テラーノベル
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阿部先輩は毎年夏のある時期になると、田舎に帰る。
故郷の海で、亡くした彼氏を想って海を見に帰る。
高校3年の夏、漁船に乗って還らぬ人となった恋人を忘れることが出来なくて、海を見に行かずにはいられないのだという。
宮舘さんは俺に言った。
『阿部くんを海の呪縛から解き放ってあげてほしい』、と。
俺の告白の言葉を聞いた途端、阿部先輩の目から光が消えたのを俺は見逃さなかった。永遠に続くかと思われた沈黙の末に聞こえてきたのは悲しい返事。
💚「無理だよ」
🤍「阿部先輩…」
💚「俺、好きな人がいるの」
🤍「好きだった人、じゃないですか」
💚「村上」
阿部先輩の頬が怒りで赤く染まる。そして、同時に目から涙が溢れた。
🤍「もう3年ですよ。いつまでもそんな昔にとらわれてないで」
💚「大好きだったの!!!」
阿部先輩は初めて感情的な姿を見せた。こんな先輩を見るのは初めてだった。そしてそのあまりにも美しい泣き顔に、自分がものすごく悪いことをしているような気になり、とんでもなく無神経な人間に思えた。
それでも止められない。止めちゃいけないと思った。
🤍「俺が忘れさせます。俺、本気です」
言いながら、阿部先輩の小さく、華奢な身体を包み込んだ。
🤍「あなたに会いたかった。だから迎えに来ました」
💚「村上……」
🤍「ラウールって呼んでください。俺も、阿部さんって呼ぶから」
💚「……ラウール」
阿部さんは俺の胸の中でしゃくりあげていっぱい泣いた。俺の上着が濡れるのも構わずわんわん泣いた。
そんな阿部さんを見ながら、こんなふうに涙ごと受け止めてくれる誰かが今まで1人もいなかったんだろうなと彼の孤独を想って胸が痛んだ。
コメント
6件
尻尾振ってる可愛いラウが男になった瞬間…!!!😭
やっぱりめめあべもくるよね😏