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「初めまして、遊川 三葉です! 俺の事は空気とでも思ってください! お二人の邪魔はしないので!」
運転手を買って出たのは鬼龍組に入ってまだ半年程の新人、遊川 三葉、二十歳。
朔太郎が教育係を任されている組員の一人で、少々小柄で人懐っこく、髪の色も黒でピアスなども付けていない、真面目な印象を受ける。
見た目からはとても極道の世界に居るようには思えない男なのだが、実は彼は朔太郎同様体術が得意でとにかく身体が丈夫なのが取り柄という長所があった。
おまけに肝も座っていて物怖じしない性格なので、新人の中では将来有望視されていたりする。
そんな三葉は朔太郎を兄のように慕っているので、当然咲結の事も兄貴分の大切な女性として何かあれば身体を張る覚悟を決めていた。
「こちらこそ初めまして、橘 咲結です。今日はよろしくお願いします」
二人は初対面ということで挨拶を交わすも、実は一度顔を合わせた事があり、視線が合った瞬間それを思い出した。
「あれ? 遊川さんってもしかして、あの時駅に居た……」
「あ! 咲結さんはあの時の!」
二人が出逢ったのは咲結が優茉と完全に決別したあの日、駅前で怪我を負っていた組員と柄の悪い男の間に割って入っていたあの一件での事。
かなりの怪我を負っていたあの男こそ、三葉だったのだ。
「あの時はすみません……あれのせいで咲結さんの事が界隈に知れ渡ってしまって……」
「そんな、あれは遊川さんのせいじゃないですよ、私が軽率な行動を取ったせいですから、気にしないでください」
二人は互いに自分が悪かったと言い合っていると、
「まあもういいじゃねぇか、そんな話は。三葉、とりあえず隣町のショッピングモールにでも頼むよ。飯も食いてぇし。いいよな、咲結」
「あ、うん」
「分かりました! それじゃあそこへ向かいましょう」
こうして三人は隣町にある大型のショッピングモールへ向かう事になった。
車を走らせること約四十分、ショッピングモールへ辿り着いて駐車場に車を停めると、朔太郎と咲結が車を降りる中、三葉だけは運転席に座ったまま。
「遊川さんは、行かないんですか?」
それを不思議に思った咲結が声を掛けると、
「お二人の邪魔は出来ませんよ! 俺はあくまでも運転手役なので、ここで待機してますから、楽しんできてください!」
ニッコリと笑顔を浮かべながら楽しんで来て欲しいと告げた三葉。
「……でも……」
それを聞いてもなお、一人残していく三葉を気に掛ける咲結を前に朔太郎は、
「三葉、お前も一緒に来い。腹減ったろ? ひとまず三人で飯食おうぜ」
三葉に車から降りて付いてくるよう言いつけた。
「いや、けど……」
「いいから、来いって。咲結も、それでいいよな?」
「うん」
「そういうこと。ほら、三葉、行くぞ」
「あ、はい! 今行きます!」
こうして三人で店へ入って行き、レストラン街を歩きながらどの店へ入るかを話し合う。
「咲結は何がいい?」
「えっと……パスタとか?」
「んじゃ、この店がいいな。おい三葉、ここで良いか?」
「はい! 俺はどこでも!」
「さっくんも、ここで良いの?」
「おう」
話し合いと言ってもほぼ咲結主体で店を選んだ朔太郎。
パスタやピザなどの料理が食べられる店に決めた三人は案内された席へ着いた。
「あの、俺なんかが一緒で本当に良かったんですか?」
開口一番に発言したのは三葉。
デートをしている二人の邪魔になっていると気にしているようなのだが、
「あの、もしかして誘っちゃ駄目だったの?」
三葉の言葉を聞いて申し訳無さそうな表情を浮かべたのは咲結だった。
「別に、駄目って事はねぇけど、まあ、俺らの間で送迎役はあくまでもそれだけを遂行するのが普通ってだけ」
「そう、なんだ……でも、運転だけしてもらうなんて申し訳無いし、ご飯はみんなで食べる方が絶対楽しいよね?」
「そうだな。つーわけで三葉、もう気にすんな。けどまあ、飯食った後暫くは別行動な?」
「は、はい! ありがとうございます! 勿論! 食事の後はお二人で色々見て回ってください!」
何とか話も纏まり、納得出来た三人は複数の品を注文すると、シェアしながら食事を楽しんだ。
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