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穏やかで愚かな日常
送ってしまったあと、
後悔がなかったわけじゃない。
もっと考えるべきだった。
送らない選択も、確かにあった。
それでも、
画面を伏せたスマートフォンが、
気になって仕方がなかった。
アプリをインストールしてから、
スマートフォンを伏せて置くようになった。
いつの間にか、
それが癖になっていた。
返事は、
すぐには来ない。
それが分かっているからこそ、
期待と諦めが、
同時に胸の中で息をしている。
そのまま、
日常は何事もなかったように続く。
今日は休日。
天気がよかった。
「公園、行こうか?」
そう言ったのは、
僕だったと思う。
娘は、
ブランコを見るなり駆け出した。
小さな背中。
無防備な笑い声。
可愛い。
本当に、そう思う。
守りたいものが、
守らなきゃいけないものが、
ちゃんとそこにある。
妻も、
隣でそれを見ている。
嫌いなわけじゃない。
今さら、
憎んでいるわけでもない。
ただ、
触れなくなっただけだ。
公園のベンチに座り、
娘を見守るふりをしながら、
ポケットの中の感触を確かめる。
スマートフォン。
取り出すのを、
少しだけ躊躇った。
通知が見えない向きで置く。
身体が、
勝手にそうしていた。
まだ、
返事はない。
仕事中かもしれない。
家族と過ごしているのかもしれない。
そう考えるたび、
胸の奥が、
少しだけざわつく。
妻が、
こちらを見る。
「どうしたの?」
何でもない、
という顔をして、
首を振る。
その視線に、
ほんの一瞬、
違和感が混じった気がした。
でも、
僕は気づかないふりをした。
娘が駆け寄ってきて、
僕の手を引く。
「ねえ、見て!」
その声に、
現実が戻ってくる。
スマートフォンをしまい、
笑顔を作る。
その笑顔は、
嘘じゃない。
ちゃんと、
本物だった。
それが、
余計に厄介だった。
家族と過ごしながら、
僕の一部は、
別の場所に置き去りになっている。
それでも、
指先は何度も、
通知を待つ。
画面が光るたび、
心臓が、
少しだけ早くなる。
その鼓動に反比例するように、
家族からの声への反応が、
少しずつ、
遅れていく。