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やはりヴェルが可愛い!そして扉絵がエモい!
Episode.17
セレスティア魔法学園の朝は、初夏の陽射しに穏やかに輝いていた。
第15話でのサンダリオス家との戦いの傷跡は、教員たちの修復魔法で消え、校舎は再び静かな学び舎に戻っていた。
星光寮の窓から差し込む光が、木製の床に柔らかな模様を描く。
だが、レクト・サンダリオスの心は、依然として重い影に覆われていた。
朝の教室は、生徒たちのざわめきで賑わう。
黒板には魔法理論の数式が書き連ねられ、窓の外では庭園の花々が風に揺れている。
そんな中、フロウナ先生が教壇に立ち、柔らかな声で告げた。
「みんな、今日から新しい仲間が加わるよ。
ミラ・クロウリー、星光寮の転入生だ。仲良くしてあげてね。」
扉が開き、
14歳の少女が教室に入ってきた。ミラ・クロウリー。
黒い髪でショートカット、紫色の瞳が鋭く光る。
彼女の微笑みは、どこか冷たく、だが不思議な魅力に満ちていた。
「ミラでーす、よろしくお願いします!!!」
生徒も教師もは14歳だということを知らない。
制服の袖口には、鋼のような光沢のブレスレットが輝き、彼女の魔法「鋼」の片鱗を覗かせる。生徒たちがざわつく中、ミラの視線はまっすぐレクトに注がれた。
「ねえ、レクト君、だよね?」
ミラが近づき、軽やかに微笑む。
彼女の声は、まるで金属が擦れるような澄んだ響きを持ち、12歳のレクトの耳に甘く響いた。
「これから、仲良くしてね?」
彼女の手が、さりげなくレクトの肩に触れる。
指先の冷たい感触と、彼女の髪から漂う微かな花の香りに、
座席についているレクトの心臓がドキンと跳ねる。
「う、うん…!」
慣れない女の子の接近に、彼の頬がカッと熱くなる。
(何だ、、、……?この感じ…?)
彼は目を逸らし、バナナの魔法の杖を握る手に力を込めた。
ヴェルは教室の後ろからその光景を見つめていた。
彼女の「震度2」の魔法は、地面を微かに揺らすだけで戦闘には役立たないが、彼女の心は今、大きく揺れていた。
レクト…あの女の子と…
ミラの微笑みと、レクトの赤い顔に、ヴェルの胸にチクリと痛みが走る。
彼女の手が、机の上で握りしめられる。
サンダリオス家の屋敷。
広間の円卓は、冷たい石の質感を帯び、壁には古の魔法の紋様が刻まれている。
パイオニアは国の守護者としての権限を使い、グランドランドの深部「永遠の果樹園」に潜入していた。
そこは、魔法の神が数千年前に人間の欲望を試すために創り出した禁断の領域。
紫色に輝く「禁断の果実」が生る果樹園は、呪われた霧に覆われ、侵入者を拒む。
果実は、食べると魔法を根本から変える力を持つが、心を蝕む副作用がある。
伝説では、果実を食べた者は新たな力を得るが、自我を失い、欲望に支配されるリスクもあるとされている。
パイオニアは、その果実を入手した。
己の権力の高さと武力の高さが故である。
目的は、レクトのフルーツ魔法を「サンダリオス家にふさわしい力」に変えること。
国の兵器開発にも利用可能な果実を、
彼はレクトの「矯正」に使うことを決めた。
「レクトの魔法は、サンダリオス家の恥だ。この果実で、彼を我々の基準に引き上げる。」
彼の声は、炎のように残酷だ。
エリザが眉をひそめる。
「…そんな危険なものを、レクトに?」
彼女の台風魔法が、広間の空気を微かに震わせる。
ルナが冷たく笑う。
「面白いじゃない。弟を壊すのも、変えるのも、どっちも楽しいわ。」
ミラは、パイオニアが育てた超エリートスパイ。
14歳にして、鋼の魔法を操る彼女は、金属を自在に形成し、刃や盾を生み出す。
パイオニアは、ミラの忠誠心と冷徹な実行力を信頼し、果実を彼女に預けた。
「セレスティア魔法学園に潜入し、レクトに果実を食べさせろ。
彼の魔法を、我々の望む力に変えるのだ。」
ミラは微笑み、禁断の果実を握りしめる。
「了解しましたぁ!失敗はしません。」
彼女の鋼のブレスレットが、果実の光を反射して輝いた。
ミラの接近は、
日に日に大胆になっていった。
ある朝、
講義の合間にレクトが校庭のベンチでフルーツ魔法の練習をしていると、ミラが近づいてきた。
「ねえ、レクト君、こんな朝から頑張ってるんだ?
えらいね……!」
彼女は隣に腰掛け、レクトの膝に軽く触れる。
彼女のブレスレットがカチャリと音を立て、鋼の魔法で小さな花の形に変化する。
「ほら、プレゼント。」
ミラがその鋼の花をレクトの手のひらに置く。
冷たい金属の感触と、彼女の指先が触れる瞬間、レクトの顔が真っ赤になる。
「み、ミラさん…?
こんなの…もらっていいの?」
困惑気味な表情
「もちろん。レクト君、ちょっと気になってるから!」
ミラが微笑み、顔を近づける。
彼女の息が耳元にかかり、
レクトは思わず身を引く。
「あ、近い…!」
12歳の少年にとって、女の子のこんな接近は未知の領域だった。
ゼンの死、家族の拒絶、自己嫌悪――そんな重い思いが、ミラの笑顔に一瞬かき消される。
……
……ダメだよ俺……しっかりしなきゃ!
力を抜かないで、練習続けないと……!!!!
昼休み、
レクトはベンチで売店の弁当を食べている。
食堂でミラはレクトの隣に座り、おにぎりを一人で食べ始める。
「……また来たんだ、ミラさん」
「さん付けしないでいいよ!」
「え……!じゃ、じゃあ…………、ミラちゃん?」
彼女の手が、レクトの手を握る。
柔らかな感触に、レクトの心臓が跳ね上がり、箸を落としそうになる。
「う、うわ…! ミラさん、急に…!」
「なおってないよ、ミラちゃんだよー?」
彼の声が上ずり、顔がまた赤くなる。
ヴェルは遠くのテーブルからそれを見ていた。
(ミラさん……とつぜん入ってきていきなり何これ……!!?)
彼女の胸に、チクチクと痛みが走る。
(別にレクトはただの友達だから……、そういうわけじゃないけど、……!
もしなにか企んでたりしたら危ないし……っ、、と、止めなきゃだよね……っ!)
魔法実習の授業では、ミラが鋼の魔法を披露した。
彼女の手から鋼の刃が生まれ、標的を正確に切り裂く。
その流れるような動きに、生徒たちがどよめく。
「すごい…!」
レクトの目が輝く。
ミラが微笑み、彼に近づく。
「レクト君のフルーツ魔法も、負けてないよ。
見せて?」
彼女の声に促され、レクトはバナナの杖でパイナップルを生み出す。だが、ミラが手を伸ばし、レクトの杖を持つ手に自分の手を重ねる。
「こうやって…もっと集中。」
彼女の指が絡むように触れ、レクトの顔がさらに赤くなる。
「み、ミラちゃん……手…!」
「だって!パイナップルがなんか小さいんだもん!
もっと大きくしたいでしょ?」
「……っ///」
そんな日々が続いた。
ミラは、放課後にレクトを庭園に誘い、
木陰で一緒に本を読んだり、
鋼の魔法で小さな彫刻を作ってプレゼントしたり。
彼女の微笑みと軽いスキンシップが、レクトの心を徐々に絆していく。
(なんでだろう……、ミラちゃんと一緒にいると、なんだか安心する…
声と笑顔と存在感と……、すごく落ち着くんだよな……)
ヴェルは、
ミラとレクトの親密な様子を遠くから見つめていた。
彼女の「震度2」は、地面を揺らすだけで何もできない。
(レクト…私じゃ、ダメなの…?)
彼女の手が、制服の裾を握りしめる。
カイザとビータも気づいていた。
「おい、ヴェル、あんま落ち込むなよ。 レクトはただ転入生と仲良くしてあげてるだけだって」
カイザが電気魔法のスパークをチラつかせる。
ビータも頷く。
「時間操作でミラを遅らせたい気分だがな。」
「…………」
しかし、ヴェルの心は晴れない。
ある放課後、ミラがレクトに提案した。
「ね、週末にどっか遠くの街で遊ぼうよ。
色んなレクトくんをもっと知りたいしさ?」
彼女の紫色の瞳が、レクトを捉える。
彼女の鋼のブレスレットが光り、まるで彼の心を縛るようだった。
レクトの心臓がドキドキと高鳴る。
「う、うん…楽しそう…!」
顔が真っ赤になり、声が上ずる。
その瞬間、ヴェルが走り寄る。
彼女の声は震えていたが、目は真剣だった。
「レクトと…一緒に遊びたい。私も、友達だから!」
ミラの微笑みが一瞬硬くなるが、すぐに柔らかくなる。
「ふふ、もちろんいいよ!ヴェルちゃん。
じゃあ、3人でね。」
彼女の声には、どこか計算高さが滲む。
ミラの手には、禁断の果実が隠されている。
彼女の任務は、レクトにそれを食べさせ、フルーツ魔法を別の力に変えること。
レクト君…もう少しで、食べさせれるかな♡
レクトは二人の間で目を泳がせ、胸の高鳴りが収まらない。
サンダリオス家の影が、遠くで彼を見ているようだった。
次話 8月9日更新!