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「 文也君も社長もバス釣りは経験豊富だそうよ」
藤子が微笑んで言った
「船の安全手順も文也君私に話して聞かせてくれたし、無茶なことをするような性格でもないし・・・だからすぐ連絡が取れるわよ」
まるで自分に言い聞かせるように、藤子はジェニに言った
「もう真っ暗よ・・・・琵琶湖も真っ暗でしょうね・・・ 」
「まさか、さすがに今も湖の上なわけないわ」
ジェニは窓を見てスマートフォンを探し、もう一回lLINE通話にかけてみた、しかし今度は呼び出し音さえも鳴らなかった
それから30分は 藤子と宗一郎はインターネットを使って、琵琶湖周辺の水難事故の情報を集めていた
そして宗一郎が、本日の午後にフリーボートから、湖岸警備舩が二艘失踪した船の捜索に出た記事を見つけた、その時宗一郎の携帯が鳴った、ジェニも藤子も飛び上がった
宗一郎が着信番号を見て、すっくと立ちあがり、オフィスの奥へ足を進めながら電話の相手としゃべっている・・・突然彼が動きを止めて黙り込んだので、ジェニの全身の毛が逆立つのを感じた、彼がスマホを片手に話に耳を傾ける、ジェニの心臓が激しく鳴りはじめ、意識が朦朧とし、吐き気がしてきた
「わかりました・・・・ 今からすぐにそちらに向かいます」
そう言って彼は電話を終えた
「何の電話?二人のこと?」
藤子が宗一郎に詰め寄った、ジェニはその場に動けなくなった、宗一郎は一瞬ジェニから視線をそらした、顎が硬く張り詰め 頬の筋肉が引きつっている
「・・・・今日の午前・・・10時・・・一艘のフローボートのエンジンがガソリン漏れで 爆発した・・・・煙が空高く上がった所を湖岸の淡水海老漁師が目撃したそうだ・・・・」
ジェニは頭が真っ白になった・・・宗一郎を見つめ・・・この人は本当に今自分が聞いたと思った通りの言葉を発したのだろうか・・・隣で藤子も真っ青な顔をしている
「その爆発したボートを貸りた人物の名義が・・・ 」
宗一郎はなんとかこの状況をのみこもうとしてるように、ゴクンを唾を呑み、目を閉じて言った
「松下竜馬だそうだ 」
ジェニは一瞬自分が溺れているような気分になった、冷たく暗い水が頭の上に押し寄せ、身体が引きずり込まれて・・・・ あのエレベーターの悪夢を思い出す
息をすることも・・・・しゃべることも今は出来ない
「ふ・・・・二人を乗せたボートが爆発したの?!!!無事なのっっ??」
大きすぎる藤子の声に、ジェニがハッとした、藤子は顔を真っ赤にし泣きださないように、必死に震えている
「幸い・・・二人は救助されて現在は意識不明で、滋賀総合医療センターに救助ヘリで 緊急搬送されたそうだ・・・・一人はライフジャケットを着てて、湖に落ちたおかげで軽傷で・・・・ 」
宗一郎の声がひび割れ、言葉が途切れた、そしてようやく言葉を発した
「もう一人は・・・爆風をまともにうけて・・・重態・・・」
―どっちが?どっちなの?―
ジェニは言葉に出したかったが、それが出たのかどうかも分からなかった、一瞬目の前が真っ暗になり、近くにあった椅子にどさりと体を沈め、ひたすら吐き気と闘った
・.。. .。.:・
ジェニ達一行は、二台の車で竜馬達の入院している病院に向かった、一台は宗一郎の黒のレクサスに藤子が乗り、ジェニは豊が運転する、竜馬のレンジローバーに乗った、とてもではないが自分がジュニアに乗って運転する気にはなれなかった
きっと病院に着く前に、ジェニ自身がどこかに突っ込んでいるだろう、助手席に乗っているジェニの横で、豊が運転しながら宗一郎と話していた、運転席のスマホホルダーに取り付けられた、豊のスマホのスピーカーから宗一郎の声が聞こえる
『二人のうち・・・・ 軽症の方が意識を取り戻したそうだ・・・』
豊が大声で聞く
「どっちだ!!」
『・・・文也だ』
―ああ・・・神様 ―
ジェニの体は全身引きつり・・・両手で顔を覆ってうずくまった、思わず泣き声が出た
「・・・もう一人は・・・竜馬は? 」
豊が運転しながら聞いた、豊も声が震えていて、なんとかこの状況を受け入れようとあがいた
『・・・行ってみないとわからない』
「急ぐぞ! 」
帰宅時間の渋滞を縫って進んでいる、乱暴な運転にそこらじゅうの車がクラクションを鳴らした、ジェニの胸の内は千々に乱れているにもかかわらず、まともに言葉を発することが出来ない、身体が冷たくなっていくのを感じた
あまりに冷たくて、動きが止まり、何も感じなくなるほどになんとか声を振り絞った
「・・・ボートがそんなふうに爆発するなんて・・・よくあることなの?何が原因なの?」
「・・・ディーゼルガソリンというだけあってボート事態はかなり古かったのかもしれない・・・エンジンの劣化とか・・・ 一度5メートルほどの釣り船が沈没したのを見たことがある・・・ 琵琶湖じゃなかったけど・・・」
豊が冷静すぎる声でジェニに応えた、たぶんジェニと同じことをグルグル考えていたのだろう、それから車内は凍り付くような沈黙が流れた
竜馬さんが意識不明・・・・
血を流し・・・沢山の機械につながれて今手術を受けている・・・
ジェニはとても信じられなかった、あの無敵の彼が・・・ポロポロと涙が流れてくる・・・泣いても何も変わらない、強くならねば・・・
そう思っても、涙が後から流れてくる、揺れる車の中、考えられるのは彼の事だけ、弱り・・・鎮痛剤を流し込まれ・・・意識も無く・・・ もしかしたら・・・ああ・・・・考えてはダメ・・・
ジェニはシートベルトをギュっと握りしめた
―彼は死んだりしない、死なせやしない ―
病院までの道のりが・永遠の時が流れたような気がしていた
・.。. .。.:・
琵琶湖大橋近くにあるその病院は、滋賀県一のレベルの外傷医療センターで、水難事故にあった患者は必ずここに運ばれ、ほとんどの治療が施される設備が整っている大病院だった
二人はボートの破片と共に、湖に浮かんでいて救助ヘリに救出され、直接ここへ運ばれて来たそうだ
医療センターの巨大な敷地に散らばる建物の間を、車で進みながら、豊のスマホのスピーカーから宗一郎の声が再びした
『正面玄関横の駐車場に停めろ!』
ジェニが引きちぎるようにシードベルトを外すと、豊に体を押さえられた
「ちょっとまて!俺がちゃんと車を停めるまで飛び出すな! 危ない!」
豊が悲し気な声で言った、病院の正面玄関をくぐり抜けると、ジェニと藤子は小走りになり、宗一郎はその真横を大股で歩いた
受付で名前を言うと、二階のショック外傷集中治療センターに二人がいる事を告げられた
そこで分かったのは、二人は救助ヘリで無事にここに連れてこられ、患者二人は外傷蘇生チームの手に渡され、未だ治療は続いており、一人が意識を取り戻したということだけだった
ジェニ達はベージュの内装の待合室に案内されて、待つように指示を受けた
薄暗い待合室には、陰気な水槽が置かれ 、テーブルの上には、ボロボロの雑誌が積み重なっていた
待合室は下界と隔離されたような静けさで、小さな薄型テレビが地方のニュースを流していた
ジェニはぼんやりとテレビを見つめたが、そのテレビに琵琶湖が写るたびに吐き気を催していた
宗一郎はじっとしていられないようで、檻に入れられた熊のように、待合室を行ったり来たりした
やがてジェニの隣に座っている豊が宗一郎に隣に座るようにうながした
豊が宗一郎に何か囁きかけると、宗一郎は落ち着いて深呼吸を何回かし
観念して豊の隣にドカッと座った
コメント
1件
うわ、第126話、めっちゃ緊迫してたね…!ボート事故で竜馬さんが意識不明って、まさかの展開に心臓が止まるかと思った。ジェニのパニックと必死に気を強く持とうとする姿が痛いくらい伝わってきて、読みながら息を止めてたよ。藤子さんや宗一郎の反応もリアルで、この先どうなるのか気になって仕方ない…!続きが待ち遠しいよ。