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「なぁ、あれ妹さんちゃう?」
シャオロンは廊下の窓を覗きながら、隣にいた春翔に言った。
「だからどうした」
「最近モテモテらしいやん。ほら、何か声掛けられてるで」
そう言われ窓を覗けば、確かに自販機の前で男子生徒に声を掛けられている。
「告白でもされとるんちゃう?」
「だから何だよ」
ニヤニヤするシャオロンを横目で睨む。
「ええの?助けに行かんで」
「行くわけないだろ。あれくらい自分で対処してもらわなきゃ困る」
「ドライやなぁお兄ちゃんは」
「うるせぇ」
「ん?あれ、チーノじゃね?」
シャオロンの言葉に再び窓を覗けば、雪乃がチーノを引っ張って校舎の中へ入っていくところだった。
「どういう状況やろ。2人って仲良かったっけ?」
「知らね」
「え、もしかしてそーいう関係!?」
「んなわけ」
「分からへんやろ、もしかしたら兄の預かり知らぬところで進展してるかも…」
「………」
「ええんか、おにーちゃん?」
ニヤつくシャオロンの横っ腹に正拳突きを入れた後、春翔は歩き出す。
「ぐっ、どこ行くんや、春翔」
「俺は忙しいんだよ」
構ってられるか、と春翔はその場を立ち去った。
「おい、もうええやろ離せ馬鹿力」
しばらく引っ張られながら歩いた後、チーノは腕を振り払う。
そして2人はトイレの前で立ち止まった。
「ったく、巻き込むなや」
「あんな場面で来たお前が悪い」
「人のせいにすんな」
誰やねん根岸って、とツッコミながらチーノは振り返った。
「あーあ、可哀想に」
「何が」
「返事を待ってただろうに、有耶無耶にされて逃げられて。せっかく勇気を出して告白したのに」
「…だって、なんて言ったらいいかわからないし」
「そんなん、自分が思っとること言うたらええやろ」
そんなこと言われても、と言い淀む雪乃に、「それなら」と詰め寄るチーノ。
「練習相手になったるわ。経験不足でごねるしかできへん怪力女のために」
声色が変わったチーノに不信感を抱き、一歩壁際に後退る雪乃。
今度は何を企んでやがる。
ずっと抱えていたニャオハも警戒する。
チーノは逃さまいと一歩詰め寄り、ぐいっと腕を掴む。
「俺、ずっと前からお前のこと好きやってん。良かったら付き合ってくれへん?」
チーノの表情はまるで本当に雪乃のことが好きかのように錯覚するほど切なく歪み、真っ直ぐ見つめる瞳はうるうると揺らめいていた。
何だこいつ、急に人が変わった…?
雪乃は壁に背中をつきながら、その演技力に圧倒される。
しかし、相手は憎きグルグル眼鏡。
「付き合うわけねーだろバーカ!」
「に”ぁーーーッ!!」
べーっと舌を出して挑発する。ニャオハも同時に威嚇する。
そして腕を振り解き立ち去ろうとした。
そんな時、
「ーーーーー!!!」
廊下の向こう側から歩いてくる緑色の影に気付き、体が硬直する。
やばい、こっち来る…。
ニャオハは震える雪乃をどうしたのだろうと不安げに見上げる。
「………あ」
どうしよう。逃げなきゃ。
そう思っているのに、体が動かない。
この間のことが頭の中にフラッシュバックする。
もしあの時みたいに追いつかれて捕まったら。
マフラーを掴まれる感触も呼び起こされる。
思い出したら、怖くて動けない。
「にゃあ?」
不安げに鳴くニャオハに、ハッとする。
こんなことでどうする。
この子を守らなきゃならないのに。
こんな情けないトレーナーでいいのか。
雪乃は震える足を必死に動かそうとする。
ふと、視界の隅にチーノが映った。
こいつのことだ。きっと私の弱点も把握してる。
そして絶対、見捨てる。
私があいつに追いかけられてるところを見て、クスクス笑って愉しむんだろう。
いい、今はそんなことを気にしている場合ではない。
逃げなければ。
そう必死になっていると、ぐいっと腕を引かれた。