テラーノベル
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春風が頬を撫でる午後、霞んだ教室の窓辺で俺は鉛筆を走らせていた。「女々しい男の恋の独白」。そんな課題を前に、俺の頭は真っ白だった。
俺の名前は佐々木陽太。音楽大学で作詞を専攻している二年生。
「天才作詞家」なんて噂もあるらしいが、そんなの知ったこっちゃない。
大学では誰とも深く関わらない「陰キャ」を貫いている。才能が露わになるのは面倒だからだ。
「女々しい男の恋…か」
独り言を呟きながら、俺は自分の経験を探った。振られたことがない。告白されれば受け入れる。そんな適当な恋愛しかしてこなかった。だから「女々しい」恋心なんて、わからない。
「陽太くん、まだ帰らないの?」
声の主は同じ学科の春野みどり。この間まで俺の彼女だった女だ。
「ああ、課題があってさ」
「あら、珍しい。何に悩んでるの?」
「女々しい男の恋の独白…なんだけどさ」
みどりが小さく笑った。その笑みに少し違和感を覚えた。
「そうなんだ。頑張って」
そう言って彼女は教室を出て行った。俺たちは3ヶ月前、彼女からの告白で付き合い始めた。だが先週、突然別れを告げられた。理由は「合わなかった」。それだけだった。
家に帰る途中、学食の前を通りかかると、みどりの声が聞こえた。
「ねえ、あの賭け、もう終わったの?」
「うん、もう終わりにした。3ヶ月も我慢したんだから十分でしょ?」
「まさか佐々木と本当に付き合うなんて…すごいわ」
「罰ゲームだからしょうがないじゃん」
罰ゲーム。
その言葉が頭の中で反響した。俺との交際は、彼女にとっては罰ゲームだったのか。
胸の奥が妙に痛んだ。今まで誰かを好きになったことはあっても、こんな痛みは初めてだった。見下されていた。愚弄されていた。そう思うと、呼吸が苦しくなる。
家に着いても、食欲も眠る気力もなかった。ただペンを持ち、言葉を綴り続けた。
次の日、課題の提出日。
教授の前で俺は詞を読み上げた。
*「君の笑顔が偽りだと知った夜
窓ガラスに映る自分の顔が見えなくなった
愛されると思っていた幻想が砕け
初めて知った 心の奥底にある醜さを*
*君のいない部屋で独り
繰り返す「なぜ」という問い
答えの出ない方程式を解くように
頭の中で回る君の言葉*
*「罰ゲーム」
そう言った君の後ろ姿に
言えなかった「さよなら」も「憎んでる」も
ただ溢れる涙だけが本物だった*
*もう二度と誰も信じないと誓った夜
鏡の中の自分を見つめ続けた
明日からはまた仮面をかぶって生きていく
この痛みだけを胸に秘めて…」*
教室が静まり返った。それから大きな拍手が起こった。
教授は感動した表情で言った。「素晴らしい。こんな痛切な恋の独白は久しぶりだ」
その日から、俺の作る詞は変わった。
表面上は相変わらず「陰キャ」を演じながらも、詞の中には偽りのない感情を込めるようになった。
みどりとは二度と言葉を交わさなかった。でも彼女のおかげで、俺は本物の感情を知った。愛されることの喜びと、裏切られることの痛み。それが詞に深みを与えた。
卒業後、音楽業界で名を馳せ始めた頃、みどりから連絡があった。
「あの時は本当にごめんなさい。今でも陽太くんの詞を追いかけてる。あの罰ゲームのこと、本当に後悔してる」
返事はしなかった。でも彼女への気持ちは、いつの間にか恨みから感謝へと変わっていた。彼女がいなければ、俺は本当の意味での作詞家にはなれなかったから。
舞台の上、スポットライトを浴びながら、マイクの前で俺は語りかける。
「次の曲は、初めて心を壊された時に書いた詞です」
観客からどよめきが起こる。
彼らは知らない。普段は目立たない「陰キャ」の仮面の裏で、俺がどれほど感情を抱えていたか。
その夜、俺はステージの裏で一人ほほ笑んだ。
罰ゲームのつもりだった彼女の行為が、結果的に俺を本物の作詞家にしたのだから。
皮肉なものだ。女々しい恋の痛みが、俺の才能を解き放ったのだから。
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#BL
さまる✨️☘
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コメント
1件
あっ、これ…すごく刺さりました……。🥀 最初の「罰ゲーム」の場面、胸がギュッてなった。陽太くんの痛みがありありと伝わってきて、その後の詞に全部ぶつけてるところが泣ける…。最終的に恨みが感謝に変わるところも、すごく人間っぽくて好き。陰キャ仮面の下でこんなに深いもの抱えてたんだなって思うと、もう…。彼岸花さんの書く“痛みの描き方”、めっちゃ好きです🌙