13 ◇マリリンと姫苺、ひさしぶりの再会
「よぉっ、 誰が叫んでんのかと思ったら……姫苺! 」
「どうしちゃったの? たまたま?」
「あぁ。ここのところ仕事が忙しくてな、ちょっと一息ついたから
お袋に顔でも見せようかとこっち帰ってたんだわ。
まぁ、姫苺が帰って来てるとは思ってなかったけど、何か昔が懐かしくなってさ、
姫苺 ン家の前でも散策するかと歩いてたら、本人から声掛けられてビックリしたわ」
「ふふっ、こんなことってあるのね。私も驚いた」
「どう? 相変わらず旦那にLoveLoveして幸せ満喫中か?」
「マリリンだから正直に言うけど、ちょっと大変なことになってるんだぁ」
「フムフム、で? それって話せそ?」
◇ ◇ ◇ ◇
私には幼稚園からの幼友達がいて、奴は設楽慎 と言う。
私は小さい頃から彼のことをマリリンと呼んでいる。
マリリンはゲイだ。
「僕ね、姫苺ちゃん男の子のことが好きなんだ」
そうマリリンから 告白を聞いたのは幼稚園の頃のことだった。
私は素直にそれを聞き、何故かずーっとその日のマリリンの告白を
忘れずにいた。
幼稚園時代のことなんてほぼ忘れているのにあんまり可愛い風情の
マリリンんが真剣に秘密感たっぷりに告白してきたからなのか、とにかく
小学校に上がっても中学生になっても高校生になってもずーっと覚えていた。
幼稚園児のその時以来、家族ぐるみで仲良くしていたふたつの家族は
一緒にBBQをしたり旅行へ行ったりして付き合いが続いているが
ふたりの間でそのことを話題にすることはなく、時は過ぎていった。
奥手な私がゲイの意味を知ったのは大学3年になった頃で
マリリンはゲイなのか? と初めて思い至たったものの……すぐに
他ごとにキモチがいってしまうくらいの小さな疑問で終わった。
だって、マリリンがゲイでもノンケでも関係なかったから。
それに私はマリリンのことが好きだったし信頼もしていた。
中学3年の夏頃からグングンと背が伸びて、高校生になるとマリリンは
イケメン高身長で一緒に歩いていると女子から羨ましいぞっと
光線が半端なく飛んで来るくらいいい男に育った。
なんてったって気は優しくて力持ち、非の打ち所のない奴なんだ。
だけど気取ったところがなくて、嫁にしてもらってもいいくらいには
好きだった。
でも赤ん坊の頃から身近で育ったせいか、憧れるだとか焦がれるだとか
所謂異性に対する感情よりも肉親、例えば兄妹、もしくは姉弟の感覚のほうが
大きかったかもしれない。
そんなこんなで私が結婚してから9年あまり、慎とは実家に帰った時に
会うくらいになっていたけれど、何せ片言しかしゃべれない時からの関係は
いつだって時空を超えられるのだ。
マリリンの母親は仕事をしていたので、マリリンの爺様が幼稚園へ迎えに
行ったり、時にはうちの母親が私とマリリンを一緒に連れて帰ったりと、
彼の母親が連れに来るまで我が家でマリリンを預かっていたため、一緒に過ごした
時間も多くあったりで……。
私の隣にはいつもマリリンがいたって感じかな。
高校性になるとマリリンはすっごく女子にモテるようになったけど
何せ奴はどちらかというと男子が好きだから、幼稚園の時のマリリンの告白が
本当ならっていうか、ずっと男子とばかりつるんでた。
だけど私とだけは一緒に下校したりしていたせいで
付き合ってると誤解してた人たちがいたみたい。
ある時、私がクラスメイトの男子にコクられて3年の時に付き合うことになると、
今までの成り行きを知らない友達たちから慎はどうするのだと聞かれた。
どうもしないよ今まで通り、と答えた私に、みんなは私のことを
二股女と罵った。
私とそれから私とマリリンの関係を知っている数少ない友達とで
私たちの関係を弁明して回ったにはまわったんだけど、納得してくれなくて
少し責められたりした。
マリリンは私にとって特別な存在だからなぁ~、説明が難しい。
マリリンが私の恋人になりたいと、もし名乗りをあげたら付き合っても
かまわなかったけど、別に言ってこないのだから別の男子と交際しても
いいんじゃね? っていう感じ。
妬み嫉み、遊びのネタにしたかった友達たちから芸能界で流行りの
『魔性の女』なんてことも言われたなっ。
聞いた時は吹いたっ。『プッ!』
本当の私からは一番遠い言葉だから、よけい彼女たちからしたら
揶揄うのが面白いらしかった。
まぁ、そんなとこ。
マリリンは私の交際相手のことは何も言ってこなかったんだけど
私の交際相手が『設楽と仲良くするのは止めろ』なんて言い出すから
半年ほどで交際を終わらせた。
めんどうくさいよ、まったく。
だってあんたよりマリリンのほうが私との関係長いんだよ。
それを切れだなんて信じらんない。
恋を知らない女は無敵でございました。
クラスメイトとの交際をマリリンに伝えた時の反応はあっさりして
いたなぁ~。(遠い目:)
「おう、よかったじゃん。お初彼じゃんか。
チューくらいまでは頑張って初体験しとけよ」
だって。
んで、この時のマリリンの発言のチューとか初体験っていう言葉に
触発されて私は幼稚園の頃のマリリンの真剣な私への告白を
思い出しちゃったのよねぇ~。
私への告白なんて言ったらまるで私に告白してきたみたいに聞こえるけど。
……じゃなくて、例の告白ね。