今日から阿部ちゃんと同居生活。大きな荷物はもう届けてあるから、簡単なものだけ持って行く。阿部ちゃんの家のドアの前で硬直する。楽しみだけど俺迷惑かけないかな。今更色んな不安が募ってなかなかインターフォンが押せないでいる。すると、突然ドアが開いた。あれ、インターフォン押したっけ?中からニヤニヤしている阿部ちゃんが出てきた。
「わっ」
「何してんの、ラウール?ずっとドアの前で硬直してたけど。」
「えっ?あっ…と」
「何、緊張してんの?」
首をコテンと傾げて上目遣い。ちょっと待ってこれからこれを毎日見んの?岩本君これやばくなーい?
「早く入んなよ。荷物持つね。」
「あっ…りがとう」
軽い方の荷物を渡し、中に入ろうとするけれど…。
なんだろうこのまま入ったらいけない道に進んでしまいそうで怖い。まあ入るけどね。
「ラウール、荷物ここで良い?」
「うん大丈夫。ありがとね阿部ちゃん本当に助かった。」
「いいえ〜。」
荷物を置いて気にしないでと微笑む阿部ちゃんに心があつくなった。優しすぎる。絶対に負担はかけたくない。家事とか料理とかはできるだけ俺がするようにしよう。もう子供じゃないし、成人するし。安心してね阿部ちゃん。
「ちょうど俺さっき朝ごはん用のパン買いに行こうとしてたんだけど、ラウールなんか欲しいのある?」
「え?」
早速世話をしようとする阿部ちゃんに戸惑う。
朝ごはんは俺が作ろうと思ってたのに。
「いつも6枚切りのパン買うんだけど、菓子パンとかが良いんだったら。」
「全然大丈夫だよ、菓子パンも好きだけど朝からは食べないから。」
「そっかじゃあ行ってくるね。」
バイバイと小さく手を振って家を出る阿部ちゃんに行ってらっしゃいと大きく手を振った。
よし、散策しよう。家にある物と6枚切りのパンで何か簡単な朝ごはんを作ろうと思いネットで検索する。
【フレンチトースト】…いいかも。超簡単だし美味しいし。材料が有るかをチェックして机に並べる。あっ、阿部ちゃんシナモンシュガーあんじゃん。シナモンフレンチトーストにしよっかななんて考えて阿部ちゃんの帰りを待つ。なんか恋人の帰りを待つ彼女みたいでずっとワクワクしてる。
「ふふっ楽しいな。」
しばらくして、阿部ちゃんが帰ってきた。
「おかえり〜」
「…ふふっただいま〜。なんか一緒に住んでるって感じすんね。」
一瞬ポカンと口を開けたかと思うと、直ぐにニコッと笑った。持っていた袋を取り中に入れる。
「僕も思った。返ってくるのワクワクするなって。」
「何それ彼女じゃん。」
「それも思った。」
「あははっ。一緒に住むの合うかもね。」
「ね。」
パンを取り出そうとすると中にパン以外にも入っていることに気づいた。
「アイス…。」
「買っちゃった。」
アイスを取ってヒヒッと笑った。何が欲しいか分からなかったからと、この前俺が買っていたアイスを買ってきてくれたらしい。優しさの化身か。
「ありがとう阿部ちゃん!!」
「どういたしまして〜。…どうしたのこれ。」
冷蔵庫にアイスを直した後、机に並べてあった材料が目に入った阿部ちゃん。なんか汚したって思われてたら嫌だから慌てて弁解する。
「せっかく買いに行ってもらったし、シナモンフレンチトースト作ろっかなって思って。」
「いいのに〜。」
朝ごはんくらい俺が作るのにと頭をかいて申し訳なさそうにする阿部ちゃん。絶対言うと思った。
「俺が作りたいの、いっぱい助かってるから。ていうかこれからは俺が朝ごはんを作ってこうとか考えてたし…。」
「え!?ダメ!!」
「いや!こっちがダメ!!」
食い下がらない俺に肩ビクッと揺れる阿部ちゃんが可笑しくてクスッと笑ってしまった。
「冗談だよ…。」
「もう…。」
「じゃあ作ってくるね。」
「今日だけね。」
「はいはい。」
何とか流して、今日の朝食を作り始めた。
コメント
1件