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ホテルの荷物預かりは朝六時から可能なので、私たちは大きい荷物を預けてここにいる。
「早くきなしゃんせ、……と」
私は恵にメッセージを送り、「てやっ」と送信する。
それから、二個目のおにぎりを剥いて食べ始めた。
「ツナマヨ二個か」
「ツナマヨは鉄板ですね。いつも二個目を明太子、いくら、シャケ辺りでローテーションしているんですが、今日はツナマヨ欲が強かったです。そうだ、昔、手巻きおにぎりで海老マヨネーズってありませんでした?」
「あー、確かにあったかも」
「今はツナマヨか納豆か、ネギトロか……、みたいな感じですね」
「コンビニって気に入った商品ができても、相当な鉄板ネタじゃないと、いつの間にかなくなってるよな」
「それ~!」
私は激しく同意を示したあと、最後の一口を口の中に放り込む。
「お待たせ~」
その時、ホクホクした恵がやってきた。
彼女はベージュのカーヴィパンツに紺色のTシャツ、ジージャンに黒スニーカーだ。
パンツのゆるっとしたシルエットや、大ぶりなリングのピアスが恵の雰囲気にとても似合っている。
「お待たせ」
同時に片手を上げて到着したのは涼さんだ。
彼はクラッシュデニムにブランド物らしいロゴの入った黒T、その上にスウェット地のジャケットを着て赤いスニーカーを履いている。
同時の登場となった恵と涼さんは、「ん?」という顔でお互いを見ていた。
「えっと、恵。こちらが三日月涼さん。涼さん、こちらが私の親友の中村恵さん」
私は両手を胸の前でクロスさせ、二人を紹介する。
恵は目をパチクリとさせて高身長の涼さんを見ていたけれど、「ども」と頭を下げる。
涼さんもまた恵を見ていたけれど、いきなり質問しだした。
「ちなみにポテチ、焼き鳥はどっち派? チョコレートはビター? ミルク?」
「のり塩、塩、ミルクです」
「仲良くなれそうだ」
頷いた涼さんは、握手のために手を差しだし、恵はよく分かっていない顔をして彼の手を握り返した。
「好きな酒は?」
「えぇ……? ビールと焼酎、日本酒、ワインとカクテルです」
「好きな季節は?」
「近年は暑すぎるけど夏」
「よし、仲良くなれそうだ」
涼さんはもう一度同じ言葉を繰り返し、ギュッギュッと恵と握手をする。
恵は思った通り困惑した顔をしていて、尊さんはそんな彼女に向けて顔の前で手を立ててチョンチョンとし、「すまん」と謝っている。
「とりあえず、並ぼうか」
尊さんが言い、私たちはゾロゾロと列の最後尾に向かった。
その途中、恵がヒソヒソと囁いてきた。
「涼さん、変わった人だね」
「……まぁね。でも悪い人じゃないと思うから、二泊三日、宜しく」
「まぁ、いいけど。……その代わり、今度パンケーキかヌン活か、デートしてよ?」
「了解」
私はグッとサムズアップし、恵と手を繋いでブラブラさせる。
そんな私たちを見て、涼さんが言う。
「『乙女の港』か?」
「三角関係じゃないだろ」
川端康成の作品を出されて突っ込んだ尊さんに、涼さんはまじめな顔で言う。
「みと子?」
「ぶふっ」
まさかの私と尊さんしか知らない〝みと子〟の登場に、私は思わず噴き出した。
そのあと、開園時間の九時まで、のんびり話して交流する事になった。
私は恵の事をざっくり紹介し、中学生から一緒で同じ篠宮ホールディングスに勤めている、ちょっと前まで同僚だった親友だと涼さんに伝える。
すると涼さんは、尊さんが色々手を回していた事も知っていたみたいで、「ははーん」みたいなしたり顔で恵を見ていた。
というか、長年私を見守っていた件は、尊さんとしてはあまり人に言いたくない話だろうに、知っているという事は涼さんに相当心を砕いている証拠だと思った。
それは恵もなんとなく雰囲気で察したらしく、上っ面の友達ではないから、そう変な人でもないと安心したらしい。
……いや、変な人なんだけど、信頼できる人というか。
その点については、私としても安心した。