物心が着いた頃には、明花は姿を表さなくなっていた。それと裏腹に僕の足は回復に近付いてきていた。
「明守さーん、リハビリのお時間でーす。」
「あっ、はい!今行きます。」
僕は車椅子に身を預けてリハビリ室へと向かう。
「明守さん、今日は歩けるように頑張りましょうね!」
実は、僕。立てるようになったんだ!歩くのはまだ難しいけど…
「はい!」
「ぅ…ぐぐ…っ、」
「頑張ってください明守さん!あと少しですよ!」
やっとの1歩を踏み出した。続いてもう一歩を踏み出そうとした時、転んでしまった。
「わっ…」
「明守さん、大丈夫ですか?ゆっくりで大丈夫ですよ」
「すみません…」
「いいんですよ。一歩進めたじゃないですか!」
僕はその言葉に感動してしまった。ずっとピクリとも動かなかった足が、今1歩を踏み出したんだ。僕の足が。僕の力で。これを、彼女に伝えたい。今、彼女に。
「明守さん!!」
「そん…な…」
こんなこと、どれほど夢に見た事か。僕の足は、今1歩目を踏み出して、2歩目も踏み出したんだ。これはもう歩けたと言ってもいいだろう。
「歩…けた…っ、」
言葉よりも先に涙が溢れ出した。ずっとこの日を待ち続けていた。歩けるようになったら何をしようか。何処へ行こうか。でも1番に思いついたのは…彼女に報告すること。会って、面と向かって話すんだ。
「おめでとうございます!明守さん!よく頑張りましたね!!」
「ありがとう…っ、ございます…っ、」
いつまで経っても、涙は止まらないままだった。
リハビリ時間が終わり、一応車椅子に乗ってリハビリ室を出る。僕は1番先に向かった場所は、彼女の部屋だった。
-コンコンコン。
僕は3回ノックをする。部屋の中から「はい」と短い返事が返ってくる。
僕は病室の扉を開け、彼女の病室へ入る。
「明花。今日は君に話をしにしたんだ。」
―久しぶりに見た彼女は、僕が知らない彼女だった。
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