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瑠璃🍫✨💭ྀི
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家に帰ると、油断すると余韻に飲まれそうになって広睦くんから目を逸らした。
はやく、はやく。焦る気持ちでマチアプを開く。この数秒ですらもどかしい。広睦くんと会っている時は楽しむ。けど、それ以外は……。考えちゃいけない。会ってない時まで思い出しちゃいけない。
息を大きく吐いてメッセージを開く。何度かやり取りした人からだった。
『よかったら、今度会えませんか』
一番感じがいいと思っていた人からだった。どうしよう、なんて思っている場合じゃない。
『ぜひ、よろしくお願いします』
そう返事して一息ついた。前に進まなきゃ。直ぐに返事があり日時も場所も決まった。前へ進まなきゃ。
時は止まってくれないのだから。
入浴を済ませ、ベッドに横になってぼんやりとしていると言いようのない不安に押しつぶされる。このまま一生一人、結婚出来ないかもしれない。周りはみんな結婚して、子どももいるのに。自分だけ、結婚できない。そんな気がして不安に押しつぶされそうになる。結婚てどこかで中学とか高校に行くみたいにみんなが自然に行けるものだと思っていたのに、周りがどんどんライフステージをのぼっていくなか、自分だけがそこに行けない気がして。行きたいのに行けないジレンマが苦しい。誰かと付き合えばごく自然と結婚を意識する。恋愛相手ってそういうものだと思っていたのに……。
頭ではわかっている。結婚出来なくて私には他に手にしているものがあってけして不幸ではない。
でも、どうして結婚だけが出来ないんだろう。ほんとに?みんなが普通に出来ていることが私はどうしてできないんだろう。そう思うと勝手に涙が出てきて声をあげて泣いてしまった。
泣けてきたのはきっと不安だけじゃない。したくてたまらない結婚という目標のために切り捨てなきゃいけないものが、私の心の中で幅をきかせ、手離したくないものにかわりつつある。矛盾するものは併存出来なくてどうしていいか混乱しているのだ。
いいえ、わかってるのよ。どうしたらいいのかは。ただ、それが辛いだけ。辛いと思う自分が情けないだけだ。
私、何をしているんだろう――……。
はぁ。
朝、ため息で起きることが増えた。目の前の事は何も変わっていないのに、考えすぎてしまうことが増えた。考えても仕方が無くて、どうするかは最初から決めていたのに、つい考えては悩んでしまう。
人を振るのって難しい。ましてや嫌いな人じゃないわけだから。そして、その振る理由がまだ出会ってもない好きでもない人と結婚するためだというんだから。結婚って何なんだろう。
よくわからなくなってきちゃったな。
ちゃんと段階を踏んで恋人になった人と結婚まで至らなかったのが敗因だとわかっている。どこで間違えたんだろう。どうしてもっと……。
パッと現実に返る。いけない、遅刻しちゃう。
しっかりしなきゃ。どういようもないことで悩んだって仕方がない。今は仕事が充実している。そう思うといくらか気持ちが軽くなった。
この日はリニューアルのプロジェクトが始まる日だった。
それと、仕事終わりにマッチングアプリの人――田原さんと会う日だった。たまたまだけど始まりの日って感じがしていいじゃないの。そう気持ちを切り替える。
検索魔になってマッチングアプリのあれこれ流れを調べると成功者たちがアドバイスを残している。待ち合わせの最初はおごりおごられの面倒さがないセルフのカフェがいいとか。会社帰りの時間を有効に使う、とか。夜にカフェ?とは思うけど良かった時はそのまま食事へという流れがあるみたい。カフェで終われば、お察しってことなのかな。だいたい4回目くらいでつき合う流れになる。
そりゃあ、良くなかったら4回も会わないもんな――……。さすがに初めてのマチアプで上手くいくなんて思ってはないけど、頑張らなきゃ。
“今日、マチアプの人と会うんだ”
広睦くんには言えないでいる。上手くいった時、ううん、事後報告でいいよね。
今日はプロジェクトの顔合わせだ。そう時間はかからないはずで……。
実はちょっとだけプロジェクトリーダーに抜擢させるんじゃないかと期待したけど、私じゃなかった。プロジェクトメンバーに選ばれただけでもすごいことだけど、私は割と自分で自分に自信があったことを知った。残念だけど仕事にプライド持つのはいいことだよ、頑張ってきたもん。
誰だろう、リーダー……。
第一会議室、以前集められたメンバーがそれぞれ席に着き、パソコンと手元に配られた資料に目を通す。机の中央には商品サンプルが置かれていた。
前方のドアが開き、男性が入って来ると会議室は静まり、みんなが注目する。
「えっ」
誰かが驚きで声を上げた。何人かは待っていたとばかりに微笑むだけ。知っていたということだろう。私なんかは、驚いて声が出なかっただけ。
前に立ったのは――橘さんだったからだ。
「さて、この度指揮を取らせてもらうことになりました。……橘です」
橘さんが、なぜ。
疑問は残るけど彼ほど適任はいないとは思う。わざわざ支社から抜擢されるくらいだ。しばらくはこちらに長期滞在されるのだろうか、それとも短期で?
橘さんと仕事をするのは懐かしく、また慣れない仕事に必死だった時の気持ちが蘇り、一層身が引き締まる思いがした。あの頃よりずっと成長した私を見せられる。
この日は顔合わせと全体のざっとした流れの説明と枠組みの説明を終えると解散となった。
「東谷、お前がここにいて嬉しいよ」
「もう、びっくりしましたよ、橘さん。事前に教えてくれても良かったのに」
そう言うと橘さんは少しとぼけた顔をしてみせた。他の人は知っていたこと思うときっと私を驚かせるつもりだったのだろう。
より一層私にやる気が出てきて、初心に戻れてよかったと思った。
コメント
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このエピソード、すごくもどかしくて胸が締め付けられました。「結婚できない」という不安と、広睦くんへの気持ちを切り捨てなきゃいけない矛盾…その苦しさが、涙のシーンに全部詰まってた。最後に橘さんが再登場して「初心に戻れた」で締められたのが、一筋の光みたいでよかった。彼女の仕事への誇り、ちゃんと描かれてて好きです。