テラーノベル
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瑠璃🍫✨💭ྀི
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――就業時間を終えて、気分よく会社を出た。
スマホを開くともうすっかり頭に入っている待ち合わせ場所を確認する。
なんてことないセルフルサービスのコーヒーチェーン。30分もせずに着く。先にトイレに行ってメイクを直して。頭の中でシミュレーションしていた時だった。
「東谷」
声をかけられて振り返った。
「……橘さん。お疲れ様です」
「お疲れ、東谷の後ろ姿が見えたから追いかけてきたんだ。ちょっとどこかで食事でもして帰らないか」
「あ、私今日は……」
「そっか。急だったな。ふうん。デートか。っと、……こういうの今はセクハラって言われるのか」
「はは、大丈夫ですよ。えーっと、今日は、まぁ、そんな感じです」
「なんだよ。微妙な言い方して。東谷も相手が出来たんだな」
「……いえ、それが……」
駅まで一緒に帰ることになって話しながら歩く。馬鹿正直に話すこともないのに、言葉に詰まってしまう。
「ああ、この前の男の子か」
橘さんが広睦くんの事を覚えていてドキリとする。
「違います。その子でも無くて……」
じゃあ、何だよというような橘さんの目に渋々口を開く。どうも私はこの人には弱い。つい正直に話してしまう。
「婚活、です。マッチングアプリで出会った人と今日初めて会うんです」
小さな声で言うと、橘さんはこちらの気まずい気持ちを察したようで
「おー、頑張れな」
差し障りなく応援をしてくれた。
「色々頑張らなきゃなんです、私も」
「悪かったって。深い意味があって聞いたわけじゃかくて、プライベートまでとやかく言う気はないさ」
「わかってますよ。じゃあ、いい報告出来るように応援しててください」
そう言って橘さんと別れた。ううう、恥ずかしい。何となく、同情というか、気を使われた気がする。あの人の前では意識せず後輩感が出てしまう。後輩には違いないんだけど、いつまでも若手のような。やだわ、甘えているわけじゃないんだけど。
ちょっと熱くなった頬を手で押さえた。
待ち合わせに着くと、彼、田原さんは指定通りの場所にいて事前に教えてもらっていた通りの外見だった。
私も自分の飲み物を買って彼の目の前に座った。
「初めまして、田原です」
彼はそう言って感じのいい笑顔を向けてくれた。
優しそうな人……。
「東谷さん、こういうアプリで婚活するの初めてですか? 」
「え、はい。わかりました? 」
「ええ、何となく。逆に僕は……ベテランです」
冗談交じりで自虐するからつい私も緊張が解けてしまった。
「わ。じゃあ、田原さんにご指南いただかないと」
「ははは。何なりと」
田原さんは私の3つ上の男性で特別目を引くタイプでもないが、だいたいの人が好感を持つ爽やかな人だった。
「僕は結婚に急いではいなくて、40までに、と思って始めたんですけどなかなか難しい。こう言ってはなんですが、マチアプって意外に綺麗な人多いんですよ。東谷さんもそうですが」
田原さんはそう言ってにこりと笑った。ああ、何となくこういう出会いに慣れているんだなと感じたが悪い気はしなかった。
「そうなんですね。みんな理想が高いのかな」
「忙しいんだと思いますよ。みんな自分の事で忙しい。気づけば恋人もいないまま適齢期になっていて、子供のことを見据えると女性のほうはリミットが迫っていると感じて焦るんですよ。男だと僕の年でもまだまだ需要あって若いくらいの扱いしてもらえますけど」
「ええ、わかります」
「何でしょうね、普通に社会に出て周りの人見てたら、いくつ下はこの世代でこんな感じかーってわかるのに、婚活市場だと数字だけ見て若い女に行こうとする。普通の男は同年代好みますよ。だって、そこがしっくりくるでしょう」
「なるほど、わかります」
すごいわかるんだけど今の私には耳も痛い。こう考える普通の男性は貴重かもしれないのに。
「普通に出会った人にはそれなりに礼儀を尽くすのに、こういう出会いは乱雑に扱う人もよくいました。人間性出ますよ、勉強になりました。いちいち気に病んでたらダメなんだなってメンタル強くなりましたよ。だいたいみんな数人を同時進行で進めて、会って決めるって感じですかね。だから断ることにためらわないで下さい。婚活市場はそういう場所です」
「え? 」
「あれ、違いました? 途中からどうやって断ろうかなって考えてるんだろうなって気がしたから」
「そういうわけじゃ……まだよくわからなくて」
「最初は戸惑いますよね。初対面の人に次々会うのは消耗する。でも、“会う”までなかなかいかないから、会えるなら会っとかないとって思う。消耗しますよ、僕なんて結婚って何だろうって病みましたもん」
「あははは、でも、すごいわかります」
「こんな感じで、時間だけ過ぎて行きますから。手札が無くなった時の空っぽ感でまた病みます。こんな感じです、婚活って。何かしら楽しみ見つけないとやってられませんね。あははは」
明るく毒を吐くから、気負わず話せる。変に装う必要もなく。話しやすかった。
「最初にお会いしたのが田原さんで良かったです」
「はは、ちょっとぶっちゃけ過ぎましたかね」
「いいえ、楽しかったです。勉強にもなりましたし」
楽しく話してこの日はカフェで解散になった。
「では、またアプリで」
「はい、ありがとうございました」
田原さんは『またアプリで』とは言ったけど、連絡しますとも連絡くださいとも言わなかった。こっちに委ねたんだと思う。
私も、田原さんから連絡があればまた会おうと思う。けど、自分から連絡するほどかと言われれば、そうじゃないと思う。お互いに、そうなのだと思う。これからまた何人かに会って比べて最初の人が一番良かったかも、そう思ってまた声をかける……。これは、荒みそうだ。
コメント
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うわあ、めっちゃリアル……。婚活の「手札が無くなった時の空っぽ感」って表現、すごく刺さりました。田原さんのぶっちゃけトークが逆に心地よくて、でも最後の「またアプリで」の距離感が、お互いの駆け引きというか、この市場の空気を感じさせて切なかったです。橘さんとのやり取りも含めて、東谷さんの「普通でありたい」気持ちがひしひし伝わってきました。