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「でも、九尾の狐じゃないんだよ……。 この娘」
「え!?」
何とも申し訳なさそうに、胡梅さんが上目遣いで言った。
これは、どうやら先走ってしまったようだ。
テンションに身を任せれば、こういった事も起こり得る。 本当にお恥ずかしい。
「ごめんね……?」
「いやいや! なんで胡梅さん謝るんですか」
それにしても、九尾の狐じゃないとすると、最前の友人の発言は間違いだったという事になる。
もちろん、彼女が的外れな見解を述べるとは考え難い。
しかし、やはり狐の事となると、胡梅さんに一日の長があるか。
「ホントです? でもこれ、どう見ても」
「うん。 雰囲気はたしかに九尾狐なんだけど、何かが違うんだよね……」
「あ。 ちょっと前に割れたじゃないですか、殺生石。 それと関係あったり」
「え………?」
私には口出しできそうもない議論の最中、友人が思いつきで発したものらしい言葉を聞いた途端、胡梅さんが目を丸くした。
呆気に取られたような、信じられないものを見るような、そういった表情だ。
「いや……、あれは“予兆”でしょ?」
ややあって、そのように応じた彼女は、続けて意味深なことを言った。
「……知ってるんだよ、私たちも。 穂葉ちゃんの御母上が、しようとしてること」
「あー………、そう、か………」
対する友人は、じつに気まずそうな、苦みを堪えるような表情で、眉根を歪めてみせた。
これは、容易に踏み込める雰囲気じゃない。
ここは聴きに徹するのが得策だろう。 何だか、盗み聞きをしているようで居心地は悪いが。
「……お稲荷さんの総意は、どんな感じです? それについては」
「いやいや何も。 だって向こうは治外法権だし、私たちには何も言えないよ」
「治外法権じゃなかったら?」
「え?」
「もし仮に、あのヒトがこっちに出てくるような事があったら、どうします?」
「うん…………。 それでも……、何も言わないんじゃないかな……? 私たちは」
話の筋は見えないが、どうやら話題に上がっているのは、友人のお母さんに関することらしい。
そういえば、彼女のお母さんについては、大まかな話しか聞いたことがない。
いま何処にいて、何をしているのか。
本当にそれくらいだ。
そう。 何でも、地獄の棟梁をやっていると。
「穂葉ちゃんは、どうなの?」
「お……、それ訊きますか?」
「う……、ごめん」
「や、ごめんなさい。 私は……、どうかな? 納得できなかったら、たぶん邪魔すると思います」
「あの御母上を、相手にするの………?」
胡梅さんの顔が、気の毒に思えるほど真っ青になっていた。
地獄のトップということは、閻魔大王みたいなものか。
話の流れから察するに、場合によってはそれと事を構えるつもりなのか、この友人は。
さすがに無謀だ。 私でも分かる。
“反抗期”で済まされる話じゃない。
「でも……、たぶん、穂葉ちゃんは納得するよ」
ひと頻り震え上がった後、ようやく人心地ついた様子の胡梅さんは、そんな風に言った。
「きっと、納得すると思う」
穏やかな表情で、どこか寂しげな表情で、そう呟いた。