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冬の日のことだった。朝、薄く、けれども透き通る朝日が、カーテン越しに見えた。
「(雪でも降っているのでしょうか)」
そんなことを想い、上体を起こそうとする……刹那に、胸の温かい感触に気づいた。
「〜〜♪」
すりすり、と彼女が私の胸に犬の耳を擦り付けてくる。
「湯たんぽ、のお熱は、如何ですか? 綴さん」
大型犬用の首輪を着けて、銀色の髪を揺し、獣耳をぴょこぴょこと愛らしく動かす少女……。
体の至る所に包帯を巻いており、その隙間からは痛々しいアザが見える。
「(……ああ、ここはもう、あの苦しい場所ではないのでしたね)」
改めて、傷だらけの彼女を見て……そう思う。
「ええ、とても、とても暖かいです……」
そっと抱き寄せる。すると、あることに気付く。
「……その首輪、ボロボロですね」
「…? ああ、もう、何年も着けていますもの」
「新しいものでも、買いますか?」
首輪、犬用の首輪……それは、私が彼女に対する独占欲で嵌めさせたものだった。
「いえ、もう少し、もう少しだけ……これが良いです」
彼女は首輪をそっと撫でて、そう……少しだけ、頬を赤らめて、嬉しそうな顔を浮かべる。
その表情に、ドキ…と心臓が高鳴る。
「思い出の品、ですので」
ああ、私はやはり……彼女に弱い。
「……」
頬から涙が溢れ出す。
悪夢が全て、彼女という天使に拭われていく。
いい匂い……うなじから溢れるフェロモンが、意識を溶かす。
この子の身体をもっと味わいたくて、腕の力を強める。
私のために首輪を着けてくれる、天使。監禁しても彼女は受け入れてくれる。
私は女の子を監禁している犯罪者だ、だというのに……こっちが彼女に閉じ込められている気分になる。
「(……湯たんぽ。側にいて、監禁すら愛して、好きになってくれる天使……)」
この生活を始めて、どれだけ経っただろう。
「(ああ……今夜はきっと、良い夢が眠れる)」
彼女の匂いを嗅ぎながら、そんなことを思う。
抱き締めてくれる、彼女。優しい銀髪の彼女……傷付いているのに、私に依存してくれる彼女。
「(この部屋も……少し悪趣味が過ぎていますから、少しだけ改善しようかな)」
壁には鎖が付いており、その鎖の先には手枷と首輪。
壁に立て掛けた拘束椅子。電気を流す機能があれば立派な拷問器具である。
扉にはナンバーロックが全部で30個。愛している、愛しているんだ。逃したくない、閉じ込めたい、殺してでも側に置きたい…嫌だ殺したくない。
「(……ふふ)」
————改めて見ると本当に酷いな、これ。
「結局私は、恐怖から逃れられないのか」
「————そんな貴方だから、私は心を許せたのですよ?」
胸の内を読んでいたのか、彼女がそんなことを言う。
「……改めて思うのですが、どうしてこんな…監禁生活を、受け入れてくれたのですか?」
「言うほど監禁でしょうか……外に出たい時は出してくれるし、読みたい本はお願いしたらくれますし……縛りらしい縛りは勉強させてくることでしょう」
……確かに、監禁というより軟禁に近いのかもしれない。
家事も任せており、料理もしてくれる。材料はスーパーで買っている中でうまく回している……本当に感謝しても仕切れない苦労をかけていると思う。
「ですが、そうですね。
この軟禁……を受け入れた理由があるとするのなら」
布団から、身をかすかに乗り出して……私の胸に手を乗せる。
布団が微かに折れ、彼女の白い肩が……露出される。
「貴方が、そうでもしないと楽になれないから……でしょうか」
こちらの悪意を見通して、その上で受け入れてくれる、彼女。
甘い香りのする彼女………菊池アラカと、かつて呼ばれていた彼女は、とても愛らしく、今日も……私の心を癒してくれる。
「と、いうかですね。 貴方は自分がしたことに気付いてください」
そう言いながら、彼女は私を枕がわりにして仰向けに眠る。
「そうですね……じゃあ貴方の心が休まるまで、思い出話でもしましょうか」
そう言って彼女……アラカくんは、ポツリポツリ、と思い出を語ってくれた。