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番外編
逃げてきた街で暮らし始めて、数日が経った。
小さな古いアパートの一室。
安いけれど、ふたりには十分だった。
布団はひとつ。冷蔵庫は小さく、窓からは街の騒音が聞こえる。
だけどその全部が——
目黒蓮にとっては“安全”の象徴だった。
朝、目黒が目を覚ますと、
隣で向井康二が静かに寝ていた。
腕を伸ばせば触れられる距離。
逃げる前には想像できなかった距離。
目黒はそっと康二の指先に触れた。
眠っている康二の手が、反射的にぎゅっと握り返す。
「……康二くん」
その小さな声で、康二が目を開けた。
寝起きの声は少し低くて、いつもの明るさよりも落ち着いている。
「蓮……起きたん?」
「うん……」
康二は体を起こして、寝癖のついた髪をかきあげる。
その仕草さえ、目黒には眩しく感じた。
「なに見てんねん」
「……康二くんの顔」
素直すぎる答えに、康二は少し固まり、
そのあと、ゆっくり笑った。
「もー……そんな可愛いこと言うなや」
そう言って、目黒の頬を軽くつまむ。
目黒は恥ずかしそうに顔を逸らすけど、
康二の指はそのまま目黒の顎に沿って滑った。
「蓮」
「……なに?」
「俺ら、もう恋人やんな?」
目黒の呼吸が少しだけ止まる。
「……恋人、でいいの?」
康二は、目黒の手を自分の胸の上に置いた。
「蓮のおかげで、俺、生きてるんやで。
蓮は俺の全部支えてくれとる。
それを恋人って言わんで、なんて言うん」
目黒の指先が震えた。
胸の奥から、じわっと熱が上がってくる。
「……俺も。康二くんのこと……」
言いかけて、声が揺れる。
康二は目黒の頬に手を添え、
無理に言葉を続けなくていいと言うように、
静かに笑って首を振った。
「わかってる。言わんでも、蓮の顔が言ってる」
目黒は少しうつむいたが、
康二の方へとそっと身体を寄せる。
「……康二くん」
「ん?」
「好き」
その言葉は、震えているくせに、
どこまでも真っすぐだった。
康二の表情が一瞬だけ崩れるほど嬉しそうで、
目黒は胸が痛くなる。
「……蓮、こっち来い」
腕を引かれて、目黒はその胸の中に収まった。
首元に額を押しつけると、
康二の鼓動がとても近い。
「離れんといてな」
「離れない……もう絶対」
「蓮が言うと、ほんまに重いんやけど……」
「……重いの嫌?」
「嫌やない。むしろ……嬉しい」
康二の声が小さく震えているのがわかった。
ふたりの距離は、
もう“友達”のそれじゃなかった。
目黒が顔を上げると、
康二の目が同じように揺れていて——
康二は、小さく囁いた。
「……キスしてもええ?」
目黒の心臓が大きく跳ねる。
けれど首は、静かに頷いた。
距離が近づいて、
息が混ざるほどのところまで来て、
そのまま——
唇が触れた。
逃げたふたりが、
“恋人”として始まる静かな朝だった
完全に終わりになります!!
今度は🖤🧡のなんかドロドロ系じゃなくて王道系かけたら長編小説書こうと思ってます
コメント
1件
ちょーーー楽しみ‼️