼ達からも行動理由以外は普通に褒められていた。


(んん~……今の僕なら……でもなぁ……)


窓に映る自分の姿を見て、ある事を閃く。なにやら躊躇しているが、他に思いつく良案が無い為、あっさり決心する。

すぐに同じ室内で心配そうに周囲の世話をしているノエラとルイルイを引っ張り、部屋を出た。


「……アリエッタ?」


ミューゼは何事かと思ったが、アリエッタに気を使われているのだろうと思い、ノエラ達に世話を任せて休む事にした。


「アリエッタちゃん、どうしたんですの?」

「あうー、ふくっ、アリエッタ……」(えっと、どう言えばいいんだ!?)


部屋から出たアリエッタは、必死にやりたい事を伝えようとした。

フラウリージェ店員は、全員ミューゼ達と同じ宿に移動している。緊急時の為、ネフテリアが強制的に集合させたところで日が暮れたのだ。避難する側だった店員達は、『スラッタル』を相手にしていたミューゼ達や住人を避難させていた兵士達に比べて疲労は少なく、食事中も疲労困憊の面々の世話をしていたのである。


「か、かわいい……♡」

「これはたまりませんね……ごくり……」


一生懸命なアリエッタを見て、興奮しだす2人。

なかなか伝わらないが、どうしてもやり遂げる必要があると思っている為、その行動を止める事は無い。

やがて何かに気付き、違う場所を指差し、自分を指差す。指し示す方向を見たノエラとルイルイは、なんとなくアリエッタがやりたい事が分かった気がした。


「ルイルイ、あと4人連れてきなさい。あと王妃様も。こんな健気な意気込みを無駄にしちゃいけませんわ」

「はいっ!」


ルイルイは室内に戻り、ノエラは近くにいた女性の従業員に声をかけ、アリエッタをつれて今夜緊急で宿泊する事になった自分達の部屋へと向かうのだった。

そして……──

からふるシーカーズ

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