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――私なんていないほうがいい。
いつからか、私は子供なのに何にも期待せず、死んだ表情で過ごす少女になっていた。
そうなった理由を周囲の大人たちは深く考えない。考えようとしない。
だってみんなが大切にするのは、レティとシャルルだけだ。
何回〝試し〟をしても結果を出せない私を、大人たちは見限るようになっていった。
両親だけは、縋るような思いで私が聖なる力を発揮しないか期待していた。
けれど貴族や聖職者たちは早々に私に見切りをつけ、ゴミを見るような目を向けてきた。
大人たちの乾いた視線に怯えた私は、いつも俯いて人目を避けるように早足で歩くようになっていた。
「見た目だけは同じなのにね」
私は自嘲し、長く伸びた銀髪を手で梳く。
「私という影がいるからレティは光り輝けるのよ。それでバランスがとれているんだわ。両親も双子の娘も王太子も、全員聖なる力を持っている……なんて、神々しすぎて目が潰れちゃう。私というハズレが存在して丁度いいの」
「はい、チェックメイト!」
感傷に浸って言った瞬間、ジョゼが容赦なくキングを追い詰める。
「えぇっ!?」
私はガバッと身を起こし、テーブルの上にあるチェス盤を見る。
感傷的になってなんとなく駒を動かしている間に、いつの間にか形勢逆転していたようだ。
「それでも、今は割と楽しくお過ごしでしょう? あまり昔の事に引きずられるのは良くありません」
ジョゼは駒を空中に放り投げてキャッチする。
「そうね。ジョゼと話すようになって、我ながら明るくなったと思っているわ」
私はインビジブルハンドでティーカップを持ち、手を使わずにお茶を飲む。
ジョゼが侍女になった当初、私は本当に暗い子供だった。
彼女と出会ったのは、私が十二歳、ジョゼが二十歳の時だ。
カビでも生えそうなぐらい、じっとりと暗いオーラを発していた私に、彼女は本当の姉のように、いや、それ以上に親身になってくれた。
いわく、弟妹が大勢いるからつい面倒を見てしまうんだとか。
ジョゼは口数の少ない私に積極的に話しかけ、反応がなくても一方的に自分の家族の話をしてくれた。
私の事を『末の妹がいじけて口を利かなくなった時と似ている』と言っていた事もあった。
彼女は子供の扱いに長けていたから、みんなが避けるハズレ姫の面倒を見てもいいと思ったのかもしれない。
「あなたには感謝しきれないほどの想いを抱いてるわ」
微笑んで言うと、ジョゼはニヤリと笑った。
「私だけじゃないでしょう? 殿下……、いえ、今は陛下ですね。アルフォンス陛下の存在がとても大きいはずです」
その名前を聞いた瞬間、私はサッと赤面し、周囲には誰もいないと分かっているのにキョロキョロと確認する。
「しーっ!」
唇の前に指を立てて黙るよう制したけれど、ジョゼは悪びれもなくクッキーを囓る。
「好きなら好きとおっしゃい。恋心なんて隠していい事ないんですから」
きっぱりと言い切る彼女は、さすが私より八つ年上なだけある。
「気軽に『好き』と言える相手なら、私だってこんなに遠慮しないわよ……」
私は窓台の上で膝を抱え、かつて絶望にまみれていた少女に勇気を与えてくれた人を思いだした。
アクトゥル大陸に存在する各国は、信仰的な意味でシャレット聖王国を敬う一方で、最も豊かな国としてエーヴェルヴァイン帝国を頼って発展している。
少し前の時代まで、帝国は手当たり次第に周辺国に戦争をふっかけ、領地拡大に勤しんでいた。
けれど近年では、いかに周辺国とうまくやっていくかを重視している。
遙か昔の皇帝は、魔王と契約して多大な力を行使できる魔石を得たそうだ。
でも巨大な力を得る代わりに、皇帝となる人は代々不幸に見舞われているらしい。
それがきっかけで内乱が起きる事も多々あって、今は外国にかまけている場合ではないと、先々代の皇帝の治世から平和的な政治を行うようになった。
帝国は領土が広く豊かな土地だけれど、帝都付近は常に曇りがちだ。
天候も魔石の影響らしく、帝都の人は常に曇りだけれど、大陸随一の文化を誇る都から離れられずにいる。
過去には、シャレット聖王国から帝国に嫁いだ王女もいて、その影響で皇族の中には稀に聖なる力や、光の魔術を使える人もいる。
現在の皇帝アルフォンス様は、あらゆる属性の魔術を使える上に、選ばれた者しか使えない聖属性、光の魔術の才もあり、周囲から一目置かれている。
聖王国と帝国は懇ろな仲にあり、幼い頃から私も家族と共に帝国に赴いた。
けれど会談などが行われる公の場でも、私は不快な想いをしていた。
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