テラーノベル
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窓から差し込む柔らかな陽光と、遠くで聞こえる小鳥のさえずり。
重い瞼を持ち上げた穂乃果が最初に認識したのは、鼻腔をくすぐる濃厚なムスクと、肌を焼くような強烈な熱量だった。
(……そうだ。私、昨夜、ナオミさんと……)
昨夜の記憶が、濁流となって脳内に溢れ出す。
地響きのように胸に響いた、あの低い地声。大きな手に髪を梳かれ、視線だけで射抜かれた瞬間の背筋が凍るような戦慄。そして、何度も、何度も――。
二回戦のあとも、ナオミさんは「汗を流しましょう」と、けだるさに腰が立たなくなった私を軽々と抱きかかえ、バスルームへ連れ去った。湯気の中で、大きな掌が濡れた肌をなぞる感触を思い出すだけで、指先が震える。自宅に戻ってからも、彼は私の腕を離してはくれなかったのだ。
自分の肩に回された腕を見る。細いけれどもしっかりと筋肉がつき、浮き出た血管が脈打っている。女装の魔法が解けた、まぎれもない「一人の男」の腕だ。穂乃果は顔が沸騰するのを感じて、シーツの海に深く顔を埋めた。
「……っ、どうしよう……」
あんなに激しく、あんなに貪欲に求められたのは生まれて初めてだった。直樹との、あの事務的で冷めきった数年間は何だったのか。
心も身体も、文字通り奥底まで掻き乱されてしまった。
ふと隣を見れば、そこにはナオミ……いや、ケンジの、無防備な寝顔があった。
長い睫毛が影を落とし、いつもは傲慢なほど美しい弧を描く唇が、今はわずかに開いている。整った寝顔は、昨夜の捕食者の面影など微塵もなく、まるで宗教画のように神聖で美しい。
この完璧な造形が、自分だけに牙を剥き、自分だけに甘い吐息を漏らし、あんなにも乱れていたのだ。
悶絶しそうなほどの羞恥と、それを上回る圧倒的な幸福感。
けれど、真面目な穂乃果の脳裏に、ふと冷や水のような疑問が浮かび上がる。
(……ナオミさんは、昨夜のことをどう思ってるんだろう。これって、ただの勢い? それとも、彼にとっては『よくあること』なの?)
「女に興味がない」と言っていたはずだ。それなのに、あの淀みのない愛撫。あの、絶望的なまでに手慣れたテクニックと腰使い。
今まで、この溢れるような熱をどこで発散していたのだろうか。
「って、何考えてるんだろう……」
気持ちを曝け出していないのは自分だって同じだ。付き合ってもいないのに1度体の関係を持ったからと言って、追及するのは間違っているようにも思う。
(そうよ。昨日の事はちょっとした事故にでもあったと思って忘れちゃうのが一番!)
きっと、お互いの為にもそれがいい。
そう思いなおして彼を起こさないよう、音を立てずにベッドから抜け出そうとした。 だが、腰を浮かせた瞬間、シーツの下から伸びてきた逞しい腕が、逃がさないとばかりに彼女の細い腰をガシリと捉えた。
「……ん、どこ行くの。まだ早いじゃない」
「ひゃっ……!? な、なな、ナオミさん……っ」
引き戻された勢いで、穂乃果の背中がナオミの熱い胸板にぴったりと密着する。
昨夜、散々自分を翻弄した「男」の体温がダイレクトに伝わり、静まっていたはずの穂乃果の心臓は再び爆走を始めた。
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あや