空と地の境目に、白い羽が舞っていた。その中心に佇むのは、ひとりの天使── ミンジュ
「……湖?」
静かに水面を見つめるその姿は、どこか儚げで、神聖で。
地上に降り立ったばかりの彼女は、まだこの世界の重さを知らない。
そのとき──
「……君、誰?」
背後から響く声。
振り返った先には、漆黒の瞳をした男が立っていた。
濡れた前髪、鋭い輪郭、地の底から響くような声。
悪の漆黒の翼をもつその男──ジョングクは、ミンジュを見るなり息を呑んだ。
「……嘘。やっと、見つけた」
「……あなたは、誰?」
ミンジュが警戒しながらも静かに問う。
ジョングクは一歩、そしてもう一歩と近づいてくる。
「君のこと、夢で見たんだ。……ずっと、ずっと探してた」
「やめて、近づかないで」
ミンジュは翼を広げようとするが──
それよりも早く、彼の手が彼女の手首を掴んでいた。
「ダメだよ。逃がさない」
──その瞬間、空気が変わった。
ミンジュの身体は宙に浮き、視界がぐるりと回転する。
気づけば、湖の近くの森の奥──古びた屋敷のベッドの上。
「……なに、これ……」
「目、覚ましたんだね。ここから、君は逃げられないよ」
ジョングクがベッドの端に腰を下ろし、ミンジュを見つめる。
「やだ、帰らせて──!」
ミンジュは必死に起き上がろうとするが、魔法の枷が足首を縛っていた。
「……怖がらなくていい、優しくするよ」
ジョングクはミンジュの頬に触れ、そのまま唇を寄せる。
「ねぇ、愛って知ってる?……君に教えてあげるよ」
ミンジュの頬が染まる。戸惑いと混乱。
そして──その唇が彼女の首筋をかすめ、甘く、熱を移していく。
「っ、……やめ……て……」
「嫌でも、身体は……覚えていくよ」
その夜──
天使としての禁忌を犯したミンジュの真っ白な翼の先が、うっすらと灰に染まった。