テラーノベル
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コーヒーをドリップしているとオーブンが焼き上がったことを音で伝えた。
「俺が出すよ」
海が皿にピザをのせテーブルに置くとピザカッターで放射線上に切り込みを入れていく。
タバスコとオリーブオイルを掛ける。
「コーヒーじゃなくてビールのほうが良かった?」
「え?」
海の驚いた表情を不審に感じながらもビールを冷蔵庫からとりだしグラスを二つテーブルに置く。
「奈緒、さっきの診察券だけど」
「何?」
「もしかして妊娠した?」
そうだった、カードを取り出そうとしてレディースクリニックの診察券も一緒に落としてしまい、それを海が拾ったのだった。
「あれは」
「もしかして、期待した?」
海は嬉しそうとも、迷惑とも取れない複雑な表情をしていた。
「違うの?子供が出来たらもっと嬉しそうな態度になるのかと思った」
「もう少し、新婚を楽しんでもいいかなって思っただけ、もちろん俺と奈緒の子供が出来て嬉しいに決まってる」
「そう」
弥生と海の考え方に温度差があるんだろうか?どちらにしても、海と私の子を弥生が欲しがっている事に変わりはないし、それに協力しているは他でもない海自身だ。
「生理不順で、ヘモグロビン濃度が下がってしまうことがあって鉄剤の処方を受けてるの」
「貧血ってこと?」
「うん」
「大丈夫なのか?」
「いつも貧血って訳じゃないから、大丈夫よ。それに分かってると思うけど、子供を授かる分には問題ないから」
「子供の事は今はいいとして、奈緒の体が心配なんだ」
「女性の約10%は鉄欠乏性貧血だったりするし、私は定期的に検査をしているから安心して」
「そういうものなんだ」
「そういうものなのよ」
ベッドに入ると海が抱きしめてくる。
流石に昨夜、弥生を抱いた男に身を委ねるのは気持ち悪い。
逆ならまだ我慢できるけど。
「ごめん、ちょっと疲れちゃって」
海はそれでも抱きしめる腕の力を弱めることはない。
「大丈夫、これ以上はしないよ。ただ、抱きしめていたいんだ」
海は弥生のために早く子供が欲しいんじゃないの?
さっきの話がひっかかる。
「海は子供が欲しくないの?」
「そりゃ、奈緒の子供ならきっと可愛いし欲しいよ」
「でも、さっきはまだいらないみたいな感じだったから」
「うん、もう少し奈緒との生活を続けたいんだ」
「ふうん。お休み」
「お休み」
この日、永遠が生まれた日のことを思い出した。
立ち会い出産で、海はずっと手を握ってくれていた。
あの時の海は私のことも少しは好きでいてくれたんだろうか?
夜泣きやすぐに体調が変わる永遠に不安になったりしたが、スゴく幸せだった。
朝、目が覚めた時顔には泣いた跡がしっかりと残っていた。
「この間の埋め合わせをさせてほしい、今日こそデートしよう」
「あっ、今日はエステの予定を入れているの。初めてだから時間がかかるかも」
海の表情が曇り、不機嫌になる。
「今まで、土日に予定を入れる事はなかったよね?確かに、約束をしてリクエストまでして料理を作って貰ったのに無駄にさせたのは悪かったと思ってる。でも、料理は置いておいてくれれば温めて食べることは出来たし捨てる必要はなかったんじゃないのか」
「だから?何が言いたいの?金曜日の夜は海はお仕事だったんでしょ?接待なら食事も出るでしょうし食事を残しておけば無理して食べることになるだろうし、何より作りたてと温め直しだと味が変わってしまうから。私は美味しい状態で食べて欲しかっただけだけど?それに、土日の予定とか以前からエステもスポーツも話をしてるはずだし、いいと言ってくれたのは海でしょ?」
感情的にならず、淡々と話をする。
「だからって、あの日のあと2日連続で予定をいれるとかおかしいだろ」
海がここまで感情的になる姿は初めて見るが、ちっとも怖いと思わない。
笑顔で私を好きだと言いながら弥生を抱いている海の方がよほど恐怖を感じる。
「何かやましいことでもあるの?」
「え?」
イライラしていた海が今度は一瞬息が止まっているようだ。
「だって、エステもテニスも事前に申し込んでいたことで、その時は海に急用ができるなんて知らなかったのよ。どうしてそんなふうに言われないといけないの?だって、海だってお仕事なんだから仕方がないことだったんでしょ?」
「ごめん、そうだよね。行っておいで」
やましいことしてるから、疑わしく感じるのよ。だったら、誰にどんな接待をしていたのか言ってみなさいと言えたらスカッとするんだろうな〜と、思うと少し笑えてくる。
問診をしたあと、美脚コースとフェイシャルコースの体験をした。
昨日のテニスで足がだるくなっていたので、何気に美脚コースの施術が気持ちよかった。
フェイシャルも自分でマッサージするのと違って軽く睡魔に襲われながらマッサージされるのが気持ちい。
とりあえず入会だけしてお店を出たが、真っ直ぐに帰る気になれず、映画を観てウィンドウショッピングを楽しんでいたらすっかり暗くなっていた。
夕食作るのも、海と話をするのも
めんどくさい。
前回、弥生のようになりたくて自分のお小遣いでエステやマッサージに行って磨いた。
それは、海が好きで海に愛されたかったから。
惨めな私。
バッグに入れっぱなしだったスマホを取り出してみると海からのLINEと着信が複数あった。
LINEに『今から帰ります』とだけ打ち込んでスマホをバッグに入れて駅に向かった。
門のところに黒い車が停車して、運転手が後部座席のドアを開けると、中からお義父さまが出てきた。
「お義父さま、おかえりなさい」
スーツ姿のお義父様は優しい笑顔で振り返る。
「奈緒さん今、帰り?」
「はい、久しぶりに一人でぷらぷらと買い物をしてました。お義父さまはお仕事ですか?」
「ああ、相手は明日クアラルンプールに帰ってしまうからね、どうしても今日じゃないといけなかったんだ」
「それはお疲れ様です。ゆっくり休んでください」
そういうとそれぞれの家のドアを開けた。
玄関に入るとバタバタと音を立てて海が走ってきたかと思うといきなり抱きしめてきた。
「よかった、帰ってこないんじゃないかと思った」
「え?どうして?」
「いや、大人気なかったって思って。奈緒が怒ってるんじゃないかと思って不安だったんだ」
海が私のことを好きなんじゃないかと錯覚する。
「何か食べたの?」
海は頭を掻きながら「なんだかそんな気になれなくて」と笑っている。
「じゃあ、かんんたんにチャーハンでも作るね」
「そうしてくれ、手伝えることは手伝うよ」
二人でキッチンに立って一緒にチャーハンを作って食べた。
海の味付けは少し塩辛かった。
ベッドの中でタブレットを見ていると海がベッドルームに入ってきた。
サイドテーブルの引き出しから何かを取り出すと隣に座った。
「奈緒、これ」
そう言って手のひらを見せると、あのピアスの片割れがのっていた。
「どうしたの?どこにあった?」
「キッチンの隅に落ちてたよ」
「キッチン?」
海に微笑みながら手のひらからピアスを摘んだ。
「見つかってよかった」
弥生のベッドルームに放置してきたはずのピアスがキッチンからって、そりゃ海が弥生のベッドルームから拾ってきたなんて言えないものね。
引き出しを開けピアスの入っていたジュエリーボックスを開けると片方だけ納まっていたオパールのピアスの隣にはめると一対に収まった。
なんだか
「夫婦みたいだな」
「え?」私もそんなふうに言おうと思った。
一度離れてもこんなふうに隣に戻るとしっくりとくる。
でも、私たちは違う。
「奈緒のことになると、俺はすこし冷静さを欠いてしまうみたいだ。今朝のことは本当に悪かった」
シュンとしているところがやっぱり、叱られた大型犬だ。
「気にしてないよ」
海は「よかった」と言って私を抱きしめた。
「エステはどうだった?」
「海から見てどう?」
「奈緒は、そのままでも綺麗だから」
「その言い方って、やってもやらなくても一緒ってこと?」
「いつも綺麗だけど、磨かれた感じ」
「言わされてる感がすごいよ」
「そんなことないよ」
海はパジャマの上から胸を弄るように触ってくる。
弥生の跡が残る海とはまだしたくない。
「でも、弥生さんの肌の方がきっと綺麗よね」
海の手がぴたりと止まる。
「なんでここで弥生さんがでてくるんだ?」
「だって、弥生さんて本当にツヤツヤで憧れて私も行くことにしたんだもの。でも、まだまだ弥生さんには敵わないわ、女の色気もムンムンだし。ということで、疲れちゃったからお休み」
海に背を向けて目を瞑ると、海は背後から私を抱きしめるも大人しく寝ることにしたようだった。
コメント
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みぅです、読了しました🥀 今回、すごく胸がぎゅっとなる話だった… 「気にしてないよ」って言いながら、本当は全部気にしてる奈緒さんの心情がひしひしと伝わってきて。 ピアスが戻ってきたシーン、あれって「夫婦みたい」って台詞がすごく皮肉で、でも切なくて、好きだな… 海が大型犬みたいにシュンとするところも、ちょっとかわいいけど、やっぱり信用しきれないもどかしさがリアルでした。 次は、心の距離もどう変わっていくのか、気になります。
#大人の恋
鷹槻れん

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#ハッピーエンド
美凪ましろ
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