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彼女の許可が下りてから僕は彼女の病室に入る。
「それで、話って何かな?」
彼女に質問に僕は躊躇いはなかった。もう、話す覚悟は出来ていた。
「僕は…歩けるようになったんだ。」
僕は顔を上げることは出来なかった。だって、前に明花が言った言葉が頭をよぎるから。
ー私は、死ぬ。君の足が治ると同時に。
どれだけ時間が経っても彼女の震える声も、悲しそうな表情も忘れられなかった。
「…そっかぁ」
彼女にしては短い言葉だった。ふと顔を上げると、彼女は嬉しそうに、弱々しく微笑んでいた。僕はつい涙が零れてしまいそうになる。
「この調子だと、数日後に退院できるかもしれないね」
そうだ。その通りだ。その通りなんだけど、そう信じたくはなかった。
「君は…?」
僕の声はつい震えてしまった。けど、そんなことはどうだっていい。僕は必死に言葉を続ける。
「君はどうなっちゃうの…?」
沈黙が流れる。言わなきゃ良かったと後悔ですらある。けど、これだけは聞かなきゃいけない気がした。
「この前も言ったでしょ?君の足が治ると同時に死ぬって。」
やっぱりそうなんだ。運命は変えられないんだ。
「自分でもわかってたよ。最近、前に比べて体調も良くないし、もう先は長くないって。」
気付いたら僕は、彼女の小さな手をぎゅっと握っていた。今までの想いが溢れ出したかのように。
「だめ…ダメだよ明花。諦めちゃダメだ。」
彼女は困ったように笑う。
「変えられない”運命”なんだよ」
「そんな運命はクソ喰らえだ…明花、君は生きなきゃ。 」
これまでの想いが、君への想いが、たくさんの感情が、今僕の涙に変わって溢れ出してくる。
彼女は弱った手で僕の手をしっかり握る。
「君こそ生きなきゃ。私はもう十分生きた。君が生きて、命を繋いでいくんだよ。」
「君がいなきゃ嫌だ…」
今、どんなに恥ずかしいことを言ったってどうでも良かった。僕はただ、彼女に生きて欲しいだけだ。
僕は彼女を抱きしめた。彼女も僕を抱きしめ返した。
「楽しかったよ。君との時間は。」
「僕も…楽しかった。」
「ありがとね、明守蒼太くん。」
「…うん」
それしか言えなかった。これ以上喋ったら、涙が止まらなくなってしまうから。それはもう時すでに遅しだった。
僕は泣いた。これまでにないくらいに。彼女の胸の中でわんわん泣いた。彼女も泣いた。沢山泣いた。互いの胸の中で。互いの涙が交わって愛の涙に変わるように。
彼女は僕の胸の中で、小さく息を引き取った。