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「……ミンジュ、起きてる?」
囁くような声。
部屋に差し込む月明かりの中、ミンジュは静かにまぶたを開けた。
隣に座っていたのは──テヒョン。
「……誰……」
「僕はキム・テヒョン。ここの住人。君に会うのは、今日が初めてだ」
彼の声は低く、しかしどこか甘い響きを含んでいた。
琥珀色の瞳がミンジュをまっすぐに見つめている。
「……ここから、出して」
ミンジュは枷に繋がれた足をちらりと見て、懇願するように言った。
「それは無理だよ。君は、“あの日”から、僕たちのものなんだ」
テヒョンの指先が、ミンジュの頬に触れる。
「……嫌……っ!」
ミンジュはその手を払いのけるが、次の瞬間──
テヒョンは微笑んだまま彼女の手首を押さえつけ、唇を近づけた。
「怖がらないで。これは“穢し”じゃない、“祝福”なんだよ」
「……っ、やめて……誰か……天に、神に……!」
ミンジュの瞳が潤み、祈るように天を仰ぐ。
──でも、その祈りは届かなかった。
空は、ただ静かに月を浮かべたまま。
「……ふふ、まだ祈るんだ? 可愛いな」
その声に続くように、ドアが開いた。
「……もう、テヒョン……また勝手に触って」
優しい声。けれどどこか背筋が寒くなるような冷たさを帯びた笑みで、ジンが部屋に入ってくる。
「……君に挨拶がまだだったね、ミンジュ」
彼はベッドに腰を下ろし、ミンジュの髪にそっと触れた。
「……やめて……お願い、誰か……」
「誰かって? 君を助けにくる“誰か”なんて、もういないよ?」
ジンはそう言って、囁くように微笑む。
「だって、君は……堕ちたんだもん」
その言葉に、ミンジュの背から浮かび上がる翼がかすかに震えた。
白く美しかったはずのそれは、先端にうっすらと灰色の翳りを帯びている。
「違う……わたしは……!」
叫ぼうとしたミンジュの口を、ジンの指がそっと塞いだ。
「大丈夫。もう、何も考えなくていい。僕たちが、全部与えるから──」
その夜、ミンジュは再び祈った。
でも神の声は、もう二度と、届かなかった。