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優里の予想通り、相手が真衣香でなかったなら別れていたんだろうなと思う。
それどころかタイミングが違えば、真衣香とでさえ、自分がどんな行動をとっていたかは正直わからない。
けれど、今は。
「普通にあるけど。別に青木と直接的に関わる機会があるわけでもないし」
肩をすくめながら答えると、優里は口元に拳を押し付けながら気に食わないとばかりに眉を寄せた。
「その考えがそもそもどうかと思うわ。この状況知った真衣香が何を考えるかは予想しないの?」
優里の声が一層刺々しくなった。
「あいつが?」
「自分の彼氏の記憶に延々と残ってるいわくつきの女が、ずっと近くで付き纏ってるの気が狂うわ、私ならね」
「……あー、なるほど、そうかもね」
嫉妬にはなかなか縁がなかったが、今ならば少しは想像できる。八木のことを思い浮かべたなら。
「だから会って、白黒つけてこいってこと? その感じじゃ、青木が俺にまだ気があるみたいな言い方に聞こえちゃうけど、いいの?」
坪井は少し斜めに顔を傾けて、煽るように優里を見上げた。
しかし優里は特に顔色を変えずに答える。
「どう考えててもいいよ。別に会って話せばわかることなんだしさ、もしそうだったなら今度こそ大事にしてあげればいいじゃん。坪井くんだって過去帳消しにできるでしょって、言ってるのさっきから」
優里の言葉をどう解釈しても、今のところ芹那と坪井をくっつけたい雰囲気しか感じ取れない。
いくら親友が心配だといえ、ここまで口出しするものなのだろうか?
互いにもう24歳、いい大人だ。
「大切にって、俺は立花以外にそうする気はないよ」
呆れた声で返すと、何やら気に入らなかったようで優里が大きな声を出した。
「てか、そもそもさぁ、散々泣かせやがって。あんたに真衣香を幸せにできんのかなって、思うわけ、私は」
それは今日話してきた中で、明らかに一番大きな声。まわりの視線を気にしないところなんかは、本当に真衣香と正反対の女だ。
「ははは、結局それでしょ、一番言いたかったの」
「だったら何よ」と不服そうに認めて、深く座り直し、ふんぞり返るように腕を組んだ。
その様子に、ますます優里の真意が掴めなくなる。
「……どっちに転ぶにしても芹那に会って。真衣香がこのこと知っても不安にならないように片付けるか、芹那とどうこうなるのか、私は知らないけど」
「どっちに転ぶにしても、ねぇ。結局優里ちゃんは従姉妹と親友どっちについてるわけ?」
上目遣いで睨んだなら「答えるわけないじゃん」と、しれっと答えた優里。しかし隠しきれない怒りを坪井に向ける。
「でも、とにかく今はあんたが真衣香の彼氏だなんて認めてないから! 虫が良すぎんのよ、一度あんなふうに泣かせといてマジでうざいから!」
言い終えた優里はコーヒーをグイッと全て飲み終えて、立ち上がる。
そして財布を取り出し、千円札を1枚テーブルに叩きつけるようにして置いた。
「……帰るの? てか、貰いすぎ。いらないよ」
「嫌いな男に奢られるほど屈辱的なことないわ。あ、てか連絡先教えて」
言葉の前半と後半が噛み合っていない。
「え、俺の? なんで?」
聞きながら坪井も同じく立ち上がり、優里に「俺も彼女の友達に金出させる趣味ないから」と半ば強引に千円札を突き返す。
それを渋々受け取りながら優里は「今までの会話ちゃんと頭に残ってる?」と、ため息混じりに言った。
「芹那と連絡取り合ってもらわなきゃ、なんだから」
「え? 俺が直接連絡取るの?」
いや、せめて待ち合わせ場所と日時指定してくれるとか、そこまでしてくれ。とは、立場的に言い出せず。
「うん、だって二人で会ってもらうんだから、当たり前でしょ? 私が坪井くんの連絡先芹那に伝えとくから」
「それでいいよね?」と、聞かれても。
(いや、ダメだろ。普通に考えて……立花は、嫌がるんじゃないのか?)