「よし、誰も居ないな……。」
俺は辺りを見回して誰も居ないことを確認すると、こそこそと本丸のゲートへと向かう。
誰かに見つかりでもしたら、即引きずり戻されてしまうので慎重に。
途中で腰に提げた木刀が障子に当たって音を立てそうになったが、ギリギリ当たらずにほっと息をついた。
庭の内番の刀剣達も、今は休憩で光忠のところに菓子をもらいに行っているのは把握済みなので、俺は堂々と庭へと出る。
そして少し浮き足立って本丸のゲートへと向かうと、慣れた手つきでパネルの操作をした。
行先は函館だ。
ゲートの先の風景が歪み、函館へと繋がったことを確認すると俺はゲートへと足を踏み入れた。
ちなみに俺が何故 無断で1人、戦場へと向かっているのか。
それはとても明快単純な事である。
自分も本丸の主として役に立ちたかったのだ。
末席とは言えど、神に力を貸してもらいながら自分は式神越しに本丸という安全な場所で待機とはなんと情けないことか。
刀剣男士と同じ成果を出せというのは無茶だが、せめて函館辺りの戦場ならば少しづつでも資材を集められるのではないかとやってきたのだ。
ちなみに最初は素直に本丸の刀剣達に話したのだが、秒で却下された。
解せぬ。
そして瞬きもしない内にゲートで転移する時の異物感が消え、目を開くとそこは既に函館の戦場だった。
「へえ、ここが………」
戦場なのか、と言おうとした俺の視界に黒い影が映り、その瞬間 俺の頬に赤い線が走る。
「…ッ!」
俺は驚きはしたが すぐに木刀を構え、その陰へと向き直った。
そこに居たのはやはり、短刀を加えた骸骨の様な生き物………時間遡行軍の短刀である。
「おお……やっぱり実物は違うな。」
思ったより大きく迫力があることに、俺は思わず後ずさる。
何より見た目が骸骨なので硬そうだ。
少し木刀なんて甘っちょろいものを持ってきたことに後悔したが、本丸に付喪神の宿っていない真剣などないのだから仕方ない。
というか、戦闘系でもない審神者が戦場に赴くこと自体とんだ自殺行為である。
それを知るのか知らないのか、嘲笑うように相手の眼球などないくぼんだ瞳が俺を捉える。
そして合図もない中、示し合わせるように3振りの短刀全てがこちらに襲いかかってきた。
「マジか……初めての出陣の時は一振ずつしか攻撃してこなかったじゃねーか!」
どうやら俺がなんの力も持たないか弱い審神者だと知っているらしい。
勿論それは俺も知っている、だが俺はここで逃げる訳にはいかないのだ。
少しでも資材を集めなければ、あの時の鶴丸ようなことが起こらないようにする為にも………
俺は覚悟を決め、目の前の敵を見据える。
そして木刀を構え……
「おいおい、いくら具現化されたばかりの刀剣向けと言えど、人間が生身で戦場に来るなんて無防備過ぎやしないかい?」
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続きが待ち遠しいです!(*∩∀∩*)ワクワク♪