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「やっぱりトラックから見る景色は、すげぇ見晴らしがいいよな」
橋本は休みを使って、宮本が運転するデコトラに同乗させてもらった。普段乗ってる車の車高は低いものではないが、よじ登って乗り降りするトラックの高さに、爽快感を覚える。
「陽さんってば、せっかくの休みなのに俺の仕事を手伝うなんて、躰が休まらないんじゃないですか?」
「いいんだって。ちょうど躰が鈍っていたから運動がてら、たくさん荷物を運んでやるよ」
「躰が鈍るなんて、絶対にありえない。昨夜あんなに激しく動いていたのは、どこの誰でしたっけ?」
「そんなの知らねぇな」
信号待ちになったタイミングで、ニヤニヤしながら橋本を見つめる宮本の視線を振り切るべく、顔を逸らして車窓を眺めた。
「陽さんが上になって、俺をヒーヒー言わせながら、あんなに感じさせたというのに。しらばっくれるのも、いい加減にしてほしいですよ」
自分に対して不満を漏らしたドライバーを、橋本は横目でチラッと見、心底うんざりする。言ってることは思いっきり文句だったが、宮本の目じりが下がりきった、だらしない状態だった。
「いい加減にしろは、こっちのセリフだ。俺らを見下ろすようにフィギュアがこっち向きに置かれていたせいで、すげぇ落ち着かなかったんだ。それで仕方なく、俺が上になったんだからな!」
仕事が早朝の関係で、昨夜は宮本宅に泊まった。
しかし部屋を占領するように置かれたヲタクグッズに見守られる中で、宮本とイチャイチャするのは正直なところ、橋本としてはどうにもつらかったのである。
「とかなんとか言ってるけど、普段よりも喘ぎ声が大きかったのは、どこの誰でしょうね?」
「そんなの、雅輝の勘違いだろ」
「いやいや。『そんなに突くな!! あぁっ! だっ、駄目だったら!』と言いつつも、激しく腰を振っていたのは陽さんなのに」
「残念だったな。一晩寝たら、昨夜の記憶は忘却の彼方だ」
最初のうちは挿れるのがつらかった行為も、宮本のテクと相性の良さのお蔭で、いつの間にか感じるようになった。近いうちに前だけではイケなくなるんじゃないだろうかと、ちゃっかり予測を立てたり――。
「うわぁ……昨日の濃密なエッチが忘却の彼方って、かなりショックですけど」
「あのフィギュアを何とかしてくれたら、おまえの部屋で特別なことを、ヤってもいいと思ってる」
「とっ特別なコトですか!? わかりました! 陽さんが来る日は、全部後ろ向きにしておきます」
ヲタクグッズを整理するという選択肢がないことに、橋本は内心ガックリしつつ、上着のポケットに手を突っ込んで、あらかじめ用意していたものを取り出した。
運転する宮本の耳元でそれを擦り合わせて、がちゃがちゃぶつかる音を聞かせてみる。
「今日の仕事と、部屋の整頓がきちんとできたら、これをやるよ」
「独特な金属音……。聞き覚えがあるような?」
小首を傾げながら告げられた宮本のセリフを聞き、橋本の口角の端に薄い笑みが浮かんだ。
「これは、俺の家とインプの合鍵だ。雅輝専用に作った」
「えっ?」
宮本は運転中だったのに、わざわざ橋本の顔を見つめる。
両目が大きく見開かれた様子で、かなり面食らったことがわかった。それでもすぐに前を見据えて、意味なく口をパクパクさせる行動に、橋本の笑いが止まらない。
「欲しいか? これ」
「喉から手が出るほど、すっごく欲しいです」
「どっちが欲しい?」
橋本なりの意地悪な質問。それを聞いた宮本は、瞳を細めて小さく笑った。
「勿論、インプの合鍵に決まってるじゃないですか」
「あ゛~、雅輝らしい答えで何よりだよ!」
橋本はイライラしながら、持っていた鍵をポケットに戻した。
「嘘に決まってるでしょ。陽さんのマンションの鍵が欲しいです」
絶対に見えないというのに、迷うことなく左手の親指で橋本の唇に触れる宮本の器用さに、驚くしかない。
しかも橋本が話の主導権を握ろうとした傍から、変な切り返しでそれを奪う手腕に、尊敬の念すら抱いていた。付き合う前も今も、宮本に翻弄されっぱなしでいる、無能な自分に辟易する。
「陽さんのマンションの合鍵を貰ったら、毎晩襲いに行っちゃうかもしれませんよ?」
どこか、からかうような声が車内に響いた。