テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
もな
291
115
ゴールデンウィーク前の4月下旬、晶子の高校では3年生の三者面談があり、晶子本人と晶子の母親、担任の男性教師で話し合いが行われた。
晶子は希望する進学先として国立大学2校と私立大学2校の文学部を挙げていた。だが担任は晶子の希望に否定的な言葉を繰り返した。
「篠崎さんの偏差値ならギリギリ政治経済学部を狙えますよ。今はどこの大学でも文学部は合格偏差値が下がっていますからね。どうせなら高い方を受験してはいかがですか?」
晶子の母親は落ち着いた口調で答えた。
「まあ、それは本人が何をしたいかによりますし。晶子、あなたは大学で何を勉強したいの?」
母親の問いかけに晶子は蚊の鳴くようなか細い声で答える。
「ううん……歴史、特に日本史」
それを聞いた担任が少し眉をしかめて言った。
「今どき歴史なんて専攻しても、就職活動では有利な事はないと思いますけどねえ。将来はご両親のように一流企業に就職するつもりなんだろう?」
担任の問いかけに晶子は顔をくしゃくしゃにして必死に作り笑いを浮かべた。
「ええと、そこまで先の事はまだよく考えてなくて」
担任が畳みかける。
「いやいや、大学選びは就職の決め手ですよ。そこで間違うと一生後悔する事になりかねない。お母さんはどうお考えです」
晶子の母親は余裕の微笑を浮かべながら担任のそれ以上のごり押しを遮った。
「私の経験から言っても、大学で本当に自分が学びたい事を学ぶのも大事だと思います。まあ、受験まではまだまだ時間がありますので、本人にはゆっくり考えさせたいと思います」
担任は納得できない様子だったが、それ以上はその件には触れず、今後の受験指導のプログラムの日程を母親に説明して、その日の面談は終了となった。
母親と一緒に帰宅の途につきながら、晶子が不安そうに母親に訊いた。
「なんか、あたしの進路希望って周りとずれてるのかなあ?」
母親は笑いながら晶子に言った。
「学校としてはなるべく合格偏差値の高い所に行って欲しいんでしょ。その方が進学実績が上がるからね。でも、晶子は自分の事だけ考えていればいいの。自分がやりたい事をやらない方が、絶対後悔するわよ」
コメント
1件
第73話、読みました。担任の先生が「今どき歴史なんて」とバッサリ切るの、ちょっと胸が痛かったです。でも晶子のお母さんの「自分がやりたい事をやらない方が絶対後悔する」という言葉に、じんと来ました。周りの価値観に流されず、自分の興味を大事にしていいんだよって背中を押してくれるような。晶子がどう進路を選んでいくのか、今後も見守りたくなります。