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仕事で疲れた躰を引きずりながら三日間、毎日午前一時頃まで、稜の自宅前で粘って待っていた。
今日も帰ってこないのかと諦めかけたとき、カツカツと階段を上ってくる靴音が聞こえてきて、勝手に胸が高鳴っていく。
そんなドキドキを抑えようと深呼吸して、じっと佇み待っていると、靴音をさせる人物が俺を確認し、驚愕の表情を浮かべた。
「どうしてここにいるの、何やってんだよ克巳さん……?」
稜と逢ったときは、いつもラフな格好ばかり見ていたので、少しだけ着崩したスーツ姿に目を奪われてしまった。細身のスーツからスタイルの良さが浮き彫りになってる姿に、見ているだけで動悸が加速してしまう。
「……お帰り。珍しいね、スーツ姿なんて」
乾いた声で告げてしまったのは、躰が熱くなって喉が干上がってしまったせい。不審に思われないだろうか。
「お笑い芸人と一緒の、地方ロケだっただけ。それよかなんか、話があるんでしょ? 悪いけど出直してくれないかな。すっごく疲れてて、早く休みたいんだ」
俺のセリフに、稜はどこかイライラしながら答える。髪の毛を苛立たせるようにかき上げて、キッと俺を睨んだ。彼に睨まれているというのに見つめられるだけで、胸の中心が絞られるように痛い。あまりの痛さに俯いて、やっと口を開く。
「――地方ロケ。それでずっと留守だったのか」
「克巳さんもしかして、この間の夜のことが誤魔化しきれなくて、リコちゃんにバレたとか!?」
俯いた自分を正面に向けさせるためなのか、いきなり腕を掴んで話しかけてきた稜。触れられたところから、君の熱が伝わってくる。
「いや、その件は君が提案してくれた、お酒のことでなんとかなった」
「じゃあ、何で?」
「稜……君と話がしたかった。それだけ」
「は――?」
俺の言葉が信じられないんだろう。印象的な瞳を大きく見開き、ぽかんとした表情を浮かべる。
その後、眉根を寄せて口先でぶつぶつ何かを呟いてから――
「さっきも言ったけど、疲れてるんだ。言いたいことがあったら、スマホに俺の情報入れてあるから、メールしてくれない? 悪いけど帰って」
舌打ちしながら、俺の躰を押し退けて家の鍵を差し込み、颯爽と中に入って行く。俺は迷うことなく閉めかけた扉に、すかさず足を突っ込んだ。
がつんっ!
乾いた音がフロアに響き渡る。
足が挟まれているのにも関わらず、必死に閉めようとしてる扉を両手で力任せに開けて、強引に躰を割り込ませた。
ひゅっと息を飲んだ彼が、背を向けて逃げようとしたので慌てて腕を引っ掴み、ずっと欲していた躰を引き寄せて、羽交い締めするように抱きしめた。それなのに、必死に身をよじって抵抗する。
「何するんだっ、放してよ!」
「……放さない、君が好きなんだ稜」
その言葉で稜は一気に腕の力を抜き、暴れて乱れた髪の毛の一筋をくわえたまま、呆然とした表情で俺を見上げた。
「な……なに、言ってるんだよアンタ……リコちゃんのこと抱きながら、俺も抱く気になっちゃったワケ?」
壮絶なまでに綺麗な顔を、思いっきり引きつらせながら訊ねる。
「君と夜を共にして以降は、俺からは理子さんに一切、手を出していない」
そう言いきったら、稜の眼差しが喜びに満ち溢れる。夢の中で見たそれと同じ表情に、顔を曇らせるしかない。計画的に俺たちに近づいてきた稜。きっと何か、企みが浮かんだのだろう。
(そんな余計なことを、しなくていいのに――)
切なく思いながら、抱きしめている首元から漂う香りに気がついた。
「稜、この間とは違う香りがする。どこか温泉にでも、行って来たのか?」
「いや、さっき枕営業してきただけ」
「枕営業って、男と寝てきたのか?」
核心を突いた言葉に、ちょっとだけ焦った顔をした。しかしその表情もあっと今に消え失せ、ため息をつきながら面倒くさそうに答える。
「俺が誰と寝たって、克巳さんには関係ないだろ。それよりも早く放して。疲れてるんだからさ」
「――誰にも君を渡さない……」
感じるであろう耳元で告げてやると躰をビクつかせ、ふっと力を抜く。そこを狙い澄まして荒々しく唇を重ねた。
「んんっ……やっ、ふっ……っ!」
必死に首を横に振って逃れようとする、彼の下唇をきゅっと吸い上げると感じたのか、簡単に腰から崩れ落ちた。そのまま玄関の床の上に押し倒し、自由を奪うべく両腕を掴んで跨ってやる。
「やっ! もう、いい加減にっ!」
「俺はもう、君以外いらない」
「……だったら、リコちゃんと別れるんだね?」
いつもより低い声で言い放った俺を、稜は薄く笑いながら見上げる。そこから妙な温度差を感じた。
(何だ、この違和感は――?)
質問を投げかけた彼の視線は、グサグサと突き刺さるようなもので、どこか試されているようにも思えたのだが。
「ああ、別れる。だけど稜、君は俺と付き合ってくれ」
これが今現在の、自分の本心だった。君さえいれば俺は何も要らない、だから――
「ははっ! なに言ってくれちゃってんの? 俺が好きなのは、リコちゃんだけなんだ。他のヤツと付き合うがわけないでしょ。放してよ!」
「稜が俺を、好きになってくれるまで――」
理子さんを見る目で、俺を見て欲しい。君が求めてくるように、今この手で抱いてやろう。俺なしではいられなくしてあげる。
尚も抵抗を続ける稜のネクタイを何とか外し、それを使って両腕をグルグル巻きにした。そしてワイシャツの引き裂くように脱がし、スラックスも下着と一緒に剥ぎ取る。
真っ暗闇の部屋の中、ベランダの窓から差し込む月明かりが彼の白い肌を、ぼんやりと浮かびあがらせた。夢の中で犯しまくった躰が目の前にあることに、喜びに満ち震える。迷うことなく艶やかなな肌へと、舌を這わせながら貪った。
「あっ、や、やぁ……うっ、克巳さんっ、やめてって!」
やめてと言いながらも、しっかり感じている稜。責め立てた胸の尖りはしっかり勃っていて、露わになった下半身も既に形を変えていた。
「枕営業してきたと言ったが、相手はやっぱり業界の人なのか?」
「な、んで?」
一旦顔を上げ、稜を見つめる。いつもは強い光を放つ瞳が、どこか困ったようにゆらゆらと揺れていた。困惑に満ちた、瞳の理由はなんだろうか?
「だって、きちんと守られているから。仕事の関係でキスマークをつけちゃ駄目って、しつこく言ってただろう?」
そんな困った顔を窺いながら、そっと下半身に手を伸ばす。それは今にも爆ぜそうなくらい、熱く膨らんでいて――
「稜……イヤだと言いながらも、しっかりと感じているんだね。もうこんなになってる」
言い終えない内に、迷うことなく彼のモノを口に含み、唾液を滴らせながら、上下に激しくスライドしてやった。
「ああぁぁっ! やだ! ああぁんっ、やめてえぇ!!」
首をイヤイヤしながらも、何故か腰を上下に浮かせる。もしかして、さっきの行為の余韻が、躰に残っているのだろうか。
「ふぁ……ぁ、ん……、うっ」
悔しそうな表情を浮かべつつ、きゅっと下唇を噛みしめて、されるがままになっている姿に、俺自身も堪らなくなっていく。激しく責め立てながら、口の中で感じるモノがどんどん大きくなるのを察し、程よいタイミングで、すっと抜き去った。
「ああぁ、ぁ……あぁ……、んっ、くっ!」
そしてまた口に含んでの愛撫を、何度も繰り返してやる。ここ数日間、俺が味わった苦しみを彼にも知ってほしかったから。
「なぁ稜……イきたいのか?」
わざとらしく、耳元で囁いた。その途端に潤んだ目を見開き、懇願するように俺の顔をじっと見つめる。
「くっ――イきたい……」
ひどく掠れた声で呟いた。さっきからずっと、苦しそうに喘いでいたせいか。散々焦らされた躰は、反抗的だった態度を変え、泣き出してしまいそうな表情になっていた。そんなにイきたいというのなら、大好きな君のその期待に、是非とも応えてやろうじゃないか。
「稜はココの他にも、感じるトコがあっただろう?」
吐息を吹きかけながら囁くと、喉をごくりと鳴らした。その艶かしさに、口元が緩んでしまう。
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