テラーノベル
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初めてアルフォンス様とお会いしたのは、私が五歳で彼が十四歳の時だ。
小さな聖女の噂を聞いていた先帝陛下カール様や貴族たちは、礼儀正しく振る舞う可愛らしいレティにすっかり夢中になっていた。
『お召しになっているピンクのドレスがとても似合いますわ』
『まるで可憐な薔薇のようですね』
女性たちはレティを見て、とにかく褒めちぎっている。
少し離れた所にいる私は彼女と同じデザインのドレスを着ているけれど、一卵性の双子に区別をつけるため、ブルーのドレスを身に纏っていた。
私たちは平時から、周囲の人たちが見分けやすいよう色違いのドレスを着せられていた。
あとからジョゼに聞けば、そういうのは双子あるあるらしい。
でもドレスの色決めは、当時の私にとって、とても苦痛な出来事だった。
応接室では有名なデザイナーがドレスの案を幾つも広げ、何色もの色見本を見せてくる。
(あ……、ピンク可愛いな)
子供の私にとって、赤は大人の女性が纏う色に感じられた。
黄色やオレンジはそれほど好きではなく、惹かれたのはピンクだった。
ブルーや緑、紫が嫌いな訳ではないけれど、寒々しい色という印象がある。
庭園を散歩している時も、ピンクの花を見ると気持ちが明るくなったものだ。
だから私は『ピンクがいい』と言おうとした。
『私、ピンクがいいわ!』
私が口を開くより先に、勢いよく色見本を指さしたのはレティだ。
目をキラキラさせた彼女の選択に、大人たちは『きっとお似合いです』と拍手をする。
『あ……』
先を越されてしまった私は、指さそうとした手を彷徨わせ、言葉を引っ込める。
『フェリシテ様はどうなさいますか? お好きなお色は?』
デザイナーに尋ねられ、私はおずおずとピンクを指さす。
『……私も……、ピンクがいい……』
すると、隣でレティが不思議そうに目を瞬かせて言った。
『あら、ピンクは私の色よ。見た目がそっくりなのにドレスまで同じ色だったら、みんなが困るじゃない』
もっともな事を言われ、私はまごついて言葉を失う。
『フェリの色は私が決めてあげるわ。うーん……、そうね。ブルーはどう? ピンクのドレスを着た私と並ぶと、とてもいいと思うの』
肌寒そうな色は嫌と言おうとしたけれど、それより先に大人たちが賛同した。
『ようございますね。ピンクとブルーは相性のいいお色と思います。フェリシテ様、ぜひそうなさいませ』
そんな感じで、ドレスの色を決める時は毎回レティが自分の好きな色を選び、私は自分の意見を言う事なく、引き立てる色を宛がわれた。
ブルーのドレスが悪い訳じゃない。
大人の女性が鮮やかなブルーのドレスを着こなしているのは、とても素敵だ。
けれど〝今〟の私が着たいのは、ピンクのドレスだ。
なのに私の意志は尊重されず、押しつけられるように大して好きではない色を押しつけられる。
だから私は毎回、みんなの前でピンクのドレスを着たレティが褒められる姿を見て、羨ましいとも悲しいともつかない気持ちを抱いていた。
(私がピンクを着られたら、ああやって褒められたかしら?)
心の中で呟くと、心の底にいる意地悪なもう一人が囁く。
――あなたは聖女じゃないハズレ姫だもの。
――あなたがピンクを着ても褒められる訳がないじゃない。
――レティがブルーのドレス着たら、みんな彼女を褒めるに決まっているわ。
――あなただから駄目なの。
――だって、ハズレ姫だから。
当時の私は五歳だというのに、数え切れないぐらいレティと比較され、劣った存在として扱われていた。
だからその頃にはもう、期待しても無駄という感覚を嫌というほど知っていた。
(いいな……)
それでも羨望がない訳ではない。
(同じ顔をした姉妹なのにどうして……)
帝国で行われたパーティー会場で、私はそんな想いを抱えながらレティを眺めていた。
すると傍らに誰かが膝をつき、私の顔を覗き込んできた。
『帝国はつまらないか?』
驚いて横を見ると、とてつもなく顔立ちの整った少年がいた。
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