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対策会議の翌日。
エイバスの宿屋・野兎亭の一室。
ダンジョン行きの疲れが溜まっていたせいか。
それともウォードやダガルガと遅くまで飲み過ぎたせいか。
俺とテオは珍しく、昼前まで寝ていた。
寝たいだけ寝て、スッキリと目覚めた俺。
共同洗面所で顔を洗って部屋に戻ると、ちょうどテオも起きたところだった。
「……頭いてぇ…………」
布団をすっぽりかぶり、自分のベッドから出ようとしないテオ。
こいつ寝過ぎか二日酔いだな……。
そう思った俺は【収納】から水筒とコップを出し、水を注ぐ。
「水でも飲むか?」
「……飲む」
テオは寝起きの少し低い声でぶっきらぼうに答える。
もぞもぞ起き上がってコップを受け取り、ゆっくり水に口をつけた。
「大丈夫?」
飲み終えて一息ついた頃を見計らい、声をかけた。
「……ちょっと落ち着いた。後は魔術で何とかなりそう」
「え? 頭痛って、魔術で治せるもんなのか?」
「うん…………風癒」
――ふわっ
瞳を閉じて集中したテオが魔術を使う。
うっすら緑を帯びた風が彼を包み、そして溶けるように消えていった。
「……よっし!」
ぱぁっと表情が明るくなるテオ。
「治ったのか?」
「ああ! で、さっきの質問だけど……頭痛は回復魔術で治せるよっ」
テオによると、回復魔術で治せるのは怪我だけじゃないらしい。
頭痛、病気、疲労。
そういった体の不調にも、ある程度は対応できるという。
ただし、何でも簡単に治せるわけではない。
回復できるものは、スキルLVや術式、術者の腕で変わる。
そして攻撃魔術などに比べ、相当細かくイメージを固める必要がある。
例えば、大怪我。
体内の損傷を治すためには、人体の構造を知らなくてはならない。
とにかく専門性が高い魔術。
少し魔術をかじった程度で使いこなすのは、無理というわけだ。
「だからちゃんと勉強して、回復魔術に精通した術者には特別な称号がつくんだ」
「『回復士』、だよな」
「そー!」
まるで元の世界の医者みたいだな。
ゲームでは『回復魔術=HPや状態異常を回復する術』ってだけの認識だ。
だから勇者などが、片手間に使えば十分なケースが大半だった。
どうやら、ここにも『神様補正』が働いていたんだろう。
「……で、さっき俺が使った風癒は『癒系』って呼ばれる術式だよ。それぞれの属性魔力を癒しの力に直接変える、回復魔術の基本なんだ!」
『癒《ヒール》系』自体はゲームにもあった術式だ。
ただし、魔法攻撃力やスキルLVが低い術者が使っても回復量はほぼ0に近い。
なら安いHP回復薬のほうがまし、というのがプレイヤーの常識だった。
「でも回復量とかは期待できないだろ?」
「申し訳程度だね。でも擦り傷とか、火傷とか、軽い頭痛とかなら、専門知識がなくても、ざっくり『こんな感じ!』ってイメージだけで治せるんだよね~」
「へぇ、そりゃ便利だな」
「だから俺みたいに『回復士じゃないけど、癒系だけは使える』っていう術者がいっぱいいてさ。タクトも練習してみれば? いざって時に役立つかもよ?」
「……そうだな」
特に回復手段に関しては、現状はテオへ任せっきりになってしまっている。
手札が多いに越したことはない。
何が起こるか分からない以上、やれるだけはやっておこう。
*************************************
朝食兼昼食の軽めな食事をとり、森へと出かけた俺とテオ。
おなじみの修練エリアに腰を据える。
この辺りは他の冒険者たちが寄り付かず、かつ魔物がほとんど出現しない。
木々も開けた空間で、人知れず何かを試すにはうってつけの場所なのだ。
1週間後には『小鬼の洞穴』へのリベンジもある。
急いで【光魔術】の攻撃威力アップも図らなきゃではあるけれど……。
ウォーミングアップも兼ね、先に少しだけ『癒』系を試すことにした。
「回復魔術はさ、『元の状態』をはっきりイメージし、それに近づけたいって強く思うことがポイントなんだよ! ……タクト、どっか治したいとこってある?」
「手の『マメ』とか?」
「いけるいける」
剣を振るい続けているうち、俺の右手には小さなマメがいくつもできていた。
何気に痛くてちょっと気になってたんだよな。
右の手のひらをじっと見つめながら、イメージを固めていく。
この世界に来る前、まだマメが無かった頃の手のひら――
イメージが固まったところで、ゆっくりと詠唱を始めた。
「……穢れなき光よ。癒せ、光癒」
――ほわっ
うっすらと白い光が現れたかと思うと、即座に消える。
同時に、マメも痛みも跡形もなく消え去った。
俺の手のひらは元通りになっていた。
「あ、治った……」
「すごいじゃん! 慣れたらこれも光球みたいにもっと早く発動できるようになるからさ、ちょくちょく練習しておくといいぜっ」
「おう!」
初めての回復魔術。
まさか1回で成功するなんて……。
喜びと驚きが混じる中、俺は角度を変えつつ、治った手のひらを眺めていた。