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8 - 第8話 二の罪状② 昨夜の消去

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2025年05月21日

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※それでは次のニュースです。



昨夜(未明)、世田谷区在住の高瀬重造氏(48)が自宅内で倒れているのを、○○が発見し、病院へ通報。緊急に病院へ搬送されたが、まもなく死亡が確認された。

診断の結果、死亡原因は心筋梗塞であることが判明。

また、高瀬氏は世田谷区内で病院を経営しており、遺体が発見された自宅は病院と住居を兼ねている。


また、同、施設には~




液晶に映し出された無機質な表情の女性アナウンサーが、毎日星の数程起こる、その他大勢の死亡事項の一つを淡々と述べていく。どうでもいいのか表情を顔に出さない訓練を受けているのか、その作り物みたいな表情は、まるで機械的なアンドロイドだ。



ただ今回は普通の死亡二ュースでは無い。液晶画面の右下には“病院の闇?”とのテロップが張ってある。



無機質な女性アナウンサーは更に続けていく。棒読み台本口調で。



※尚高瀬氏は倒れる事前に、自病院で女性へ猥褻な行為を録画したDVDを鑑賞していた形跡が有り、家宅捜索でその他、数百本にも及ぶDVDが発見された事が明らかになりました。



警察ではこの病院との余罪を追求していく方針です。続きまして――



“ブチ”



殺風景な白い部屋内の、テーブルの向かいに置かれた、薄型25インチ液晶テレビの電源が意図的に落とされた。



「終わりだな、この病院も」



消えた液晶画面を尻目に、事の顛末を見届けたジュウベエは、この病院が終焉に向かう事を確信する。



叩けば埃はいくらでも出るだろう。少なくともこれ以上、此所から闇に紛れ消された被害が出る事は――もう無い。



ターゲットの消去のみならず、“世間への認知”の目論見は見事に達成という訳だ。



――――――昨夜――――――


※AM 12:36



************



「クヒヒ」



液晶画面に映し出された、病院内であろう診察室らしき場所。



其所にはビデオカメラで撮影されたと思わしき若い女性が、白い診察台に横たわっていた。



眠っているのか、女性はピクリとも動かず眼を閉じている。恐らく薬で強制的に眠らされているのだろう。



『では私ので診察しますからねぇ。すぐに良くなりますよぉ』



映像からは笑いを堪えているかの様な、掠れたダミ声の音声が届く。



カメラはその非道な行為の一部始終を捉えていた。



「いやぁ、堪りませんね」



液晶に映し出された映像を見ながら、肥満気味の中年男性が恍惚の吐息を漏らす。



この手の職業に多いのか定かでは無いが、例に洩れず毛髪が極めて薄い。



「また一つ、良いコレクションが加わりました」



その言葉から察するに、この非人道な行為は日常的な事らしい。



「勝手に金が入るうえ、選り取り見取り遊べるのですから……」



見てくれだけは豪華だが趣味の悪そうな、室内灯を落とした薄暗い応接間らしき室内には、彼の浅ましい姿と生理的に不快な音だけが、その空間を支配していた。



「病院経営最高ぉっ!!」



診察という名を借りた性的暴行。最も卑劣な行為。



男は歓喜の叫びと共に酔いしれている。



だからだろうか?



「ヒヒヒ……」



室内に己以外の何者かが存在しているのに、今の間際まで気付かなかったのは。



「ヒェッ!?」



男は不意に気配を感じて振り返った。



背後には闇に溶け込む様な黒衣と、それと相反する銀色の瞳が、腕組みしながらその中年男性を見据えていた。



「なっ……何だお前は! 何処から入ってきた!?」



男は突然の事に素っ頓狂な声を上げるが、それもその筈。室内の内側からは鍵を掛けており、云わば完全な密室なのだから、全く見知らぬ人物が背後に立っている等、混乱するのは当たり前だ。



「己の欲望の為に、他者を食い物にする壁蝨(ダニ)に存在する価値は無い」



その銀色は何が起きているのか分からず固まった表情の男を、まるで虫けらを見ているかの様な瞳を以て、冷たく言い放つ。



それは殺意という激情では無く、本当に道端に落ちてる只の物、もとい虫けらみたいに。



「だっ! 誰!! ムグォッ!?」



男が叫び声を上げきる頃には、既に『雫』の左手がその口を塞いでいた。



「フゴォッ! フゴォオッ!!」



まるで万力に絞められたかの様な圧力に、男は言葉にならない呻きしか上げれず、その瞳は恐怖で見開いている。



本能が突き刺す、迫りくる絶対的な“ある予感”に、躰中のあらゆる体孔からは脂汗が噴き出す様に滲んでいた。



「罪状、高瀬 重造。女性患者への診察と称した性的暴行、全て含めて1023件。医療ミスによる患者への意図的な死亡件数17件。全て把握」



『雫』が自分以外知り得ない行状を述べた瞬間、男の目が更に恐怖で見開かれた。



“殺される”



何故そんな事を知っているのか、今は考えてる暇も無い。少なくとも目の前の人物が、自分を殺しに来たであろう事は状況からして明らかだ。



この期に及んで逃れようと必死にもがく男を、『雫』は冷めた眼で見下ろしながら。



「よってこれより……“消去”を開始する」



『雫』の掲げられた右手に煌めく、蒼白くも冷たい輝き。



「フグォォッ! フグォォォォ!!」



口にした“消去”がどういう意味か馬鹿でも分かる。迫りくる絶対的な死に呻くしかない。



しかし無駄、無力、無意味。それは“人”の力で抗える訳がなかった。



『雫』の蒼白い右手が男の胸に押し付けられる。戒める様にゆっくりと。



「フグォォォォォッ!!!!!!」



その右手が触れた瞬間、言葉にならない呻きが上げられた。



刹那、蒼白い煌めきが更に輝きを増す。



“ドクン”



「――っ!?」



まるで胎内に不純物が入り込んだ様な感覚。



『雫』は塞いでいた左手を口元から離し、押し付けていた右手も戻す。



「ななっ……何をしたっ!?」



男はようやく口を訊ける様になったが、全ては後の祭。手を離したのは“消去”が滞りなく終了した事を意味していたからだ。



“ドクン”



「むっ……胸が!?」



突如何かが締め付けられる様な感覚に、男は胸を押さえて苦しみ出す。



「ぐっ……ぐるじいぃぃっ!!」



その押し寄せる止めどない激痛の波に、男はソファー型の椅子から転げ落ち、芋虫の様に床を這いずり回っている。



『雫』はその哀れな姿を、冷ややかな表情で見下ろしていた。



「お前の心臓は徐々に凍結していき、やがて完全にその動きを止める」



這いずり回る男に背を向けた『雫』は、これから起こる事の顛末を、無関心に告げる。



「その間の苦しみの中で、己の愚かさを噛み締め続けるがいい」



それは緩やかな時限式凍結。一瞬で絶命させない処がミソだろう。



“罪を憎んで人を憎まず”



そんな綺麗事等、偽善が産んだ只のまやかしに過ぎない。



“罪には罰を”



高瀬のこれまでの行状を垣間見れば、死に至る僅かな時間の苦しみ等、至極当然の応報なのかも知れない。



「ぞ……ぞんな! だ……だずげでくでぇ……」



苦しみに堪えかねた男の必死の懇願。どれ程の苦しみだろうか、男の目は飛び出さんばかりに血走り、歪みきったそれは、この世の者とは思えない表情だ。



「お前の断罪への消去は終了したーー」



そんな懇願等、聞く耳持たず。終焉を告げた『雫』の姿は、それと同時に室内から完全に消える。



ドアも窓からでもない。まるで煙の様に闇へと。



一人室内へと取り残された男は、震える手で胸ポケットにある携帯を取り出し、緊急番号を順に押していく。



“――死にたくない! 俺はまだ死にたくない!!”



この間、ほんの僅かな時間の行為だが、まるで途方も無い重作業。だが生への渇望がその指を動かす。



“――もっと金を……もっと女を!!”



「――ゥグッ!!」



ようやく通話ボタンを押した頃には、凍結は完全にその心臓を浸透しきっていた。

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