TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


対策会議の翌日、エイバスの宿屋・野兎亭(のうさぎてい)の一室


ダンジョン行きの疲れが溜まっていたせいか、それともダガルガやウォードと遅くまで飲み過ぎたせいか……俺とテオは珍しく昼前まで寝ていた。




寝たいだけ寝て、スッキリした気持ちで目覚めた俺。


共同洗面所でサッと顔を洗ってから部屋に戻ると、ちょうどテオが頭から布団をすっぽりかぶって小さくうんうんうなっているところだった。


「……頭いてぇ…………」

自分のベッドから出ようとしないテオ。



――こいつ、寝過ぎか二日酔いだな……

そう直感した俺は【アイテムボックス】から水筒とコップを取り出す。


「水でも飲むか?」


「……飲む」

寝起きの少し低い声でぶっきらぼうに答えるテオ。

もぞもぞ起き上がってコップを受け取り、ゆっくり水に口を付ける。


「大丈夫?」

飲み終えて一息ついた頃を見計らい、声をかけた。


「……ちょっと落ち着いた。後は魔術で何とかなりそう」

「え? 頭痛って、魔術で治せるもんなのか?」

「うん…………ウィンドヒール



――ふわっ


瞳を閉じて集中したテオが魔術を使う。

うっすらと緑を帯びた風が彼を包み、そして溶けるように消えていった。



「……よっし!」

ぱぁっと表情が明るくなるテオ。


「治ったのか?」

「ああ! で、魔術で頭痛が治せるかってことだけど……結論からいうと『治せる』、だな。だけど回復魔術使用時には、攻撃魔術よりもずっと丁寧にイメージをしなきゃいけないし、けっこう仕組みが複雑なんだよねー」

「具体的にはどんな感じなんだ?」

「そうだなぁ……例えば大怪我とかは、人体の構造についての知識が無いと回復できないかな。専門性が高い魔術ってやつだねー。んで、ちゃんと勉強して“回復魔術を使いこなせるようになった術士”には『回復士(ヒーラー)』っていう特別な称号がつくんだよ!」


人体構造に知識が必要とか、まるで “医者” みたいだな。

ゲームでは『回復魔術=HPを回復する術』という認識で、他魔術同様イメージは必要なかったんだけど……どうやらここにも『神様補正』が働いていたのだろう。


テオによれば、この世界で仲間にヒーラーが居ない場合、用途別に細かく分かれた回復アイテム――怪我治療、解毒薬、頭痛薬など――を持ち歩き、目的に合わせて使い分ける形で対応しなければならない。

場合によっては面倒で、相当なお金がかかってしまうことも。

だからヒーラーもまたパーティメンバーとして重宝されているらしい。



「……で、さっき俺が使った『ウィンドヒール/風癒』は『ヒール系』って呼ばれる術式だよ。それぞれの属性魔力を癒しの力に直接変える、回復魔術の基本とされてる術式なんだ!」


ゲームにも『ヒール系』自体は存在していた術式だ。

ただし魔法攻撃力やLVが低い術者が使っても回復量はほとんど0に近く、「下手な術者にヒール系を使わせるぐらいなら、安いHP回復薬を使わせたほうがまし」というのがプレイヤーの常識になっていた。


「回復魔術の中じゃヒール系の回復量って申し訳程度なんだけどさ。かすり傷とか、火傷(やけど)とか、軽い頭痛とかみたいな“ちょっとした怪我や体調不良”ぐらいだったら、専門知識がなくても『だいたいこんな感じ!』っていうザックリしたイメージで治せるんだよね~」

「へぇ、そりゃ便利だな」

「だから俺みたいに『ヒーラーじゃないけど、ヒール系だけは使える』っていう術者がいっぱいいるんだ。本格的な回復魔術は勉強大変だけど、ヒール系魔術ならすぐできるはずだし、タクトも練習してみれば? いざって時に役立つかもよ?」

「……そうだな」



特に回復手段に関しては、現状はテオへ任せっきりになってしまっている。


手札が多いに越したことはない。

何が起こるか分からない以上……やれるだけはやっておこう。






朝食兼昼食の軽めな食事をとり、街の外へと出かけた俺とテオは、元々魔術練習によく使っていたおなじみのエリアに腰を据えた。

この辺りは他の冒険者達が寄り付かず、かつ魔物がほぼ出現しないうえ、森の中にも関わらず木々が開けた空間になっている。人知れず何かを試してみるにはうってつけの場所なのだ。


1週間後に出発する『小鬼の洞穴(こおにのほらあな)』リベンジに向け、急いで光魔術の攻撃威力UPを図らなければならないところではあるけれど……。


「……ウォーミングアップも兼ねて、先にほんの少しだけ『ヒール系』を試してみるか」




テオいわく回復魔術のポイントは、「元の状態をはっきりイメージし、それに近づけたいと強く思うこと」らしい。

だからこそ大怪我――特に体内の損傷――を治す際には、人体の構造を知っておく必要があるのだとか。

俺は早速、剣を振るい続けているうちにいつの間にかできた『右手の小さなマメの治療に挑戦することにした。

何気に痛くてちょっと気になってたんだよなぁ。


自分の右の手のひらをじっと見つめながら、「マメが出来ていなかった頃の姿」をしっかりと思い出していく。

大体イメージが固まったところで、事前に攻略サイトで確認しておいた詠唱を丁寧に唱えた。


「……穢れなき光よ。癒せ、ライトヒール」



――ほわっ



白い光がうっすら現れたかと思うと即座に消える。

と同時にさっきまであったはずのマメも、感じていたわずかな痛みも、跡形も無く消え去り、俺の手のひらは元通りになっていた。



「あ、治った……」

「すごいじゃん! 慣れたらこれもライトオーブみたいにもっと早く発動できるようになるからさ、ちょくちょく練習しておくといいぜっ」

「おう!」



初めての回復魔術。

まさか1回で成功するなんて……。


喜びと驚きが混じる中、俺は角度を変えつつ、治したばかりの手のひらを眺めたのだった。

loading

この作品はいかがでしたか?

105

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚