テラーノベル
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サンダリオス家の屋敷は、グランドランドの山脈に囲まれた荘厳な城だった。
石壁には古の魔法の紋様が刻まれ、窓からは炎と風の粒子が揺らめく。
広間では、エリザ、パイオニア、ルナが円卓を囲み、緊迫した作戦会議が開かれていた。
第15話でのセレスティア魔法学園での敗北――
アルフォンスの「記憶の鏡」と
レクトの巨大なレモンによる妨害――は、
彼らのプライドに深い傷をつけた。
サンダリオス家は、グランドランドの頂点に君臨する一族だ。屈辱は許されない。
「アルフォンスの魔法…あの『記憶の鏡』は厄介だ。」
パイオニアの声は低く、炎のように熱を帯びていた。
国を守る仕事の長として、彼の炎魔法は敵を焼き尽くしてきたが、アルフォンスの心理戦には一瞬動揺した。
「奴は我々の心を揺さぶる。次は、もっと徹底的に叩く。」
ルナが冷たく笑う。
彼女の影魔法が、広間の床に黒い霧を漂わせる。
「あの老いぼれは問題じゃないわ。問題は…レクト。
あの落ちこぼれが、なぜあんな強大な魔法を?」
彼女の声には、弟への軽蔑と、どこか拭いきれない苛立ちが混じる。
エリザは黙って窓の外を見つめていた。彼女の風魔法は、感情が揺れるたびに空気を震わせる。
第7話の戦い、第15話の巨大レモン。
あのフルーツ魔法に、彼女は一瞬、息子の可能性を見た。
だが、パイオニアの圧力は彼女を縛る。
「レクトを…退学させるには、どうすれば…」
彼女の呟きは、ほとんど聞こえないほど小さかった。
パイオニアが拳を円卓に叩きつける。
炎の粒子が飛び散り、部屋が一瞬熱くなる。
「退学? そんな生ぬるいものではない。セレスティア魔法学園そのものを破壊する。それが、サンダリオス家の名を守る道だ。」
彼の目は、まるでレクトを焼き尽くすかのように燃えていた。
ルナが提案する。
「スパイを送り込むのはどう?
老いぼれ校長が厄介だというなら、
レクトの魔法を…『変更』させる。
フルーツ魔法を別の魔法にすれば、楽に丸く収まるじゃない。」
彼女の影が、まるで笑うように揺らめく。
エリザが顔を上げるが、言葉を発しない。
パイオニアが頷く。
「いい考えだ。レクトを内部から壊す。準備を進めよう。」
その夜、パイオニアは国を守る仕事の出張で屋敷を離れていた。
エリザは一人、屋敷の書斎に座り、
携帯を手に持つ。
窓の外では、夜の風が唸り、彼女の魔法が微かに反応する。
第15話のレクトの叫び――
「ただ、認められたかっただけだ!」――
が、彼女の胸を締め付ける。
彼女は迷いながら、レクトの番号を押した。
セレスティア魔法学園の星光寮。
レクトは自室のベッドに座り、
バナナの魔法の杖を握りしめていた。
ゼンの死、サンダリオス家の拒絶、第15話での戦い。
すべてが彼の心を重くする。
俺の魔法…学園を救ったけど…本当にそれでいいのか?
携帯が鳴り、画面に「母」と表示される。
心臓が跳ねる。震える手で電話を取る。
「…母さん?」
「レクト。」 エリザの声は、抑えた響きだった。
だが、どこか温かさが滲む。
「…少し、話したい。」
レクトの胸が締め付けられる。
第12話の電話、体育祭での彼女の揺れる視線。
母は、どこかで彼を認めようとしているのかもしれない。
だが、パイオニアとルナの影がちらつく。「何…?」
エリザは深呼吸し、話し始めた。
「サンダリオス家の歴史…知っておくべきだと思う。」
彼女の声は、まるで過去の重みを背負うようだった。
「我々は、グランドランドの守護者として、何百年も戦ってきた。パイオニアは…国のために、すべてを犠牲にしてきた。
彼の炎は、敵を滅ぼし、国を護るためのもの。だけど、…その重圧は、彼を厳しくした。」
レクトは黙って聞く。
エリザが続ける。
「レクトを追い出したのは…最終的にはパイオニアの決断よ勿論。
サンダリオス家の名は、完璧でなければならない。
彼にとって、フルーツ魔法は…弱さの象徴だった。まだ未熟なのもあって、私だって驚いたもの……。
レクトがその魔法に固執する限り、彼はきっと……レクトを認められない。」
「…どうして?」 レクトの声が震える。
「俺の魔法が…そんなに恥なの? ずっとずっと練習して……前よりは強くなってるのに!」
エリザの声が一瞬途切れる。
「…私だってレクトを認めてあげたい。だけどパイオニアの意志は…あまりにも強い。」
彼女の言葉には、母としての葛藤が滲んでいた。
「レクト…ごめん。それだけ知って欲しかったの」
電話が切れる。
レクトは携帯を握りしめ、ベッドに倒れ込む。
父さんが…僕を捨てた理由…
サンダリオス家の歴史、国の守護者としての重圧。理解はできた。
なぜ、僕の魔法じゃダメなんだ…?
ゼンの死、
家族の拒絶、
仲間を危険に晒した罪悪感。
すべてが彼の心を締め付ける。
レクトは立ち上がり、
寮のシャワー室に向かった。
薄暗いタイルの部屋で、シャワーの水音が響く。
彼は服を脱ぎ、熱い湯をかぶる。水が肌を叩き、髪を濡らす。そして目を閉じる。
*母さんの声…温かかった。
でも、父さんとルナは…*
水が涙と混じる。シャンプーを手に取り、髪を洗う。
泡が指の間を滑り、排水溝に流れていく。
シャワーを終え、タオルで体を拭く。
水滴が床に落ち、静かな音を立てる。
彼は脱衣所に戻り、制服を着る。
シャツのボタンを留め、ズボンを履く。
鏡に映る自分の顔は、疲れと迷いに満ちていた。
(サンダリオス家の名なんて、僕には重すぎる…)
脱衣所を出ると、星光寮の廊下は静かだった。
人は沢山いるのに、
レクトの心が音を遮るから。
サンダリオス家の屋敷。
パイオニアが、出張から帰還した。
広間の扉が開き、
彼の後ろには一人の少女が立っていた。
13歳前後、レクトと同い年。ピンク髪に鋭い目、キラメキと愛くるしさを放つ微笑みを浮かべる少女。
エリザが眉をひそめ、ルナが興味深そうに目を細める。
「彼女は…?」 エリザが問う。
パイオニアが答える。
彼の声は、炎のように冷酷だった。
「フルーツ魔法は、サンダリオス家の恥。彼女の魔法で、レクトの魔法を別のものに変える。」
ミラが一歩進み、ニッコリと微笑む。
「ご安心を。私、失敗しませんよ。」
彼女の手から、謎の果実が現れる。
ルナが笑う。
「面白いわ。そしてミラさん、その果実は何?」
「ああ……これは、『禁断の果実』です。
この果実を食べさせれば人の魔法は別のものに変わる。
私の魔法でスパイとして潜入し、彼にこの果実を食べさせるのです。」
「……へぇ、ちなみにどんな魔法に変わるの?」
「それはまだ分かりません。禁断の果実は、魔法を指定できないのです。」
エリザは黙り、窓の外を見つめる。
レクト…ごめん…
セレスティア魔法学園に、新たな嵐が迫っていた。
次話 8月7日更新!
コメント
5件
ヴェルがセクシーすぎる!