遊園地の奥へと足を進めると、甘い香りがふっと風に乗って流れてきた。
「あれ……なんだこの匂い。」
溶けたバターの香り。
焼きたてパンの優しい匂い。
まるで家の食卓みたいな温かさが胸に広がる。
香りを追うと、そこには木造のレストランが建っていた。
看板には、柔らかい文字でこう書かれている。
『まほうのキッチン』
扉を開けると、ぽつりと灯った照明の下、
中央のテーブルに料理が並んでいる。
その隣から――
「じゃぱぱさん!」
明るい声が響く。
手を振っていたのは、
のあさんだった。
エプロンをつけ、にこにこしながらこちらに向かってくる。
「来てくださって良かったです!どうぞお座りください!」
「の、のあさん!?ここ……のあさんの記憶なのか?」
「おそらく、そうだと思います!」
のあさんは胸を張って笑う。
「だって“美味しかった記憶”って、私の得意分野ですから!」
テーブルには、
ビーフシチュー、カルボナーラ、パンケーキ、プリン……
温かい湯気が立ちのぼる料理がぎっしり並んでいた。
「のあさん……これ、全部1人で食べたの?」
「はい!」
のあさんはにこーっと笑う。
「でも全部、じゃぱさんとご一緒した時のものですよ。」
「えっ、俺も?」
「もちろんです!」
スプーンをくるくる回しながら微笑む。
「じゃぱぱさん、誰かと食べるとすごく美味しそうにされるので……
それを見るのが、私はとても嬉しかったんです。」
胸がじんわり熱くなる。
のあさんはシチューをひと口食べ、
ふっと表情を和らげた。
「あ……思い出しました。」
「なにを?」
「この味……じゃぱさんが“のあさん達と食べるご飯は美味いな”と 言ってくれた時のものです。」
「俺……そんなこと言ったっけ……?」
「言ってましたよ!」
ほんの少し頬を赤くして、続ける。
「すごく嬉しかったんです。あの言葉。」
じゃぱぱの胸に、鮮やかな温かさが広がる。
「のあさん……俺、まだ全部思い出せないけど……」
「大丈夫ですよ。」
のあさんは穏やかに微笑む。
「思い出せなかったら、また作ればいいんです。」
「つくる……?」
「はい。思い出は、食事みたいなものです。
何度でも作り直せますし、
誰かと食べれば、味は自然と心に残りますから。」
その瞬間、店内の光がふわりと強く輝いた。
のあさんの輪郭が、やわらかく揺れ始める。
「じゃぱぱさん。」
寂しさと嬉しさが混じった表情で言う。
「私達と食べたご飯の味だけは、忘れないでくださいね。」
「のあさん……!」
「“美味しい”という気持ちは、記憶より強いんです。」
光がぱあっと広がり、
のあさんの姿はそっと消えていった。
残ったのは、温かなシチューの香りと、
胸の奥に残る幸福の気配。
「……忘れないよ。絶対。」
じゃぱぱはつぶやき、
次の記憶を探しに歩き出した。
コメント
4件
みんなの言葉心に残る…
わぁ、!見るの遅れたァァァァ泣泣 ノアさんの次は誰だっ!! 楽しみにしてます!!