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フォロー失礼します🥺
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時刻は11時38分。待ち合わせ時間の38分後だ。
そう、この男。寝坊したのである。
頭の中でそんなナレーションを流して、そんなことしてる場合じゃねえとセルフツッコミを入れる。信号が変わるまでの時間がやたら長く感じる。
そもそも今日の起床時間が11時27分だった。目覚ましを幾重にもかけたというのに、どうして目覚めることができないのか。時間を確認してすぐLINEで謝罪文と今から向かう旨を伝え、すぐに許されたが俺は俺を許せない。おらふくんが待ってくれている間、俺はすやすやと寝こけていたのだ。
信号の色が変わった瞬間に走り出し
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(あ。)
遠くから早足で駆けてくる人影が見える。走らんくてもよかったのに。
今まではデートのときには遅れても5分程度のものだったから、こんな盛大に遅刻してきたのは初めてのことだ。待っている間は不安だったけれど、好きな人が自分のために息を切らしている様子は愛おしい。
そう思って手を振ると、MENのスピードがちょっぴり上がる。
「MEN、大丈夫?息切れとるよ?」
「ハァ…ぜぇ、ゴホッ…うん、大丈夫」
「ほんまに?ww」
笑いながら背中をさすると、手でありがとうと伝えてくれる。
「……おらふさん。」
「ん?」
「ほんっっっとうにすまんかった!!!!」
「ちょ、MEN声デカいってw」
「えっ、あぁあごめん…」
周囲の人から浴びる視線が少し痛い。
LINEでも気にせんでええよって言ったんやけど、それでも気にしてくれるところがMENの優しいところやな。ずっと申し訳なさそうにこちらを伺ってくる。
「マジですまん……」
「ふふ、いいって。気にしとらんよ?ぼく。」
「いや、でも」
「いいんよいいんよ。走ってきてくれるの可愛かったし。」
「かわっ…いくはないけど。でもほんと俺の気持ちが収まらねえ、おらふくんの言うことなんでもやる」
本当に気にしてないのだけど。なんでもやる、なんて魅力的なこと言われちゃったらねぇ?
「なんでも?」
「エッあー…俺にできる範囲のことなら…!」
「そのなんでもはいつでもいいん?」
「へっ?あぁ、うん。10年後とかに急に言われたら覚えてないかもしれないけど」
それって10年後もぼくと一緒にいてくれるってこと?ふふ、うれしいなぁ。
きっと無自覚だろうから胸にうちにしまっておいて、じゃあ行こっか?と手を差し出した。
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「はあー、美味かった。」
「それなー?めっちゃ美味かったわ。」
ずっと気になってた映画を見て、少しショッピングセンターでぶらぶらした後夕食を食べた。
なんでもするって約束でも気が収まらなったらしく、普段なら割り勘なデート代は全額MENの財布から支払われた。
「なぁ、MEN。」
「おん」
「今日さぁ、うち泊まりに来おへん?」
「……おう」
露骨な誘いに一瞬フリーズするも、了承される。耳が赤いのに声はいつも通りなのが可愛らしい。
「じゃあ、こっち」
「…手、」
「ダメ?」
「…っ、別に」
普段からダメ?ってかわいこぶって聞けば大抵のことは許してくれるが、今日は本当に優しい。こんなことなら毎日遅刻してきたっていいのになぁ。身長差の分合わない歩幅を合わせて隣にいてくれるMENが大好きだ。
今ぼくめっちゃ青春しとるなぁ。
なんだか楽しくなってMENの手を口元へ引き寄せ、そっとキスをした。
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おらふくんの家へ着くと、俺先風呂入るねとだけ伝えて浴室へ逃げ込んだ。
びっくりしすぎてまともなリアクションが取れなかったが、手の甲にキスて。手の甲にキスって…!!
俺が可愛い乙女だったら落ちてたぞ、もう既に落ちてるけど。
動揺とドキドキでいっぱいな頭を汚れと一緒に洗い流す。
恐らくそういうことだろうと期待して準備も済ませ、脱衣所からリビングへ移る。
「おらふくーん。あがったよ」
「おお、おつかれ。気持ちかった?」
「おう」
「じゃあ、ぼくも行ってくるわ。」
いってらっしゃい、と伝えておらふくんが見ていたテレビを見る。
カラフルなスタジオで話す芸人に集中できなくて、ぼーっと眺めながら動画のことを考える。
前回作った装置、効率はどれくらいだろうか。あの土地を埋めるサイズの家を建てるには倉庫にある原木じゃ足りない気がする。
そんなことを考えていたら時間なんてあっという間で、風呂から出てきたおらふくんの声で現実に呼び戻される。そうだ、俺今彼氏の家にいるんだった。
「あがったよぉ、MEN。」
「おつかれ。」
「なにしっとったん?」
「動画のこと考えてた」
「あはは、テレビじゃないんや?」
そういえば付けっぱなしだった。テレビの存在を思い出し顔を上げると、カラフルなスタジオから検証VTRに変わっていた。
「ぼくこの芸人好きやわぁ」
「あー。わかる、俺も好き。」
「!、ねぇ、MEN。もっかい言って!いまのやつ。」
急にものすごく食い気味になるじゃん、びっくりした。
今のやつ、いまのやつ…
「………俺も好き」
「ふふふ。ぼくも好きやでぇ」
甘ったるい空気に耐えられなくなって立ち上がる。
「MEーN、どこ行くん?」
「……寝る」
きっと顔が赤いから顔を見れなくて、おらふくんの視線から逃れるように呟いた。
それでもちゃんと意図は伝わってくれたようで、息を飲んでからぼくも寝る!と立ち上がった。